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「それと、今日からイナズマジャパン内で選手の管理を彼女に任せる」
「大体の人は知ってると思うけど改めて。イナズマジャパン監督補佐を務める円堂薫です。選手と監督の繋ぎ役になるから、何か分からないことは私に聞いてね」
「監督補佐ぁ!?」

選考試合への説明後、チーム分けの発表を行ってから監督に私の紹介をしてもらう。みんなは私のことをどうやらマネージャーをするものだと思っていたらしく、守なんて素っ頓狂な声をあげていた。そりゃまぁ言ってなかったしね。

「監督補佐って…何をするでヤンスか?」
「そんなに大したことじゃないよ。監督からの指示をみんなに伝えたり、選手について監督の目の届かないところを管理したりとか色々かな。あとこれは無いと思うけど、監督がどうしても急用で試合に出られないときは監督代理もするよ」

大会の扱い的にはどうやらコーチに近いらしい。まぁ、監督が試合に出られないなんて滅多に無いことだし実質私の仕事は前者のことくらいだろう。むしろ、選手の管理こそが一番大変だと思ってる。自分でだいたい考えたとはいえ、選考試合のチーム分けなんて苦難困難だらけだしね…。
その日はその場で解散することになった。合宿所の準備が終わるのはちょうど試合当日だそうなので、とりあえず遠方から来た人たちにはホテルを用意してある。その案内を済ませてようやく一息つけば、そこで鬼道くんと佐久間くんに話しかけられた。…予想はしていたけど、どうやら不動くんのことについてらしい。

「何故不動が候補に選ばれているんだ…!!」
「…そこはもう、響木監督に聞くしかないかな。私もこれで良いのか何度も確認したけど、監督が考えを改める気は無かったからね」
「…あのチーム編成を決めたのは、お前か?」
「一応」

鬼道くんと不動くんは同じチームにしてある。響木監督曰く、不動くんも司令塔的役割を果たせる選手だと聞いていたからだ。…これは内密な話なのでみんなには説明出来ないのだけれど、本来なら二人を離して一チームに一人司令塔を置くのが普通かもしれないところを、私はその司令塔が同じチームに二人いた場合の試合展開を見てみたいという理由でチーム編成をわざと偏らせた。そしてそれはどうやら久遠監督も同じ考えだったようで、私の出したオーダーについて理由を聞いた後は一つ頷いただけで何も言わなかった。
鬼道くんからの問いかけに曖昧に答えた私に痺れを切らしたのか、佐久間くんが険しい顔で私に問い詰める。

「お前は…不動のしたことを何とも思わないのか!?」
「そんな訳ないでしょ。立場的に公私混同してないだけで、区別ついて無かったら今頃助走つけて一回は殴ってるよ」
「お、おぉ…?」

佐久間くんしかり、源田くんしかり。鬼道くんのこともそうだけど、一番の私の地雷を彼は踏んでいる。染岡くんのことだ。
おのれ不動明王。うちの自慢のストライカーの足を一時的とはいえ、潰すような真似をよくもしてくれたな。しかもそれが事故ならまだしもわざとだと聞いているので怒りは頂点に達している。

「まぁ、今はとりあえず選手としか見てないかな。二人の気持ちが分からないわけじゃないし、許せとは言わないよ」
「…あぁ」
「練習、頑張ってね。いろんな都合で鬼道くんチームに顔を出すことが多いと思う。じゃあね」
「分かった」

鬼道くんチームには宇都宮くんが居るしね。…豪炎寺くんも居るけど、さっき普通に接すると決めたばかりだから気にしない。気にしたら駄目。
それよりも、明日は帝国学園と雷門中を行ったり来たりしなきゃいけないからハードスケジュールになってしまう。そのためにいろいろと出来ることを今のうちに済ませておかなきゃ。





次の日、とりあえず私がまず顔を出したのは守のチーム。コミュニケーション能力がすごい守がキャプテンを務めているからか、チーム内の空気はとても良い。一部、初めてみる顔も居るからコミュニケーションの取り方に苦戦していたようだけど…まぁ、飛鷹くんの場合は仕方ない。
何せ、彼は代表候補選手の中で唯一の初心者だ。元不良のトップを張っていた人らしく、その凄まじい脚力を見込んだ響木監督が喧嘩の現場で直接スカウトしたのだとか。…喧嘩の現場…?

『飛鷹?あぁ、あいつか。前にちょろっと面倒見てたから知ってるぜ』

響木監督からもらった資料に元不良と書いてあったのを見たときはもしやと思い、しののんのお兄さんである貴久くんに聞いてみたところ見事にビンゴ。まさかのお知り合い。目上へは礼儀正しく目下の面倒もしっかりと見る、義理堅い人らしい。貴久くんもお気に入りの後輩らしく、サッカーをするらしいと教えたら嬉しそうに笑っていたから本当なのだろう。

「飛鷹くん」
「何ですか」

そしてそんな彼にとって監督補佐である私も目上の人間に当たるらしく、同じ歳なのに敬語を使われてしまう。守にも最初は舐めた態度を取っていたらしいが、自分のチームのキャプテンとなってからは礼儀正しい。

「これ、響木監督から頼まれて作った練習メニュー。無理だけはしないように、頑張って」
「はい」

響木監督はどうやら飛鷹くんの将来性を買っているらしく、まだ選ばれるとも決まっていないのに私に練習メニューを作るよう頼んできた。
…この代表チームのメンバーを選ぶのは響木監督でも、最終的な決定権は久遠監督にある。何せ指揮をするのは久遠監督なのだ。ちなみに私に口出しする権利は最初から無い。

「不調が出たらすぐに練習を止めて私に連絡すること。チームには秋ちゃんもついてるから心配無いとは思うけど、本当に怪我だけは気をつけるんだよ」
「分かりました」

マネージャー陣は守のチームには秋ちゃん、鬼道くんのチームには春奈ちゃんがついている。目金くんはというと、双子の弟の一斗くんと同じチームではやりにくいということで主に守のチームへついていた。…そして夏未ちゃんは、今頃飛行機で空の上だろう。

『私、留学するのよ』

雷門中を代表チームの拠点として使うことに対しての許可を取るついでに、夏未ちゃんをマネージャーの一員に誘うために話を持ちかけて返ってきた答えがこれだった。
海外留学。前々から考えていたのだという夏未ちゃんに、私はそれ以上は何も言えなかった。寂しい気持ちはあるけれど、それよりも夏未ちゃんにやりたいことがあるのならそちらを是非とも頑張って欲しいとも思ったから。

『本戦への応援には行けるわ。…頑張ってね、薫さん』

夏未ちゃんだってきっと、チームを近くで応援したかったはずだ。だって、これまでもずっと雷門中のマネージャーとして、チームの一員として一緒に頑張ってきたのだから。
…だから、今の私がそんな夏未ちゃんに出来ることはただ一つ。アジア予選を勝ち抜き、本戦へ出場すること。それだけだ。





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