14


土門くんは割とロードワークをすることが多い気がする。体力強化を重視する私からすれば、諸手を挙げて歓迎すべき取り組みなのであるけれど、欠点を挙げるとすれば連絡が取りにくいというところだろうか。今も外周しに行ってしまった土門くんに練習場所の変更を告げる為に校門を出て追いかけようとする。しかしそこで電柱裏で何やら意味ありげにほくそ笑む鬼道くんを見つけてしまった。とりあえず遠目から携帯でぱしゃりと撮っておく。遠くから見てても面白い。しかし、なぜあんな狭いところに居るのだろうか。とりあえず話しかけてみる。

「また偵察?そんな電柱の裏に雷門中の強さの極意はさすがに無いよ」
「おまっ…」

私が居るのに心底驚いたような顔をされたが、私は別に未確認生命体ではない。むしろ未確認生命体はなぜか電柱裏に居る君の方だ。
もう一度「偵察?」と尋ねれば、どこか引きつった顔で何やら誤魔化すように「そんなところだ…」と答えた鬼道くん。そういえば、偵察しにきた他校チームの処理について話し合ったことはないな…。なんかこう、記憶を奪う為に良い角度をつけて衝撃を与えるとか、催眠術で上手く忘れさせるとか…あぁ尾刈斗中の人たちに催眠術の極意でも聞いておけば良かった。

「とりあえず斜め45°あたりで手刀を入れてみてもいい?」
「何故良いと思った?」
「駄目かぁ」

ちょっとドン引かれた気がするけど、それはだいぶ失礼だと思う。とりあえず今度半田くん辺りに実験台になってもらって手刀の練習をした方が良いのかもしれない。でも鬼道くんは普通に喧嘩でも強そうだよね。私も腕に自信はある方だけど、果たして倒せるだろうか。

「倒す前提での話なのか…?」
「ちょっと、こう、ギュッとして…ねぇ?」
「絞りあげるなその手の動きをやめろ…!」

やめろと言われても。両手でちょっと雑巾絞りの要領でギュッとしただけである。どこをギュッとした仕草だったのかはさすがに言わないけど、まぁお察しというやつだ。しかし、そこまでドン引きしていた鬼道くんは携帯のカメラを起動させている私に気がついて、少しだけ厳しい顔をした。何かを探るような視線で私に問いかける。

「…何を撮った?」
「お、分かる?すごいレアショットだよ。なんとあの帝国キャプテンが電柱裏で何やらほくそ笑んでる写真。ふふ、面白かった」
「今すぐ消せ」

やだよ。せっかく良い写りしてるのに。そしてやはりちょっと恥ずかしかったんだな?ちょっぴり焦ったような様子で迫ってくる鬼道くんや。年頃の男の子みたいで、いつものふてぶてしい顔よりもそっちの方が魅力的だと私は思うよ。
しかし、別に私はこれをアッサリと消してしまっても良いのだけれど、簡単に消してしまってもつまらないので、その代わり条件というものを出させてもらうことにしよう。

「この写真を消す代わりに連絡先交換しよ」
「…お前と俺がか?」
「ついでに佐久間くんにも教えておいて。要らなかったら捨てても良いよって言ってくれていいから」

それくらいなら…としぶしぶ赤外線通信で連絡先を交換してくれた鬼道くん、実はちょろいな?そして約束通り、目の前で先ほど見せた写真を消して見せれば、ようやく安心したように息を吐いていた。安心してね、ちゃんと約束を守る女だよ、私は。

「そういえば友達なのに、連絡先も知らないなんてどういうことだと思ってたの」
「…友達?俺と、お前がか?」
「嘘…私の…私の大事なものを二つも受け取っておいて…?まだ私たちは他人だというの…?」
「俺は塩飴しか受け取っていないが」
「塩飴フレンドだよいえーい」

両手をあげたのにハイタッチしてくれなかった。しかも何か救いようのない馬鹿を見るような目で見られた。私はとても悲しい。でも鬼道くんとは最初のイメージが最悪であれ、本質は正しいものを正しいと判断できる常識人のようなので仲良くはなってみたいと思ったのだ。今はまだ無理やりこじつけただけの友人関係だけどね。

「偵察なら堂々と来なよ。お茶は無いけどスポーツドリンクくらいなら出すよ」
「…必要ない」

そう言うとスタスタ歩き出してしまう鬼道くん。彼と仲良くなるのは難しいのかもしれない。仕方がないので私はさっそく鬼道くんへの初めてのメールを作成し、写真を添付して送信した直後にみんなの元へ走り出した。逃げるが勝ちだ。
「話が違うぞ!!」という怒鳴り声が後ろから聞こえたような気がしたけど私は知ーらない。私は一応のために二枚撮ってただけで、二枚とも消せだなんて鬼道くん一言も言わなかったもんね。爪が甘いぞ司令塔。





私がもらってきたノートから守が決定した、対野生中戦への必殺技の名前は「イナズマ落とし」というものだった。まるで幼児の落書きのような絵にみんなで唸りながら考察しつつも、本日ピカイチの答えを導き出した豪炎寺くんによれば、これは二人で一つの技だという。
まずボールを高く蹴り上げた後、一人目が大きく跳躍。次に二人目がそんな一人目を踏み、飛び台にしてさらに高く飛んでオーバーヘッドシュート。随分と空と仲良くなれそうな技である。
使う選手は一番ガタイの良い壁山くんと、このメンバーの中で不安定な空中でもゴールを決められそうな豪炎寺くんに決定した。

「タイヤは死ぬほどあるからね。大きさも選り取り見取りだよ、壁山くん」
「お、重いっス…」

まずは踏み台となる壁山くんのジャンプ力をつける為の練習だと、守と壁山くんの身体にタイヤという重りをつける。何だかドーナツを重ねたみたいになってしまったが、とても重いに違いない。現にもう壁山くんは苦しそうだ。
あちら側では既に豪炎寺くんの高所からのオーバーヘッドシュートの練習が始まっている。春奈ちゃんには壁山くんたちを任せて、私は豪炎寺くんたちのサポートをする予定だ。

「でも…普通の靴で練習した方が良いんじゃない?スパイクのままだと腕に刺さって痛いんじゃ…」
「本番はどうせスパイクだろ?慣れない靴でするもんじゃねーよ」
「それに俺たちが受ける痛みは一時のものだ。壁山はこれから先俺たち以上に踏み台としての負荷をかけられるからな。負けられないよ」

踏み台の代役となったのは、染岡くんと風丸くんの二人。腕は、ジャージがボロボロになる可能性を考えて剥き出し状態のまま。一応、救急箱もアイシングも用意してあるけれど、どうか痛い時は痛いと申告して欲しいものだ。…それに。

「うぐあっ」
「大丈夫!?」

屋外でマットなんてものは敷けないから、失敗した時は地面に体を打ちつけてしまう豪炎寺くんの体も心配だ。現に今も地面に打ち付けられたおかげで思い切り咳き込んでいて、危うく骨を折らないかハラハラしてしまう。しかし本人もこれを気丈に振る舞うから強く止められない。向こうの壁山くんたちもなかなか難航しているようだし、この特訓、なかなか幸先が不安なものである。

「一旦休憩しようよ、みんな消耗が激しいよ」
「…そうだな、そうするか」

少しずつ形にはなってきたものの、なかなか上手くいかない三人に声をかけて、休憩タイムを入れる。今日は特別に私が握ったおにぎりを差し入れにしてある。特訓チーム専用のおにぎりだ。他の人はゼリー。差別では決して無い。
お腹も空いていたのか、次々にペロリと平らげられていく弁当箱を見ていると気持ちがいいね。守の食べっぷりとそう変わらないや。食べながらの治療では悪いが、風丸くんの腕に湿布をしながら顔をあげれば、豪炎寺くんは少し思い詰めたように眉を寄せている。

「あんまり焦っちゃだめだよ、豪炎寺くん」
「!…あぁ」
「時間はまだあるし、堅実に行こう」

簡単な目標設定はしてあるので、あとはそれに沿って少しずつ前進するだけだ。技の成功の前に怪我をしていたら駄目だし、その辺りの練習は慎重にしていこうね。

「それに、焦りすぎて味方のパスを奪っちゃうことになったらアレだしね」
「…馬鹿にしてんのかお前」
「別に誰とは言ってないなぁ。いったい何岡くんなのかなぁ」
「てめっ…!」

頬を引きつらせている染岡くんに、風丸くんの後ろに隠れれば、風丸くんには呆れたような顔で笑われてしまう。しかし、肝心の豪炎寺くんも気が抜けたように微笑んでいるから作戦成功。犠牲はちょっと私の頭のてっぺんがチョップされただけ。痛い。





TOP