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まぁ、そんなやり取りを経た後気を取り直して、あの差し入れのシークワーサージュースを配る。私の手作りだとは言っていないのだけれど、私が作る工程を見ていた豪炎寺くんだけは気づいていたらしい。みんなが酸っぱい酸っぱいと悶える中、こっそり美味しいとの感想をいただいた。お気遣いありがとね。
しかしここまで酸っぱいと言われるとちょっと悲しくなってはくるな。優しい豪炎寺くんじゃ本音を教えてくれなさそうなので、さりげなく近くの鬼道くんに尋ねてみることにする。

「…鬼道くん、それそんなに酸っぱい?」
「は?…あぁ、これか。たしかに少し酸味が強過ぎる気はするが…」
「そっか…次はもう少し甘く出来るように頑張るね」
「………いや待てこれを作ったのはお前か」

そうだよ。あんまり不評なようなので、次は頑張って甘めになるように作ろう。もしかしたら砂糖の量が少な過ぎたのかもしれない。生粋の沖縄県民の綱海くんでさえ酸っぱそうだったしね…。
と、一人しみじみ次の挑戦へのやる気を漲らせていたところで鬼道くんに待ったをかけられた。

「……たしかに酸っぱいがな」
「うん?」
「…これはこれで悪くはないと思うぞ」
「…ふふ、そんな気遣わなくて良いのに。初めて作ったんだから失敗するのも当然なんだから」

…けれど、そうやってフォローしてもらえるのも嬉しいな。やっぱり美味しくないと言われるよりも美味しかったと言われる方が嬉しいに決まっているのだし。

「ありがとう、鬼道くん」
「…いや、こちらこそ」

ちなみにみんなからの総評としては「酸っぱいがこれはこれで美味しい」とのこと。リカちゃんからは甘酸っぱい初恋の味がすると言われたが、私は初恋さえ未経験の女なので恐らくそれは恋する乙女のリカちゃんだけだと思います。

「…おい豪炎寺、お前これがあいつの手作りだと分かってて黙ってたな…?」
「さぁな」
「惚けるなよ…?…お前、見ない間に随分強かになったんじゃないか…!?」
「おかげさまでな」

…なんか豪炎寺くんと鬼道くんがやんややんや言い合っていたけれど、何を話していたのだろうね。
まぁそんな話の内容はともかく、そろそろ雷電くんが家に帰ってしまいそうだったので豪炎寺くんを雷電くんの元に送り出す。私はさっきちゃんとしっかりお礼は言えたので良いのだ。





私も今日から無事にマネージャーに復帰だということで、夕飯作りにももちろん参加する。雷電くんの家にいる間のご飯作りは主に私がさせてもらっていたので、前よりも格段に料理の腕前は上がっている気がする。ちなみに豪炎寺くんは昼食を手伝ってもらっていた。
品目はカレーで、思わず思い出したのは世宇子中戦前にみんなで学校で合宿したことだ。あの日から一ヶ月も経っていることに気がついて、随分と時間が経っていたことを実感する。

「薫!人参の皮は剥き終わったよ」
「ありがとう塔子ちゃん。ごめんね、試合後で疲れてるのに」
「良いんだって!あたしはアンタとも話してみたかったしさ」

快活に笑う塔子ちゃんは、料理は初心者のようだけどこうして出来る範囲を手伝ってくれる良い人だ。リカちゃんも手伝ってくれるらしいのだけれど、今は一之瀬くんにくっついてしまっている。仲が良くて良いことだと思います。引きつってる一之瀬くんの顔は見ないふりをするとして。

「それにしても薫、料理が上手なんだね。ジュースも手作りって言ってたしさ」
「そうかな、まぁ昔からやってることだし積み重ねだよ。塔子ちゃんも手つきが丁寧だし、慣れれば上手くなると思うな」
「へへ、ありがとな!」

はにかむ塔子ちゃんが可愛い。すごく思うことだが、雷門中イレブンにはマネージャーも含め可愛い子や美人さんが集まり過ぎではないだろうか。何しろ私が霞む。自分でも場違いだと頷けるほどに顔も性格も良い女子が集まり過ぎているのだ。
そしてそんなカレーは無事に出来上がって、塔子ちゃんを選手陣の方にお返ししてから私たちマネージャー陣は片付けに取り掛かる。ご飯は後回しですよ、そりゃあね。これが私たちの一番の仕事みたいなものだから。

「…ふふ」
「?どうしたの、夏未ちゃん」
「いえ…何だか可笑しくて。木野さんや音無さんとは何度も並んで料理していたのだけれど…貴女とは初めてだったから」
「…たしかにそうだね」

嬉しいと言いたげに微笑んでくれる夏未ちゃんも、同意するように頷く二人も。みんながこうして当たり前のように私を溶け込ませてくれることが有り難くて仕方ない。
実家のような安心感。こうして並んで一緒に居られる懐かしさがようやく帰ってきたのだと実感できた。

「そして目を離している間にあちらは大惨事」
「先輩も気をつけてくださいね!木暮くん、男子も女子も関係なく悪戯してくるんですから…!」
「そっかぁ」

激辛ソースを入れたカレーを食べてもんどりうってる目金くん壁山くん、そして何故だか黒幕のはずの木暮くん。もしやとは思うが豪炎寺くんに仕掛けて撃退されたな?豪炎寺くんは既に君が悪戯好きなことは把握しているのでやめておいた方が良いよ。言ってなかったけど。





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