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あの弱小と笑われてきた雷門中が、とうとう全国優勝を果たすことが出来た。ぼろぼろと泣く私を守は抱き締めてくれたし、他のみんなとも抱きついたり手を合わせたりして喜んだ。みんなの努力と頑張りが実を結んでくれたことが、何よりも嬉しくて仕方が無かった。

「私、先に学校に帰って祝勝会の準備してるね」
「え、なら私も…」
「秋ちゃんたちはみんなをお願い。…ちょっとね、一人で余韻に浸りたかったりもするんだ」
「そっか、うん、任せて!」

秋ちゃんや春奈ちゃん、夏美ちゃんに後を任せて試合会場まで応援に来ていたという用務員の古株さんに学校まで送ってもらいながら、車中では先ほどまでの試合の話で白熱してしまった。古株さんもどうやらサッカー現役時代はゴールキーパーだったらしい。守の勇姿を見て、昔の青春を思い出したと楽しそうだった。
学校につけば、元イナズマイレブンのOBの皆さんが駆けつけてグラウンドの真ん中で先に騒いでいる。伝説の再来だ、イナズマイレブンの復活だ、と騒ぐその中にはあの菅田先生もいた。いつもははしゃぐ生徒を嗜める側の先生まではしゃいでいるのは何だか不思議な気持ちになる。

「今からみんなで祝勝会をするんです。良ければ皆さんも参加しませんか?」
「俺たちも良いのかい?」
「久々に試合もしたいねぇ」

守たちなら喜んで試合をしそうだけれど。何せ、ここの皆さんが果たせなかった夢をとうとう果たせたのだ。報告もしたいだろうし、喜びも分かち合いたいに決まっている。
だから私は、その言葉に肯定で返そうとして。

「ッえ!?」

突然、空から落ちてきた何かによるグラウンドへの衝撃でたたらを踏んだ。まるで、地面に鉄球を落とされたかのような重い振動に動揺して発信源を探せば、それは面白いほど簡単にアッサリと判明することになった。
…目に見えたのは、地面にめり込む黒いサッカーボール。様子の可笑しいそのボールは、戸惑う私たちの目の前で妖しく光り出した。

そしてその光の向こうから現れたのは、謎の十一人。驚愕で立ち尽くす私たちの目の前で、リーダー格らしき少年は、不敵に笑ってこう切り出した。


「___我々は、エイリア星より降り立った、星の使徒である」


自らを宇宙人だと名乗った彼らは、私たちにサッカーの勝負を挑んできた。負ければ学校破壊、断っても学校破壊という理不尽極まりないその申し出に、OBの皆さんはまだ帰らない雷門イレブンのかわりに受けてみせると息巻いてしまっている。
私は当初、そんな皆さんを宥めて落ち着かせようとしていたのだけれど、それを見た緑ツンツン頭に鼻で笑われて告げられた言葉を聞いてすぐさま方針を改めた。

「…ハッ、フットボールフロンティア優勝と聞いてはじめに挑みにきてやったというのに、所詮チームの末端のお前がそんな腰抜けならば他の奴らもたかが知れる」

…私のことを馬鹿にするのは良い。別に私は何を言われたって笑って流してやれる。
けれど、守たちのことを揶揄されて黙っていられるわけが無かった。あれだけ苦しんで、努力して、足掻いて掴んだ勝利を一笑に伏されたとなれば、私の中でこみ上げてきたものは、紛れも無い怒りで。

「地球にはこんな言葉がある…。言葉よりも態度で示せ、とな」

…良い度胸じゃないか。それなら見せてあげよう。私だってそこまで馬鹿にされて動かないほど利口じゃないんだ。
だから私は、とりあえず怒りを押し込めた笑みを浮かべて、未だ余裕そうに口元に笑みを浮かべる緑ツンツン頭に指を突きつける。

「十五分、準備の時間が欲しいな。まさか、正々堂々と?勝負を挑みに来た?宇宙人様が?そんな慈悲をかけられないほどケチなわけ無いもんねぇ」
「…良いだろう、十五分後、キックオフだ」

暗に馬鹿にしながら言ってやれば、少しだけ気分を害したように眉を顰める緑ツンツン頭に溜飲を下げてやる。
そして、少しだけ心配そうに私を見るOBの皆さんに向き合って頭を下げた。こんなことに巻き込んでしまうのは、本当に申しわけがない。気にするな、なんて皆さんは言うけれど、あっちはきっと強い。少なくとも、これまで対戦してきたチームたちよりも、ずっと遥かに。
そんなこいつらと、決勝で消耗した守たちを戦わせるわけにはいかないから。…だから。

「私も、フォワードで入ります」

…私だって、あんなに心震える試合をしてくれたみんなを守ってやりたいこともあるのだ。





フォワードして起用してもらい、あちらはこちらを完全に舐めきっているのかキックオフはこちらに譲ってきた。私が女だから、ということもあるのだろう。あっちにだって女の子は居るというのに、私が宇宙人じゃないからなのか。
けれど生憎、そんな同情や舐めた態度に逆情するほど私は子供じゃないのだ。私にチャンスを与えたこと、後悔させてやる。
私が今やるべきことは、この学校を守ることだ。理事長も夏美ちゃんも居ない今、学校の破壊を防ぐ為には試合で勝たなくちゃいけない。

「備流田さん、攻め込んでいきましょう。最初は私にボールを回してください」
「…嬢ちゃん、マネージャーだろ?無理をすんのは…」
「大丈夫ですよ。これでも、結構サッカーの腕は立つ方なんです」

力拳を見せてやれば、「出来てねぇよ…」と呆れた目で見られてしまった。仕方ない、私は備流田さんのように筋骨隆々な人間ではないのだ。しかし技術だけなら、あの一ノ瀬くんとも張れるくらいのものだと自負している。伊達に守の特訓に付き合うために鍛えてきた訳じゃないのだから。

「そ、それではこれより、雷門中OB対エイリア学園ジェミニストームの試合を行います!」

開始の笛が鳴る。軽く爪先で蹴り出したボールを備流田さんに蹴り返してもらい、ドリブルを開始した。さっさと私たちとの対戦を終わらせたいのか、余裕そうな、そして少しつまらなさそうな顔で目の前に立ちはだかる宇宙人に向けて、私は思い切り舌を出してやることにする。

「おっそ」
「何ッ!?」

ヒールリフトでボールを向こう側に蹴り上げ、動揺した宇宙人を抜き去った。私は体が小柄な分、人と人の間をすり抜けてプレーすることが可能だ。少し驚愕したような顔の緑ツンツン頭…レーゼだかテーゼだか知らないが、奴の少し手前でボールを高く空へと蹴り上げ、思い切り跳躍する。
高さはイナズマ落としなどのみんなには遠く及ばないけれど、毎日夕方のランニングで足腰は鍛えてある。私だって女子にしてはそこそこ高く飛べるのだ。

飛び上がった空中で体を捻らせて勢いをつける。力を込めた右足に宿る熱を叩きつけるようにして、綺麗に足の甲に当たったのはボールの中心。
回転という回転を削ぎ落とされた撃ち放たれたシュートは、空気の抵抗に逆らって激しく凄まじいブレを生む。
そしてボールは、まるで獲物を噛み砕かんとする獰猛な獣のようにゴールへ向けて襲い掛かって。


「___ワイルドビースト!」


目金くんが聞いたら、きっと「僕の役目を奪わないでくれますか!」って怒るんだろうな。でもこれはずっと前からの私の必殺技なんだし、どうか許して欲しいところだ。
しかし、久々に放ったからなのか、少し球筋が甘かったようで、ゴールネットのギリギリで弾かれて止められてしまった。

「…惜しかったなぁ」
「お前は、一体…!?」
「君、宇宙人にしては言葉を知っているようだけど残念、勉強不足みたいだね。
地球にはこんな言葉もあるよ。…能ある鷹は爪を隠す、ってね」

眉をしかめる私に、緑ツンツン頭が信じられないものを見るような目で私を見てくる。それを私は、真正面から受け止めて睨み返してやることにした。
手を前に出して、挑発するように手を招く。簡単にやられるものか。こいつらに、大事なものを奪われてなんてやるものか。


「来なよ、雷門中は一枚岩じゃないってことを教えてあげるから。
…守を、みんなを、このチームを。馬鹿にして嘲ったこと、せいぜい後悔させてあげる」


…これは、私なりのプライドの全てを賭けた一世一代の大勝負だ。





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