105
「アフロディさんとデートしたぁ!?」
「春奈ちゃん声大きい」
次の日、本日のメインイベントである女子限定のショッピング。一通り見たいところを見終えて休憩に入ることにした私たちは、フードコートでのんびりとお茶していた。そこでふと、秋ちゃんに昨日の用事は何だったのかと尋ねられて答えた結果の春奈ちゃんの悲鳴のような叫び声。
「デートだけどそんなやましいものじゃないよ。大親友だもん」
「薫先輩の恋愛ごとに関する自己申告は信用しないって言ったじゃないですかッ…!」
「私の信用無さすぎでは」
えぇ…でも照美ちゃんとは本当に男女の垣根を超えた友達だと思っているし、本人も私を女の子としてエスコートはしても露骨な女扱いはしてないんだよね。プリクラ撮った時もワクワク顔の照美ちゃんにより真っ先に書かれた文字が「大親友」「友情不滅」だったので。そこまで気にすることは無いのでは?
「…でも、たしかに薫さんは好きな人は居ないのかしら?」
ふとそこで、夏未ちゃんが純粋な疑問だと言わんばかりに首を傾げて口を開いた。思わず虚をつかれてしまい、目を瞬かせる私に春奈ちゃんがイキイキとした目でこちらを見てくる。その様子を見て秋ちゃんは苦笑い気味だ。
「そうですよ!…本当は認めたくないですけど、最近仲の良い豪炎寺先輩は!?」
「…豪炎寺くん?」
…豪炎寺くんの名前を出された途端に、まるで走馬灯が巡るがごとく脳裏を様々な記憶がフラッシュバックしていく。
夕焼けの中、「頼ってくれ」と微笑んで寂しそうな顔をしていたこと。
瓦礫の降り注ぐ研究所のグラウンドの真ん中、危険を厭わず駆け寄ってきてくれた必死な顔。
…たしかに私は、豪炎寺くんのことが好きだ。少なくとも、サッカー部の中でただ一人を除けば一番だと言っても過言では無いほどに、何故だか今や私の中でのその存在感はとても大きい。…でも。
「豪炎寺くんのことは好きだよ」
「やっぱり…」
「…守と同じくらい、だけど」
三人が目を丸くする。しかしそれ以外に言いようが無いのだ。私にとってこれまで一番大事で、支えたくて、何よりも強くて大きい気持ちを抱いていたのは守にだけ。それは私たちが双子だからだと思っているし、実際誰が聞いてもそう思うだろう。…そして、豪炎寺くんへの気持ちは、そんな守への思いに似ているような気がした。
側にいたい。優しくされると嬉しいし、辛い時や悲しい時は側に居て欲しい。挫けそうな時は支えてあげたい。…ならそれは、きっと恋じゃない。
「豪炎寺くんは、大事な友達だよ」
豪炎寺くんに対してのこの想いは、佐久間くんや照美ちゃんとは違う、家族に近い友情だと私は断言する。それは、風丸くんに対する安堵感とも違って。
ときどき心臓が可笑しな音を立てて高鳴るのもきっと、それが血の繋がらない他人であるから。
「うん、大好きで大事な、友達」
…そうでなきゃ可笑しいと、何故だか心の奥底に居る私が叫んでいた。
*
「…大丈夫か?」
「割とだいじょばない…」
次の日の早朝、修学旅行当日。六時前に学校のグラウンドに集められた私たちはクラスの班ごとに並んで先生たちからの指示を待つ。もちろん遅刻なんてしなかったし、何なら守も今日ばかりは寝坊することなくサッサと起きてくれたのだけど問題は私の体調面。
昨日の女子会中の言葉が何となく気になって仕方なくて、早く寝なければいけないことは分かっていたのに気がつけば朝四時になってしまっていた。可笑しいな、寝たのは九時のはずなのに。
「何か悩みでもあるのか?」
「んん…悩みと言えば悩みなんだけどね…」
「…俺には話せないか」
ちょっとしょんぼり豪炎寺くん。だけどごめんね、流石に私も君のことで悩んでるだなんて口が裂けても言えないんだ。割とこれは私にしては珍しくデリケートで女の子らしい悩みだから。
そもそも人を特別な意味で好きになるという気持ちが分からない恋愛ポンコツの私。初恋があった覚えさえ無いのだからそれは重症だ。なるほど、春奈ちゃんからの信頼の無さも頷けるわけだね。
「どちらかと言うと女の子向けの悩みだから…」
「あぁ…それは流石に、そうだな」
そう言えばさすがの豪炎寺くんも納得顔。後ろから高速肩タッチしてくるのっちたちが「その話詳しく」と説明を求めているけどまた後でね。今は先生の話を聞こう。
それにしても、バスの席も班ごとか。守の隣は秋ちゃんを猛プッシュしておくとして、豪炎寺くんは男子同士半田くんと座るだろうから私はあの三人の誰かの隣に座らせてもらうとしよう。そう思って振り返ったら何とびっくり。のっちと半田くん、まきやんとしののんのペアが既に出来上がっていた。今、正直言って豪炎寺くんの隣はちょっと思うところがあるんだけどな…。のっちと半田くんそんなに仲良かったっけ。まぁいっか。何故かそんな半田くんはピースサインしてるけど。
「そういうことだから豪炎寺」
「牧場でソフトクリームな豪炎寺」
「………お前らな」
何かしら怪しい取引をしている半田くんたちに首を傾げてしまう。でも駄目だ、眠気で頭が回らない。朝には強い方だというのにこの様はどういうこと。
あちこちにふらつきかけながらも、豪炎寺くんに背を押されたり守や秋ちゃんに手を引かれながら何とかバスへ向かう私。いつもとは逆だ、と守が笑っていた。そうだね…。
「大丈夫なのか薫…?」
隣のバスに乗り込むらしい風丸くんに引きつった顔でそう言われたのだけれど、私はもう眠すぎて何と返したかも覚えていない。呪文か、という呆れたような半田くんの突っ込みは覚えているけど。
とりあえず風丸くんを安心させるために親指だけ立てておいてバスの中へ。豪炎寺くんが窓際を譲ってくれたので、ありがたく座らせてもらうことにした。たぶん、車内で寝るからね。通路側だと倒れる可能性がある。
「豪炎寺くんが最悪壁代わりになってくれるはず」
「俺は布団か何かか?」
でも、最悪肩を枕にして良いと仕方なさそうに微笑みながらの仰せだったので豪炎寺くんは結局優しい。何故かその微笑みに一瞬キュッとなった心臓に思わず呻いてしまったけれど、どうやら眠さゆえの呻きだと判断されたらしい。良かった。…でも本当にどうしたものかな、これは。