08


尾刈斗中との練習試合当日、準備やグラウンド整備のためにコートの周りを行ったり来たりと忙しくしていた私は、その途中で嫌な人物たちを見つけてしまった。
場所は正門前。そこに居たのはドレッドヘアーにゴーグル、さすがに休日にマントは着けていないらしいが…間違いない、彼はあの帝国のキャプテンだ。側には試合の時に強烈なシュートを見せていた眼帯の男の子もいる。

「あっ」
「…お前は」
「ど、どうも…」

あちらも私の顔に思い至る節があったようだ。しかし私は、守が気にしていないから露骨に嫌っていないだけで、彼ら帝国が苦手なことに変わりはない。何せ豪炎寺くんを炙り出す為だけに雷門イレブンを痛めつけてくれた奴らだ。どうせ今日も、豪炎寺くんのプレーを見に来たに違いない。警戒を込めて彼らを見据えながら、私は恐る恐る口を開いた。

「…豪炎寺くんのプレーを見に来たの?」
「それもあるが…お前たちのキャプテンにも興味が湧いた」
「守に?」

あ、それはちょっとと言うかだいぶ嬉しい。チョロいだなんて言わないでね。だって守が強豪のキャプテンに注目されているとなれば、そんなの嬉しくない訳がない。なんだ、なかなかお目の高い話の分かるドレッドゴーグルくんじゃないか。思わず綻びそうな顔を抑えて、とりあえずベンチ側の方を指差してみる。

「せっかくだし、ベンチで見る?」
「お前は馬鹿なのか?」
「何故そうなる…」

眼帯くんから即座にバカだと言われてしまった。私を見るゴーグルくんも呆れたような目。だってここからだと遠いでしょ。せっかくだから近いところで見たら良いのに。
それに、ちょっとやそっと見られたくらいで弱くなる雷門じゃない。染岡くんみたいに毎日パワーアップしている、まだまだ限界の見えないチーム。それが雷門中サッカー部なのだ。

「じゃあ、あげる。塩飴だけど」

部活用として用意していた私物の塩飴をぺっぺと一つずつ渡せば、何故か神妙な顔で受け取られてしまった。別に何も仕込んでないから眼帯くんは陽に空かしてみない。どう見ても市販の塩飴でしょ、なんで疑うの。

「手酷くやられた相手に対して親切にする奴は居ないだろ」
「酷いことをした自覚はあるんだ…」

しょっぱい気持ちになってしまった。塩飴だけに。
それにしても自覚があったんだね。でも守も気にしてないし、何ならまた試合したいなんて言ってたから私も気にしないことにしたんだよ。いろんな意味で良かったね。そう言ってのければ、なんかまた微妙な顔をされた。なんで。

「あのキーパーはお前の恋人か何かか」
「サーチ不足だね、双子の兄だよ」

嘘だ!似てねぇ!と叫んだ眼帯くんは絶対に許さない。二卵性という言葉を知らんのか。塩飴取り上げるぞと凄んでみたところ、さっさと口の中に放り込んでしまった。いきなりだからしょっぱいだろう、ざまぁみなさい。塩分補給にバッチリな塩飴を私はいつも愛用しているのだ。

「私は雷門中サッカー部のマネージャーをしてる円堂薫だよ。君たちの名前は?」
「敵と馴れ合う気は無い」
「今のところ私の君たちの呼び方ドレッドゴーグルマントくんと眼帯くんなんだけど」
「鬼道有人だ」

あまりにも変わり身が早い。掌を返すのが素早かったものの、よほどその呼び方が嫌だったらしい。眼帯って呼び方はなんだ!とキャンキャン叫んでいた彼は佐久間くん。ちゃんと覚えたよ。
結局、彼らは校門のところから見ることに変わりは無いらしいので、もう一つずつ塩飴をあげて私は別れを告げた。熱中症には気をつけてくれたまえよ君たち。





ところ変わって雷門中のベンチ。今説明されているのは、春奈ちゃんが持ってきてくれた情報である。その中にあった尾刈斗中の呪いなる噂について戦々恐々とする一年生を鼓舞した。情けないぞ男の子。
すると、私の本音を聞き出して存分に揶揄ってやろうという魂胆が丸見えの半田くんにニヤついた表情で尋ねられる。

「薫は本当に怖くないのか?」
「あのね、この世で本当に怖いのはお化けよりも人間なんだよ半田くん」
「真顔はやめろ」

何せ、お化けは見えなきゃ大丈夫なのだ。死んでるし。霊感も無いし。でも人間は駄目なのだ。生きてる奴は何をしでかすか分からない。犯罪者がこの世に存在しているのが良い例。
昔、守と風丸くんと三人で見たお化けいっぱいホラー映画も私だけは割とケロリとしてたし。その後のヒューマンホラーでは二人にしがみついてずっと泣いてたけど。
お前も泣くのか!?と驚きの半田くんは今度ホラー映画耐久パーティーを開こうね。風丸くんの反応で選んだ本当に怖いホラー映画ベストスリーを君に披露してあげよう。

「やめろ!!」
「大丈夫、まだ考案の段階だから」
「考案のところからやめてくれ」

まぁでも最近見るのはアクションものや歴史ものが多いかな。恋愛ものは見ててもよく分からないからあんまり見ない。守も恋愛ものよりもそっちの方がよく見るし。小説なんかもサスペンスとスリルホラーは絶対に見ないことにしている。

「それにしても、気が立ってるね染岡くん」
「まぁ、あんなこと言われたらな…」

風丸くんとヒソヒソやりながら、苛立たしげに相手監督を睨んでいる染岡くんを見る。話を聞けば「自分らの目的は豪炎寺、お前らは雑魚」となることを真正面から言われたらしい。先にあの監督の方をとっちめてやろうか。

「染岡くん、染岡くん」
「あァ?」
「努力の出来る人間は雑魚じゃないよ。うちのストライカーは、染岡くんなんでしょ」
「…お前は豪炎寺って言わねぇのかよ。仲良いんだろ」
「うーん、信頼度の差かなぁ。豪炎寺くんのことも信頼してるし、すごいストライカーだとは思ってるけど、創部当初からずっとうちのエースストライカーやってるのは、誰だっけ」
「…」
「それにストライカーが二人になるってことは、染岡くんの活躍の幅や可能性が増えるってことだよ。それだけは忘れないでね。頑張れストライカー」

染岡くんは単純だけど決して馬鹿じゃない。豪炎寺くんがすごいことも本当はちゃんと理解している。素直に認められないだけで、この試合でそれを素直に理解できるだろう。ついでに一人靴紐を結んでいた豪炎寺くんにも頑張れ、と声をかけておく。

「あぁ、信頼してもらうようにな」
「話聞いてたんだ。悪趣味だよ」
「お前たちの声が大きいんだ」

不敵な笑みで返された。本当にこの二人が上手く連携を取れるようになったら、雷門中は無敵で最強の二枚看板なエースストライカーを生むことになるんだけどな。
とりあえず、あの感じの悪い監督についても私はなんか嫌いなので、そんな最低なことを二度と言えなくなるくらいコテンパンにやっつけてやって欲しいところだ。





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