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イギリス代表ナイツオブクイーンには見事勝利することが出来た。勝利の鍵となったのは、後半から起用された不動くんが鬼道くんと共に指示を出したことで『無敵の槍』を完全突破した上、攻撃が通りやすくなったこと。そしてさらに虎丸くんの新必殺技による得点での同点、守の新必殺技による防衛、その後に豪炎寺くんたちのタイガーストームが決まったことも大きな勝因の一つだ。

「やったよふゆっぺ!」
「守くんたち、すごい…!」

思わずふゆっぺとも手を取り合って勝利を祝う。会場中もナイツオブクイーンのサポーターたちばかりだったのに、今の激闘を讃えて私たちにも喝采を浴びせてくれた。どうだ、これがイナズマジャパン。どのチームの中でも負けないくらいの実力を持つ立派な世界レベルのチームなんだぞ。

「…お休みを?」
「うん」

そして宿福に帰った後、ミーティング中だった私と監督たちの元にふゆっぺがやってきた。何でも提案があるらしく、それは「選手たちに明日一日お休みを与えること」だった。たしかに今日の試合は激闘だったし、次の試合であるアルゼンチン戦にはまだ時間がある。一日くらいのんびりするのも良いかもしれない。監督もその考えは一理あったらしく、早々に許可を出してくれた。それに私も羽を伸ばせと言われてしまったので、私も一緒にお休みが決定。ありがたいやら申し訳ないやら…。
選手のみんなもそれを聞いて大喜び。明日は観光だのサーフィンだのと早くも計画を立てていた。するとご飯を食べ終わった後、部屋に戻る途中で豪炎寺くんに引き止められる。

「…お前はどうするんだ」
「私?私はね、秋ちゃんたちとショッピングするんだ」

ライオコット島は観光地だからか、島内にはショッピング施設も多い。南国ならではの服やアクセサリーもあると聞くし、女の子たちはみんな今からウキウキだ。ただ、何故か秋ちゃんたちは同行を了承した私に「いいの?」と不安そうだったのだけれど。

「…先約があったか」
「…あっ」

…そうか!みんな揃ってお休みだということは、豪炎寺くんともお出掛けが出来るということだ。それを考えず秋ちゃんたちとショッピングに行く約束をしてしまった。多分、今も豪炎寺くんは私を誘おうとしてくれていたに違いない。…その辺りを見抜けないなんて、女の子してはダメなのでは…?

「ごめんね…」
「いや。…それならまた次の機会があれば、俺と約束してくれないか」
「うん!」

それなら明日は、そのための服を探した方が良いのだろうか。…まぁ、そのことは秋ちゃんたちに相談しながら探すとしよう。
そう考えていると、ふと豪炎寺くんが何やら聞きたそうな顔で私の顔を窺っている。それに気がついて私が首を傾げれば、豪炎寺くんが口を開いた。

「…今日の試合の後、昨日の奴に呼ばれてただろ」
「あっ」

…見られていたのか、あれを。いや、別にやましいことは何も無いのだ。単に昨日の無礼を改めて謝られただけで。どうやらフィリップさんも豪炎寺くんのことは舐めてかかっていたみたいで、その辺りも後で謝っていて欲しいと告げられた。
そして加えて、豪炎寺くんが本当に私の恋人なのかも聞かれてしまったけど。

「何て答えたんだ」
「…言わなきゃだめ…?」
「あぁ」

…本当に豪炎寺くん意地悪になったな。そんなに楽しそうな顔をしてくれちゃって。でも、それなのに私を見る目はそんなに優しいから怒ることも出来なかった。ずるいと思う。
フィリップさんには一応、まだ私たちが恋人ではなく未満であることは話した。それでも恋人に近い関係性であることに変わりはないとということも。

「『私にはもったいないくらい素敵な人です』って言ったよ」

そっぽを向きながら答えれば、豪炎寺くんは耐えきれなかったように吹き出した。俯きながら肩を震わせているそんな豪炎寺くんの肩を叩いて抗議する。答えろって言ったの豪炎寺くんのくせに。

「悪い」
「もう知らない」
「薫」

とうとう拗ねてしまえば、豪炎寺くんは苦笑しながら私の顔を覗き込む。そして柔く摘まれた頬をむにむにと揉まれつつ、もう一度目を合わせながら謝罪の言葉を口にしてきた。…そう言われたら、私は許すしかないじゃないか。
でも癪だったので、今度アイスを奢ってもらう約束を取り付けた。ダブルにしてトッピングいっぱいつけてやるって凄んだらまた笑われたのはどうして。





「覚悟は良いですか薫先輩」
「何にも良くないです春奈ちゃん」

そんな次の日、女子みんなで繰り出したショッピング街。とある店の前で行く行かないの問答を繰り返す私と春奈ちゃんに、秋ちゃんとふゆっぺは苦笑いだ。でも私だってこれだけは譲れない。だって春奈ちゃんが入ろうとしているのは。

「先輩、可愛い水着持ってないって言ってたじゃないですか!」
「それとこれとは話が別では!!」

可愛いものからセクシーなものまで選り取り見取りな水着ショップなんだから。どうやらこの大会期間中に一度で良いから海で遊びたいらしく、そのための買い物としてここに来たらしい。私に言わなかったのは、言えば断ると分かっていたからだとか。その通りだよ。

「薫先輩…可愛い水着が無くてもそれで良いんですか…?」
「良いよ…行く予定無いし…」
「豪炎寺先輩とも?」
「待って」

何で春奈ちゃんが知ってるの。私まだみんなに言ってない。知ってるのは士郎くんや基山くんたちくらいのはずなのだが。

「吹雪先輩からお二人の写真を頼まれました!」
「士郎くん」

写真って何。そして春奈ちゃんに話しちゃったんだね。しかも秋ちゃんたちの様子を見てても、どうやら二人まで知っているらしい。…恥ずかしいことこの上ないね!

「それに豪炎寺先輩との予定が無くても、可愛い水着の一つや二つくらい持っておくべきです!」
「…それは、まぁ…」

分からなくはない意見だ。たしかに私がスクール水着以外に水着を持ってないのは事実だし、女子としては可愛い水着くらい持っておくのが嗜みなのかもしれない。そう思ったらちょっとだけ乗り気になってしまった。春奈ちゃんに乗せられているような気がしなくもないが、ここは年上としてまんまと乗ってあげることにしよう。

「決まりですね!」

…でも春奈ちゃんがさっきから持ってくる水着の種類がすごい。だいたいはフリルが付いてたり花柄だったりと可愛いものばかりなのだが、何故お腹が出るビキニタイプを選ぶのだ。いや、たしかにお腹は普段の運動でそこそこ引き締まってはいるけど、中学生なんだからもっと子どもらしいデザインにしない?しないの?そっか…。

「先輩似合ってますよ!今すぐ豪炎寺先輩にも写真を送りたいくらいです!!」
「ぜったいだめ」

結局選んだのは、白くてフリルのついたハイネックビキニに下は短いスカートタイプの水着。何故かヘソ出しを熱く推す春奈ちゃんに負けてお腹は丸見えという何とも心許ない水着だ。
店には結構長い時間居た気がするのだが実はそうでもなかったらしく、まだまだある時間を見て春奈ちゃんは目を輝かせる。

「まだまだ時間はありますし、次に行ってみましょう!」
「おー…」

まぁ、でも確かにこんなゆっくりとした時間が取れるのは久しぶりなのだし、少しくらい春奈ちゃんの無茶振りに付き合うのも悪くはないのかもしれないね。
…と、思っていたのだが。結構甘かった。テンション爆上がりの春奈ちゃんを止めるのは至難の技。いろんなブティックに連れ回され、私はあれやこれやの着せ替え人形状態。途中から何故か秋ちゃんとふゆっぺまで参戦して、春奈ちゃんと真剣に話し合いながら服を選んでいた。

「せっかく女の子だけなんですから、私服で歩きませんか?」
「良いわね、そうしましょう!」

こんな会話が行われてしまえば私は何も言えない。大人しく三人が選んでくれた白いマキシマムワンピースに身を包んでのお買い物を続行することに。髪は暑いからポニーテールにしてるし、服も通気性の良い素材だからかとても涼しいからさっきの制服よりは過ごしやすいんだけどね。

「…薫ちゃん?」
「…土門くん!」

フードコートで集合場所を決めてから各自好きなものを買うべく解散したとき、私は土門くんと鉢合わせた。どうやらアメリカ代表も今日はお休みだったらしい。雷門のものでもジャパンのものでもないジャージ姿を見て、少しだけ寂しくなってしまった。

「随分と可愛い格好してるなぁ。デートか?」
「秋ちゃんと買い物だよ。それに可愛いなんてそんな…」
「いやいや、薫ちゃんならそこら辺のやつは放っとかないって。何なら俺とデートしてみる?」

ニコニコと褒めてくれる土門くんに照れ臭くなる。でも冗談といえどそのお誘いは嬉しいのだが、生憎私にはもうちゃんと好きな人がいる。その辺りはちゃんと言っておいた方が良いかもしれない。

「…あのね、実はまだみんなには内緒なんだけど」

私は豪炎寺くんとのことを土門くんに説明した。既に両思いであることや、大会のことを考えてまだ付き合ってはいないことも。…土門くんは大切な友達だし、修学旅行の後どこか挙動不審だった私を気遣ってくれたこともあったからそのお詫びと報告がてらとして教えることにしたのだ。
話終えると、土門くんは少し驚いたように目を見張っていたものの、やがて嬉しそうに笑って私の頭を撫でてくれた。

「…そっか、おめでとう」
「うん、ありがとう」

そんな土門くんにお礼を告げてはにかむ。そう言ってもらえて嬉しかった。
そして土門くんは私の頭から手を離すと、少しだけ茶目っ気を含んだ笑みで私の顔を窺ってくる。

「一之瀬にも教えていいか?」
「うん、でも口止めはしててね」
「任せてくれよ」

そういえば一之瀬くんといえば問題写真の件があった。あのときの会話を思い出して私はハッと顔を上げる。そして不思議そうな顔をする土門くんに詰め寄ると、私は少しだけ顔を顰めてあの写真について言及した。

「そういえばマークさんたちに聞いたんだけど」
「あ…あぁ、あのことか!悪い悪い!うっかり消し忘れちゃってさ。たまたま見つけたのを一之瀬たちに見られちゃって」
「もう…恥ずかしいんだからね、あれ。ちゃんと消しておいて欲しいな」
「りょーかい」

親指を立てながら笑って頷く土門くんに、私もようやく満足して微笑む。あの写真は出回らせることなくひっそりと消さなければ。誰かに見られたら大惨事。あれは私にとって忘れたい思い出の一つなのだから。
そしてそこで私は土門くんと別れた。そろそろ行かなきゃ秋ちゃんたちとの集合時間に遅れちゃうし。一応土門くんに秋ちゃんたちと会うかどうか尋ねたものの、土門くんもチームメイトと来てるから良いと断られてしまった。

「じゃあな、試合で会おうぜ」
「うん、お互い頑張ろうね」

大手に手を振って私は土門くんに背を向ける。向こう側でこちらに向けて手を振る秋ちゃんたちの姿に気を取られていた私は、後ろで何かを呟いた土門くんの言葉が聞こえなかった。












「…幸せになってくれよ、薫ちゃん」

そう言って優しく微笑んだ土門くんのことさえも、私は知らないままで。





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