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試合が再開した。まだみんなのやる気も根気も続いてはいるものの、それよりも遥かにネオジャパンのディフェンスの壁が高い。何より砂木沼さんの指示力。だからこそあえてキーパーでもフォワードでもなくミッドフィルダーにいるのだとようやくここで理解できた。そしてなおかつその的確な指示に見事応えてみせる他の選手たちの技量。そのおかげでイナズマジャパンは反撃どころかシュート体勢にすら入らせてもらえない。

「改!」

砂木沼さんの出したパスを受け取った下鶴くんが再びグングニルを撃ち出す。しかし守だってそう簡単に何度も同じ技ではやられない。さらに進化させた正義の鉄拳でそのボールを跳ね返してみせた。究極奥義に完成無し、だからね。
ベンチも守のナイスセーブに大盛り上がりだ。そしてそんな守のプレーを見たネオジャパンも驚きはすれど、その闘志は尽きてはいない。

「…だが、我々は負けはしない…!」

その宣言の通り、ネオジャパンは勢いの増したイナズマジャパンのみんなを見事に押さえ込んでみせた。一進一退する試合、イナズマジャパンの誰もが攻めきれない中、最悪なことにボールは砂木沼さんに渡る。

「行かせるか!!」
「…お前などに、今の私は止められぬ!!」

緑川くんが対応せんと砂木沼さんのマークにつくが、砂木沼さんはそんな緑川くんを気迫と共にあっさりと抜いてみせた。緑川くんの表情が愕然とする。…基山くんの話だと、たしか緑川くんはランクがひとつ上だった砂木沼さんにも今や実力は匹敵していたはずだ。それなのにあんなに簡単に抜かれてしまうなんて。
砂木沼さんから出されたパスからのシュートは何とか守が止めたものの、やはりイナズマジャパンは防戦一方だ。何か打開策は無いのかと歯噛みする。…そのときだった。

「監督!」

振り返ればそこには、大量の汗をかきながら肩で荒く息をする風丸くんがいた。しかしその顔はどこか達成感に満ちていて、それが彼の完成を意味するものだと分かって思わず歓喜する。
久遠監督はそんな風丸くんをジッと見つめていたかと思えば、即座に虎丸くんと風丸くんを入れ替えた。風丸くんを送り出す際、私は彼の背中を叩いて鼓舞する。

「やっちゃえ風丸くん!」
「あぁ!」

風丸くんをミッドフィルダーに、そして雷電くんをディフェンスに下げて試合は前半終盤に差し掛かる。緑川くんに向けて投げられた基山くんのスローインを砂木沼さんに奪われたときにはヒヤリとしたけれど、すかさず鬼道くんがそれを取り返してさっそく風丸くんに繋げた。…そして。

「風神の舞!!」

風丸くんの新必殺技。まるで竜巻のような素早い回転で相手を吹き飛ばし、相手ディフェンスを突破してみせた。そしてボールはとうとう前線の豪炎寺くんへ。爆熱ストームを撃ち放った豪炎寺くんに源田くんはドリルスマッシャーで対抗するものの、しばしの間拮抗したその戦いは豪炎寺くんに軍配が上がった。一対一、これでようやく同点だ。…そしてここでホイッスル。前半終了までに何とか同点に追いついた。あとは後半で逆転すればきっと勝てる。

「緑川くん」
「!薫ちゃん」
「焦っちゃダメだよ。緑川くんがここまで努力して頑張ってきたように、砂木沼さんたちだってきっと死ぬほど努力してきた。…それを忘れないでね」
「…うん」

緑川くんは先ほどから砂木沼さんにしてやられていることが悔しくて仕方ないようだが、あの様子だと瞳子監督に相当鍛えられているはずだ。そうじゃなきゃあんな成長はあり得ない。かつて地上最強のチームを率いて、エイリア学園への勝利に貢献した瞳子監督の指導力は侮れないのだ。





後半の始まる前、瞳子監督はここで何と選手を二枚替えしてくる。特に寺門くんと変わった選手を見て私は目を見開いた。彼はたしか、世宇子中のフォワードだった平良くんだ。だというのにポジションはディフェンス。…砂木沼さんのような例があるから思わず警戒する。瞳子監督があそこに彼を配置することに、きっと意味があるはずだ。
そして後半がスタートした。ネオジャパンのキックオフで始まった試合は、さっそく砂木沼さんの迅速な指示が素早く飛び交う。瀬方くんがボールを持って上がるものの、そこで基山くんのスライディングが行手を阻んだ。

「ヒロト!」
「伊豆野、改!」

風丸くんがボールを呼ぶが、やはり風丸くんの風神の舞を警戒してかマークが二枚も貼りつく。それを見た基山くんはすぐさま緑川くんへパスを出した。それを受けた緑川くんが驚いたような顔で基山くんを見るけれど、基山くんはその視線に微笑みと共に頷くことで答えた。…そうだよ、緑川くんなら大丈夫だから。

「霧隠、幽谷!」

猛然と上がって行く緑川くんに砂木沼さんが指示を出した。二人のマーク。それは側からみれば突破さえも難しいように思えるけれど。
緑川くんはそれを彼なりの新必殺技で突破してみせた。気持ちでは負けない。そんな意思さえ見えるような気迫の籠もったドリブルだった。しかしそれは残念ながらディフェンスに弾かれてしまったものの、ここでディフェンスを突破する新たな手段が生まれたのは大きい。目金くんをしてライトニングアクセルと名づけられた緑川くんの技は、彼の努力の証だ。

「豪炎寺!」

基山くんのスローインが緑川くんに渡り、ライトニングアクセルで中盤まで踏み込んだ緑川くんが豪炎寺くんにパスを出す。絶好のシュートチャンスを受けて豪炎寺くんは爆熱ストームを繰り出した。ベンチで応援中のリカちゃんが二点目だと叫ぶ。…しかしそれは何と。

「真・無間の壁!」

あの最強キーパー技と呼ばれた千羽山中の必殺技によって止められてしまった。…こんな技まで共有していたのか。ドリルスマッシャーを超えた新たな強靭な壁にみんなが愕然としている。
そしてそこからが難関だった。イナズマジャパンの攻撃チャンスは何度も掴めるようになったものの、最後の砦である無間の壁が突破できない。何度も何度もフォワード陣が放つシュートを阻んでくる。

「砂木沼!」

源田くんが出したパスを受け取った砂木沼さん。とうとうここでネオジャパンは反撃に転じてくるらしい。鬼道くんがその前に立ちはだかるものの、それを巧みなドリブルで交わしてみせた。そのまま他の選手たちとパスを繋ぎ、ディフェンス陣も突破して守のいるゴールへシュートの雨を降らせる。

「守…!」

他の選手にも疲労が見えた。このままじゃ遅かれ早かれスタミナ切れで試合が頓挫してしまう。攻撃を通すためにもフォーメーションを変えた良いのではと思わず監督を仰ぐが、監督が動き出す様子は見られない。むしろ何かを待っているようにさえも見えて、私は静かに目線を試合に戻した。監督に何か考えがあるのなら、私は黙っておくばかりだ。
けれどやはりネオジャパンはそんなイナズマジャパンにも容赦はしない。何とか守の負担を減らそうとボールを奪いにかかった緑川くんを振り切った砂木沼さんが、今度はなんと照美ちゃんの技であるゴッドノウズを繰り出したのだ。

「…絶対に、止める!」

守はその強大なパワーをもって放たれたシュートにも臆しなかった。ただ目の前のシュートを止めるという意思だけを露わにして吠える。

「負けるわけにはいかないんだ。世界に行くためにも!!」

繰り出した正義の鉄拳はさらなる進化を遂げ、ゴッドノウズを打ち砕く。…すごい、こんなに短い時間でさらにパワーアップするなんて…!そしてそこで監督はメンバーチェンジを要求した。緑川くんと飛鷹くん、木暮くんと立向居くんを入れ替える。ここでベンチから飛鷹くんを入れたのは少し驚いたが、何か考えがあるのだろう。…そして。

「円堂!」

立向居くんをキーパーに据え、守を前に出した。
その時私はようやく監督が何を待っていたのかを理解した。ギリギリまで守にゴールを守らせたのは、守のキーパーとしてのレベルを上げさせるため。そしてそれを達成した今、次は反撃を開始するのだと。
しかしどうやら守のリベロは瞳子監督の思惑通りだったらしい。源田くんと無間の壁要因であるディフェンダー二人を残していきなり全員が前線へと駆け出す。…なるほど、フォワードであるはずの平良くんをディフェンスに入れたのもこのためだったんだ。

「伊豆野、瀬方!!」

砂木沼さんが二人を呼ぶと同時に、三人がシュートの動きに入る。あの動きには見覚えがあった。まぁ何とも腹の立つ三つ子のドヤ顔が脳裏を過ぎる。…あれは、武方三兄弟のトライアングルZだ。
あのときよりもさらにパワーの増幅したシュートが立向居くんの待つゴールを襲う。誰もが絶対絶命だと思っていた。…しかしそこで飛び出した飛鷹くんが届かなかった足をヤケクソ気味に振り抜いたことで、流れが変わった。
トライアングルZがあの勢いを完全に失ってしまったのだ。

「…飛鷹くんが、今の…?」

たしかに必殺技の片鱗をみせた飛鷹くん。なるほど、監督はどうやらわざと守りを手薄にしたことで彼の実力を引き出すつもりだったらしい。無事にボールを受け止めた立向居くんが、前線の守へボールを放つ。…全員で攻撃に回った分、守備は手薄になった。守、豪炎寺くん、鬼道くんの三人が一斉に駆け上がっていった。
しかしそこで諦めないのが砂木沼さんだった。自ら守へ激しいマークにつき、何度もぶつかり合いながらボールを奪おうとする。けれど、守だって負けない。砂木沼さんを何とか振り切った守が鬼道くんにパスを出す。

「イナズマブレイクV2!!」

三人の必殺技が、最後の砦である無間の壁に襲いかかる。…しかしその壁はやがて以前守たちがやはり砕いてみせたように、最後には押し込むように砕かれて。
そしてそこで、試合終了のホイッスル。最後で最後の土壇場で見事逆転してみせたイナズマジャパンの勝利だった。





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