77


照美ちゃんはリカちゃんと交代。FWの位置についた彼が身に纏ったのは雷門中のユニフォーム。…なんだか不思議だ。前は敵として、しかもグラウンドとベンチという対極も甚だしい距離があったのに、今は同じゴールへ向けて勝利を目指す仲間同士だ。運命というものは、本当にどうなるか分からない。

「まさか君が選手だったとは思ってもいなかったよ」
「まぁね。…それにしても、何だか嬉しいな。照美ちゃんと一緒にサッカーできるなんて」
「僕もだよ」

拳を合わせてからポジションへ向かっていく照美ちゃんを見送っていれば、同じくポジションへ向かって行こうとする豪炎寺くんから頬を摘まれる。痛い。
見事なジト目で見られているのに視線を逸らすしか無い私へ、どこか低い声で豪炎寺くんが尋ねてくる。

「…なぜアフロディとあそこまで仲が良いんだ」
「おともらちらかりゃ」
「後で話は詳しく聞かせてもらうからな」
「あい」

何でそんな怖い顔。良いじゃ無いか、敵対してたチームのキャプテンと友達になってたってさ。身に覚えがあるのか、鬼道くんはそっと目を逸らしていたのは見逃さなかったぞ。たしかに君も最初はうちとしっかりガッツリ敵対してたもんね。
そしてそんな二人は、守が認めたことで照美ちゃんを仲間として受け入れると決めたらしい。切り替えが早くて何よりだ。…しかし、みんながみんな二人や私たちのようにそうである訳では無い。
試合が再開した直後、相手のボールをカットした土門くんがパスを呼ぶ照美ちゃんに躊躇していることで、それはよく分かった。

「土門くんッ!!」
「しまった…!」

そこをついてのボールカット。思わず歯噛みする。躊躇するのは仕方がない。人の心はそう簡単には強くなれない。けれど、今の状況でこれは致命的だ…!
壁山くんも一ノ瀬くんも、あの試合を経験した人たちほどそれは顕著で。…奪われたボールからのシュートは今のところ守が止めているけれど、早くこの噛み合わないのを修正しなくちゃいけない。
しかしそんなギスギスした流れを変えたのは、雷門中と照美ちゃんの因縁を知らない綱海くんから照美ちゃんへのパスだった。思わずガッツポーズが出る。ありがとう綱海くん…!

「行け!照美ちゃん!!」

一つ頷いて照美ちゃんが攻め上がっていく。散々私たちを苦しめたあのヘブンズタイムも味方になれば頼もしいことこの上無い。あっという間にゴール前へ攻め上がった照美ちゃんの前に、まだ彼を小馬鹿にしたように笑う宇宙人のキャプテンが立ちはだかる。

「フン…堕落したものだ。君を神の座から引き摺り下ろした雷門に味方するとは」
「引き摺り下ろした?…いいや、違う。円堂くんの強さが、僕を悪夢から目覚めさせてくれた。新たな力をくれたんだ」

そんな罵倒でさえさらりと流して見せた照美ちゃんに、奴はなおも嘲笑うように突っ込んでいく。

「君は神のアクアが無ければ…何も出来ない!」
「そんなものは、必要無い」

激突せんとするその刹那、照美ちゃんは背後から駆け抜けてきた豪炎寺くんにパスを出した。奴の目が驚愕に歪む。そのまま連携を繋いでボールが戻ってきた照美ちゃんの攻撃。…神のアクアがあってこそ最大限に力を発揮出来ていたはずの「ゴッドノウズ」は、前よりも偉大に輝きながら相手ゴールに突き刺さった。先制点だ…!

「照美ちゃん!」
「あぁ」

豪炎寺くんとハイタッチした照美ちゃんとまた拳を合わせる。それを見て、みんなもようやく意識が変わったらしい。雷門中のためにあの力を振るう照美ちゃんを信じよう。そんなやる気と熱意が高まり始めた。
…しかしそれと同時に、これまでこちらを舐めてかかっていた宇宙人たちの本気まで目覚めさせてしまったらしい。鬼道くんからボールをカットした奴らはとうとう必殺技を用いて守の正義の鉄拳を破り、同点ゴールを決めた。そこで前半が終了する。

「…ここから、たぶん豪炎寺くんに合わせて照美ちゃんのマークもキツくなるよ」
「あぁ。…もう一度任せるぞ、薫」
「了解」

たとえ究極奥義が破られてしまったって、守は絶対に挫けない。それなら私は、その分頑張ってゴールを狙おう。
そして始まった後半戦。ゴールを狙っていくみんなの中、私はひたすら影に徹してマークの意識をあの二人に向けていく。何だか擦りつけてしまうようで申し訳ないけれど、これも作戦のうちだ。許して欲しい。
再び相手選手が撃ち放ったノーザンインパクトが正義の鉄拳を破ってゴールを許した。勝ち越し点。しかしそこで止まる私たちじゃ無い!

「鬼道くん!」
「薫!!」

完全に緩み切ったマークをさらに加速して抜け、鬼道くんからボールを受け取る。慌ててついてきた選手をターンで交わしながら前へ。その隙について来た三人のマークを躱すべく、一度豪炎寺くんに渡して。

「こっちに撃て!」
「!」

豪炎寺くんより前に行く私の意図を理解したのか、豪炎寺くんは私目掛けてファイアトルネードを放つ。…私が放つのは、そのファイアトルネードの勢いとパワーを利用した、さらなる加速。新たな連携技。
凍てつく氷を撃ち砕く、燃え上がる炎の光を放て。

「ファイアレーザー!!」

直線的に狙ったそのシュートは、ゴール隅めがけて真っ直ぐに突き刺さった。同点ゴール。これで二対二だ。
気持ち良く決まった興奮のままに豪炎寺くんに思い切りハイタッチすれば、痛かったのか少しだけしかめ面をされてしまった。ごめんね。

「ありがとう豪炎寺くん!」
「いきなりだったから驚いたぞ」
「何なら爆熱ストームでも良かったけど」
「咄嗟なんだから無理だ」

宇宙人のキャプテンも私が決めたことが相当驚いたのか、なかなかの間抜け面を晒している。それに微笑んでやれば、悔しげに歯噛みされた。いい気味だ。

「こんなことが…!」
「無様に負けたはずの敗者にゴール決められてどんな気持ち?」
「調子に乗るなよ…!」

うるさい厨二病め。やたらめったらカッコよさげな痛いセリフを言いやがって。雷門中のみんなが真似したらどうするんだ。
しかしそんな同点ゴールなのだが、刻々と迫る試合終了の時間に対してお互いに焦り始めてきたらしい。鬼道くんらしくない焦りが目に見えた。
たしかに守も参加する連携技は決定力が高く強力かもしれない。けれどその弱点は、いつだってガラ空きになってしまう無人のゴールだ。

「綱海くんナイスカット!」
「おう!」

今も、ザ・フェニックスに挑もうとした土門くんと一之瀬くん、守の三人のボールをカットされて危うく点を取られるところだった。照美ちゃんも、そんな雷門中の危うさに気がついたらしい。鬼道くんも思うところはあるらしいが確かに今、ここで確実に決めるためにはこれが最善手なのだろう。…でも。

「守!」
「円堂くん戻れ!早く!!」

イナズマブレイクもあえなく失敗。やはりその隙を狙って攻め込まれそうなのを、照美ちゃんと一緒に牽制するものの、その隙を抜かれてボールはキャプテンの彼へ。
そして撃たれたシュートは、しかしギリギリ滑り込んだ守の目の前まで迫る。もちろん正義の鉄拳で守は迎え撃とうとするけれど、そこは駄目だ。
ペナルティエリア外。そこで手を使ってしまえば、キーパーの守でもハンドを取られてしまう。

「……は!?」

もう駄目なのかと思いかけたものの、そこで守が取ったのはヘディングでの太刀打ち。そして見覚えのある必殺技らしき片鱗を目にした私たちの目の前で、シュートは見事に弾かれて防がれてしまった。…今のはいったい?
そして鳴ったホイッスルは、引き分けでの試合終了を告げていた。





TOP