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円堂の復活後、新たに立向居を仲間に引き入れた雷門イレブンは、響木から入ってきた新しい情報である「炎のストライカー」なる人物が沖縄に居るとのいう噂を聞き、福岡から沖縄に向かっていたものの、途中でとあるハプニングにより阿夏遠島に一日滞在することになっていた。
そこで出会った綱海条介という少年。彼はサッカーは初心者だと豪語したにも関わらず、類稀なる才能を発揮し、見事自分だけの必殺技を身につけるという凄技を見せつけてくれた。
そして夜、大物の魚を釣り上げて振る舞ってくれた綱海も交えての会話。昼間のプレーを思い出したのか、円堂が興奮気味に綱海へ話しかけた。

「昼間は本当にすごかったよな綱海!」
「まーな!…それにしたってお前ら、チームの中に女も居んだな…最近はサッカーの上手い女によく会うもんだ」
「綱海の知り合いにもサッカーやってる女の子が居るのか?」

興味深そうに塔子が尋ねると、綱海はどこか照れたように頭をかきながら頷く。

「知り合いっつーか、俺の好きな子っつーか?最近沖縄に来た子なんだけどよ、可愛くて良い奴なんだぜ!」
「残念やったな塔子」
「何がだよ」

どこか冷やかすように突つき回してくるリカの手を叩き落とす塔子。何もかもを恋愛に絡めて邪推してくる彼女に、塔子の目は呆れたような色をしていた。しかし、その話に興味を持ったのか円堂は目を輝かせて話の続きを請う。

「どのくらい上手いの!?」
「そりゃあ、そこのゴールグルマントと」
「鬼道だ」
「そうそう鬼道と同じくらいか…それ以上?俺時々練習見せてもらってんだけどよ、足捌きがすげーのなんの!」
「すげー!じゃあもしその子も仲間になったら俺たち百人力だな!」
「俺もお前らとあいつを会わせてやりてぇな!あいつの話聞いてりゃ雷門中のファンみたいだったしよ」

自分たちのファンであるサッカーの上手い少女。贔屓目はあれども鬼道と同じくらいのレベルであるという評価に、チーム内の期待や喜びは高まっていく。会えるならば会ってみたい。そして、塔子やリカのようにもしも雷門中イレブンの一員になってくれたなら。

「その子、名前何て言うんだ?」

一之瀬がそう尋ねる。綱海はその質問に対して、快く笑って答えた。


「名字は俺も知らねーんだけどよ、薫って言うんだぜ!」
「薫…!?」


…全員が、その答えに対して目を見開いた。途端に変わった空気に、綱海は思わずたじろぐ。不可解そうな目で戸惑っている円堂たちを見つめる綱海に、鬼道は冷静さを努めて保って問う。

「…その子は本当に薫だと名乗ったのか?」
「お、おう…。…何か、悪いことでもあんのか?」
「…その子、俺たちが探してる奴のうちの一人かもしれないんだよ」
「…お前らの仲間ってことか?」

全員が神妙な顔で頷き返す。それを見て、綱海は難しそうな顔で唸った。…もしも、沖縄で度々会うあの少女がいつも難しそうな顔で落ち込んでいた原因が、彼らと離れていることに関係しているとするなら。
そして蘇るのは、前に会話した時に彼女が漏らした一言である。「会いたい人が居る」と呟いた彼女に、綱海は「会わねぇのか?」と尋ねた。彼女はそんな綱海の疑問にただ微笑んで。

『会っちゃいけないの。…今は』

…そう言っていた。あの時の寂しげな顔が今も忘れられない。自分でも親しい仲にはなってきたという自負はあるものの、彼女の本当の寂しさを救ってやることは自分には出来ない。花の綻ぶように可憐に笑っている方が似合うあの少女の、悩ましげな顔を壊してやるには、この目の前の彼らが必要不可欠なのかもしれない。

「…なら、見つけてやってくれや。場所はここら辺だ。いつも俺がサーフィンしてるビーチなんだよ」
「…ここは、豪炎寺くんの目撃情報があった場所とほぼ同じだわ…!」

そのゴウエンジなる男のことは知らないが、みんなの目が期待に輝き出したことからいろいろと希望は湧いてきたらしい。
絶対に見つけるぞ!という円堂の掛け声に合わせて応えるイレブンたちを眺めながら綱海は沖縄にいるはずの少女を想う。自分でも救いきれない、大事な何かの為に悩んで苦しむ少女の心が、少しでも報われることを願いながら。





「…うそじゃん…」

遊びに行ってしまったちぃちゃんたちが揃って帽子を忘れているのを見つけて、届けに行こうと家を出たところ雷門中のジャージを見かけて隠れている薫です。どうも。到着するのが早過ぎない…?
ここから見えるのは、守と鬼道くんと知らない男の子。もしかしてあれが福岡で加入したという立向居くん。元気そうで何よりだし、本当なら感動の再会と言いたいところだけど今は会うことが出来ない。というか、通りで朝から豪炎寺くんが家に居ないと思ったらそういうこと。さては雷門中が着いたことを察して様子を見に行ったな。

「そして何してるの…」

ちぃちゃんたちがサッカーしているのを飛んできたボールを受け止めた守に、みんなが泣き始めてしまった。宥めに行きたいけど行けない。そんなジレンマが苦しいね。
そして、そんなちぃちゃんたちの泣き声を聞きつけたらしい雷電くんが駆けつけてきている。割烹着のまま来ちゃったんだね…。

「だいたいお前!怪し過ぎだろ、その眼鏡」
「失敬なやつだな」

雷電くん雷電くん、それは言ったらいけないやつ。私も当初はそこらへん突っ込みたかったし、この暑い沖縄でジャージとマントを手放さない鬼道くんのこだわりに舌を巻くところだけどそれは言ったらいけない。ほら、鬼道くんもちょっと不機嫌になってるよ。
雷電くんはそこで話を終わらせるつもりだったらしいけど、守はそうは行かなかった。自分たちが雷門中であること、そして探している人物が居ることを告げる。

「炎のストライカー…?」
「それと、俺の双子の妹を探してるんだ!薫っていうんだけど、沖縄にいるらしくて!」

なんで、そうなっている。可笑しいぞ、あくまで噂は炎のストライカーのものだけが出回っているはずなのに、なぜ私のことまでバレている?何か目立った動きはしてないはずだけど…。

「お前の妹?」
「阿夏遠島でサーフィンやってたすげー奴に会ってんだけど、そいつが薫と知り合いだったんだ!」

もしかして綱海くん。もしかしなくても綱海くん。嘘みたい…そんな奇跡みたいな確率で守たちと巡り合うことなんてある…?たとえ万が一会ったとしても、綱海くんはサッカーに興味無さげだったから関わることなんて無いとタカを括っていたのに…!

「知ってる?今、俺たちが探してる仲間かもしれないんだ。聞いたことないかな」
「…いや、聞いたことねぇなぁ…」

ありがとう雷電くん。そしてごめんね守。心が痛いし会いたいのは何よりなんだけど、本当に今は会うわけにはいかないんだ。
シラを切ってすっとぼける雷電くん、実は演技派だという意外な一面が分かったところで、私はとりあえずその場から逃げ出すことにした。
しかし何故だろう。運命とは上手く回るものらしく、逃げた先に居たのは土門くんとやはり知らない白い子。あれがきっと吹雪士郎くん。…そして。

「そのジャージ雷門中だろ?」
「おう」
「カッコいいじゃねーか。なるほどね、俺のこと探してたのって雷門中だったのか」

頭に見事なチューリップを咲かせている赤い髪の男の子は、土門くんたちに向けて不敵に笑ったかと思うと、彼らに向けて自分の素性を言い放った。


「俺は南雲晴矢。あんたらが探してる炎のストライカーって、多分俺」


いや、誰だい君は。





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