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そんな木戸川清修との試合は開幕早々一点を取られたものの、その後は守やみんなの奮闘で追加点を許すことなく良い調子で進んでいった。明らかに豪炎寺くんを意識し過ぎている武方三兄弟に思わず笑いが溢れる。隣の秋ちゃんたちが引きつったような顔をするくらいに今の私は邪悪な笑みをしているのだろう。

「だんご三兄弟は豪炎寺くんを意識し過ぎだね。攻める隙があるとすればそこだよ」
「だんご」
「三兄弟」

同じ顔が三つ並んだ三兄弟なんだから、呼び方もそれで良いのでは?夏未ちゃんは元ネタを知らないのか不思議そうな顔をしているので後で教えてあげよう。
そしてそんなだんごたちは、追加点を決めようと躍起になり過ぎて周りが見えていない。まだ笑って励ませるような味方のパスミスでさえ厳しく追及するほどだ。
そしてそれに、あの鬼道くんが気がついていないはずがない。

「よし、動いた!」

守がわざと手前の土門くんにパスを出し、それがチャンスボールだと見せかけて三兄弟たちをおびき寄せる。そしてその隙に相手陣地へ豪炎寺くんと染岡くんを上がらせる。当然、豪炎寺くんを意識しまくりの三兄弟は後方に意識を取られる。
けれど、そんなストライカー二人でさえも鬼道くんの手にかかれば豪華な囮だ。本当の狙いは、前衛へ上がっていく守と土門くんと一之瀬くんのトライペガサスを成功させること。
そしてその企みは見事に成功し、雷門中は同点へと追いつくことになった。しかしそこで前半終了のホイッスルが鳴る。

「豪炎寺!」
「貴方にだけは絶対に負けない」
「豪炎寺を倒して証明しちゃうからね」
「武方三兄弟は豪炎寺を超えたって!」

ベンチに戻る際、そんなことを豪炎寺くんへ一方的に告げる三兄弟を見て思わず「まただんご三兄弟が何か言ってる…」とため息をついたところ、聞いていたらしい給水中の鬼道くんが盛大に咽せた。大丈夫か。そしてこのネタは知ってるんだね。

「おま、それは…!」
「だって同じ顔三つなんだし」
「やめろッ…ゲホッ!!!」

背中を撫でさすってやりながらそう言えば、さらにツボにハマったらしくゲホゲホ咳込んでいた。そこにやってきた豪炎寺くんが私たちのやり取りを見て怪訝な顔をしていたので事のあらましを説明したところ、今度は豪炎寺くんが俯いてバイブレーションし始めた。笑いたいときは、笑って良いのよ。
ついでに聞いていたらしい守が天然で「串に刺さってだんご、だんご」と口ずさんだ瞬間にもう駄目だったらしい。もはや崩れ落ちて笑いを噛み殺している二人を見て、選手に余計な体力を使わせるなと夏未ちゃんから怒られてしまった。





そして始まった後半戦。さっそく連携のズレを修正してきたらしい三兄弟は、あのトライアングルZを繰り出してきた。守はそれをゴッドハンドで迎え撃つものの、あえなく撃破されてしまう。一対二。
そしてそれに焦ってしまったのか、繰り出したトライペガサスを読まれて、西垣くんに止められてしまった。夏未ちゃんはみんなを信じようと言うけれど、この空気は少し不味いかもしれない。

「…豪炎寺くん」

しかしそんな空気を裂くようにして飛び出したのは、木戸川のパスボールをカットして上がっていく豪炎寺くんだった。豪炎寺くんは、染岡くんの名前を呼びドラゴントルネードを放つものの、これは相手ゴールキーパーにより跳ね返される。
だが、まるでその跳ね返ったボールを叩き込むようにして撃ち込まれたファイアトルネードが雷門中の同点ゴールを揺らした。

そしてそのまま、試合は膠着状態で進むことになる。
ボールを取り取られ、お互いが攻撃のチャンスを窺うもののその機会はなかなか訪れない。残すところロスタイムに入り、もしや延長戦かと誰もが思い始めた頃、その均衡状態を破ったのはよりもにもよって木戸川の方だった。

「同点延長なんて必要無いっしょ!!」

そんな三兄弟たちは、やはりあのトライアングルZを繰り出してくる。それに対し、先ほど同じ技で破られてしまったゴッドハンドで迎え撃つ守。執念のこもった三兄弟のシュートに押し負けそうになったものの、それをカバーしに来てくれた栗松くんと壁山くんのおかげで何とか防ぐことができた。…さあ、最後の反撃だ。

「豪炎寺!」

パスを呼んだフリーの豪炎寺くんへボールが渡る。もちろんあの三兄弟はそのシュートチャンスを潰そうと躍起になり、ご丁寧にも三人揃って豪炎寺くんの前へ。…三人も選手を引きつけてくれるだなんて、豪炎寺くんはやはり見事な囮にも餌にもなれるね。
そんな私の予想通り、不敵に笑った豪炎寺くんはバックパスを一之瀬くんへ。守と土門くんを交えたトライペガサスに再び挑んだ。
そしてそれを防ごうとする西垣くんのディフェンス技をすり抜け、三人はペガサスを超えた不死鳥を空へと羽ばたかせる。
ゴールを割ったシュート。三対二。
決勝戦に駒を進めたのは、新必殺技で見事勝利を決めた雷門中だった。

みんなが決勝だと喜び沸き立つ中、自分の拳をじっと見つめる守に私は声をかける。…けれど。

「ねぇ守。豪炎寺くん、最後自分を囮にするなんて凄かったね」
「…あぁ、そうだな」
「…守?」

…勝ったというのに、あれだけ望んでいた世宇子中との試合が待っているというのに。守の声は固く、どこか暗かった。
そしてそれを聞いて私は、心のどこかで何か得体の知れない不安を感じていた。





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