50


閉会式と授賞式が終わって、選手のみんながインタビューを受けている間に試合会場の荷物を運んでいれば、私は途中で廊下の椅子に座り込む照美ちゃんに会った。照美ちゃんは私の姿を認めると少しだけ目を見開いて、でもすぐに自嘲するように笑う。私がその隣に座るや否や、照美ちゃんはまるで囁くように言葉を紡いだ。

「…神の力だなんて言っておいて、無様だろう?」
「うん、まあ、割と」
「…優しくないね。傷心の人間のためにせめて少しは否定してくれないのかい」

残念ながらそこまで私は優しくない。慰めと同情は似ているようで違う。照美ちゃんは同情なんて欲しくないでしょ。そう言えば、確かにそうだねと照美ちゃんは少しだけ可笑しそうに笑った。

「…君のバタークッキー、美味しかったよ」
「食べたんだ」
「捨てようか、迷ったんだけどね。…一枚だけのつもりで食べていたら、いつの間にか無くなっていた」

そうして食べ終わったとき、何だか照美ちゃんは虚しくなったのだという。神のアクアで手に入れた力で強くなって、何者にも負けない強さで上へとのし上がって。…けれど、ふと見下ろせば、そこには何も無かったのだという。
戦いの勝利への誇らしさは、まやかしのもので。
自分の放つシュートは本来のものでは無い。
競い合ったはずの敵は一人残らず自分を睨んでいて。
あまりにも空っぽな自分に愕然として、けれどもう既に残されていたのは薬によって手に入れた強大な力と、すぐ目前に控えた頂点の地位のみであったのだと。

「…僕は羨ましいと思ったよ。喜んでいる君たちを見て。自分たちの努力と才能だけで勝ち上がり、苦しみを乗り越えてきたからこそ手に入れた勝利への誇り。…僕たちがあそこに立ってみたとして、あれだけの喜びを僕は手に入れられただろうか」

泣きそうな顔でそう吐き出した照美ちゃんの背中をそっと撫でる。…うん、やっぱり照美ちゃんは、私たちと同じ子供じゃないか。これから先が何一つ見えなくて怯えている、何処にでもいるような子供。

「なら、もう照美ちゃんは大丈夫だよ」
「…大丈夫?」

そうだよ、照美ちゃん。たとえどんな間違いを犯しても、それを誰にも許して貰えなくても、人間自身がそれを悔やみ始めたそのとき再生は始まるんだから。
たしかに間違え過ぎは良く無いね。でも、正しいばかりの人間はこの世のどこにも居ないよ。間違えて、正されて、乗り越えて。
そうして人間は、前に進んでいくんだよ。

「友達になろ、照美ちゃん」
「…僕は君たちの敵だったんだけどね」
「今日の敵は明日の友。良いじゃん、サッカーを通して手に入れた友情。青春だよ」

そうやって笑い飛ばした私を見て、照美ちゃんは今度こそ可笑しそうに笑った。そして、私の差し伸べた手をそっと握って。

「…本当に変わってるよね、君は」
「褒めてくれてありがとう」

誰も居ない、激戦を終えた裏側で、そうして私たちは友達になる。





TOP