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「ほな、ぜーんぶ吐いて貰おか?」
「何も無いです」
「嘘やな。うちの勘ではあんたからオモロイもんが聞けるって分かっとるんや!」
「圧が強い」

ただいまお風呂中。ご飯の後、近所の銭湯にやってきた私たちは女子みんなで湯船に浸かりながらの女子トーク中。瞳子監督は、私がみんなと積もる話もあるだろうからと後から入るらしい。気遣われてしまった。
そして、一通り頭やら体やらを洗い終わって一息ついたところでこのリカちゃんの圧力だ。

「他の奴から聞けるもんはとっくに聞いとるんやで…?鬼道やら豪炎寺やらと仲ええんやってことはなぁ…!」
「そんな意味深に言われても」

どっちも大事なお友達。私と仲良くしてくれる良い人なんですが。そんな私なんかと噂立てたら失礼にもほどがある。そんなんだから学校でも嫌がらせが多発するんだ。半年もすれば大概死滅したけど。

「鬼道とは前まで毎晩のように電話しとったって聞いとるけど?」
「メールもしてたよ」
「豪炎寺とは沖縄で一つ屋根の下同居しとったんやろ?」
「居候じゃないかな」

どっちも健全です。やましいことは何一つだって存在しないんだよ。…でもそういえば連絡頻度が一番高いのは鬼道くんだな…?何気にこの一ヶ月ほど、一緒に過ごしてたのも豪炎寺くんばっかりだったし…そりゃ誤解されるものもされるね。
淡々と否定してみせる私が面白く無いのか、リカちゃんはちょっと不満そうな顔だ。いやそう言われてもね。

「えーと…だって本当に何も無…」
「じゃあまず綱海のことから吐いてもらおか?」
「お友達だから!!!」

綱海くんのお話はおやめ。あの人は好意を全身で示してくるし誤魔化すということを知らないから本気で照れるのだ。肩を抱くのもハグも友達ならやる!と押し切られてのスキンシップの多さ。見かねたみんなからの救助が出るまで恥ずかしいことこの上無い。
ようやく私の顔色が変わったのに満足したのか、先ほどの不満げな顔から打って変わってニヤニヤしているリカちゃんが迫ってくる。逃げたい。

「南国の男は熱くて火傷するんやで?そーんな綱海から迫られて、何も思わんことがあるかいな!」
「す、好きだと言われることは嬉しいけどね?今は彼氏が欲しいわけじゃないし、恋愛的な意味で人を好きになったことがないからわかんない…」
「ッカ〜〜!!純情かあんたは!!こーんなお綺麗な乳しとるくせに!!ふわふわマシュマロみたいな乳のくせに!!初恋もまだとか幼稚園児よりも遅れてるんとちゃう!?」
「ほぁ!?」

思わず顔を背けていれば、背後からわし掴みされるようにして胸を揉まれる。胸ならリカちゃんの方が大きいし、肌なら夏未ちゃんの方が綺麗だってば!!
ちなみに他のみんなは流れ弾を恐れてサッと離れた場所に退避している。助けてはくれないのかいみんな。

「美乳やな…」
「も、揉まないでッ…ひうっ!?」
「サイズいくつなん。CかDか」
「も、黙秘権を使います」
「カマトトぶっとらんで言わんか!!」
「CよりのDです!!!」
「どーりでふわふわな訳やな…」

納得したように頷くリカちゃんにようやく解放してもらえて、どっと疲れが押し寄せる。む、胸をここまで揉みしだかれることなんてあっただろうか…。こういうのってちょっと恥ずかしいけど恋人だけとするものなんじゃないのかい。
これ以上の追撃を避けるために秋ちゃんの隣に退避しながら泣きついておく。私を慰めてよ秋ちゃん。

「もうお嫁に行けない…」
「だ、大丈夫よ薫ちゃんなら…」

何の根拠で大丈夫だというのだ。彼氏どころか恋さえ未経験の私が結婚できるとでも思っているのかい秋ちゃんは。
思わず膨れていれば、ふと男湯の方が阿鼻叫喚な騒ぎになっていることに気がついて首を傾げる。まるでゴミを見るような目で男湯側の壁を見ている夏未ちゃんに尋ねてみるとにっこり笑顔で答えられた。

「貴女がアレを心配する必要はないわ」
「そうなの?」

ちなみに後で守にこっそりと訳を聞いたところ、豪炎寺くんや鬼道くんあたりがのぼせてしまったのだという。体調管理はしっかりしなきゃ、この先は戦い抜いていけないぞ。





次の日の朝、何となく約数名に微妙に目を逸らされながらも私たちは沖縄を出発。綱海くんの参戦に、豪炎寺くんと私の帰還も合わせての久しぶりの稲妻町への凱旋なのだという。…そしてところで、無事にバスに乗り込んだは良いものの、目下の私の悩みが一つだけある。それは。

「私のバスの席はどこ」

そう、バスの席の問題である。残念ながら他のマネージャー三人は仲良く前方の方で固まってしまっているため、私の座れる席の残りはあと三つ。豪炎寺くんと士郎くんの間、守と立向居くんの間、塔子ちゃんと鬼道くんの間のどれか。ちなみに、木暮くんと目金くんの間という選択肢もあったけれど遠慮しておいた。木暮くんの悪戯が怖いんだな。

「あれ、珍しく円堂の隣にすぐ行かないんだね」
「んん、行きたいのは山々なんだねどね、立向居くんが遠慮するかなって思って…」
「えっ、ぼ、僕は全然大丈夫ですよ!」
「そう?」

立向居くんがギョッとしつつもオッケーを出してくれたので、それでは遠慮なくもともと座っていた二人の間に座らせてもらう。久しぶりの守の隣に思わずニコニコ。守と立向居くんもつられてニコニコしていてここだけ何だか空気がほんわかしていた。
高速を使うけど、夜通しかかってしまうらしいのでみんなは着くまで暇なようだ。私は守からこれまでの戦いについて詳しい話を聞くことにした。

奈良でのジェミニストームとの再戦。塔子ちゃんがここで参戦して豪炎寺くんが離脱したこと。
北海道でジェミニストームと決着し、イプシロンとの対面の後メンバーに加わった士郎くん。
京都ではイプシロンと対戦し、木暮くんが加わって。

「…影山とのことは…」
「…佐久間くんたちのことは、瞳子監督から聞いてるよ」

前の席の鬼道くんが少し強張ったのを苦笑して、軽く座席を叩く。そんなの少しだって鬼道くんの責任なんかじゃ無い。佐久間くんたちの弱った心につけ込んだのは、他でも無い総帥さんだったのだから。

「もう、目を覚ましたんでしょ?なら大丈夫だよ。佐久間くんも源田くんも、同じことを繰り返すような人じゃ無いから」
「…あぁ、それもそうだな」
「まぁ次に会ったらとりあえずデコピン食らわせるけどね」
「か、加減はしてやってくれ…」

鬼道くんを傷つけた分と、私に心配させた分。きっちり二発入れさせてもらう。私は有言実行の女だぞ。やることはやるからな。
…そして次に守が言いにくそうに教えてくれたのは、ここには居ない風丸くんと栗松くんのこと。

「守、この戦いが終わったら、ちゃんと二人と話をしようね。二人とも、今ここに居ない染岡くんたちも含めて大事な雷門中の仲間だもん。とことん話して、分かり合えば良いんだよ」

何も出来なかったのは、守だけの責任じゃない。幼馴染のくせに、たくさん助けてもらっていたくせに、側で支えても助けてもあげられなかった私だって悪い。
…でも、大丈夫だよ。風丸くんは、サッカー好きだもん。弱くなんて無い。初心者同然のところから、死に物狂いで練習して今の実力を付けたことを、私はよく知ってるから。

「それでまた、みんなで雷門中でサッカーするんだよ」
「…そうだな、そうだよな!」
「そうそう」

二人して顔を見合わせて笑う。そう、大丈夫だよ。だからそんならしくもない暗い顔なんてしないで、守らしく精一杯笑っていて。そんな笑顔に、負けん気の強さに救われたのが私や雷門中のみんななんだから。





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