「お前とおれが組めばやれるかもしれねェ。四皇を一人…引きずり降ろす“策”がある」
研究所跡地の中、自分の何倍もの大きさの巨体を一瞬で真っ二つにした男が不敵な笑みを浮かべてそう言うのを、ロビンは冷静な面持ちで見つめた。
海賊の心臓を100個も海軍に手渡して七武海にまで登りつめた男。野心なのか別の目的があるのか知らないが、何にせよ一癖も二癖もある海賊なのは間違いない。これまで見てきた数多の海賊にあまり当てはまらない、底の掴みづらい印象を受けた。
「同盟ですって!?あんた達と私達が組めば四皇の誰かを倒せるっての!?バカバカしい……!!」
「そ、そうだ!!なんでそんな突飛な話になる!!」
ナミやウソップの言うことも、もっともだ。今まさに新世界のスタートに来たばかりの麦わらの一味に、突然ゴール近くの大物を倒そうと言われても現実味は湧きにくい。突然同盟など持ち出すとは、よっぽど機を伺いきっかけを待っていたのか、ただの向こう見ずかのどちらかだ。この男は恐らく前者だろうと思うが。
ロビンは、ナミとチョッパーと子供達を救ったもう一人の恩人に目を向けた。
コートのポケットに手を突っ込み己のキャプテンの後ろに立つその青年は、豊かな羽根で覆われた黒い翼を大きく広げ、どうやらトラファルガー・ローを廃材の隙間に吹き付ける風から守っているようだった。その視線は一心に己のキャプテンへと向けられている。
ロビンはひっそりと、この美しい一角天馬の青年の姿を気に入っていた。興味を抱いて話してみれば彼自身理知的な雰囲気を放っていたのも好印象だった。
「…その四皇って誰のことだ?」
ルフィが、らしからぬ静かな声で尋ねる。そして廃墟に反響したトラファルガー・ローの答えに、彼は嬉しそうな笑みを浮かべた。その名が彼の恩人のものでは無かったから。その笑みを見ればもう、ルフィがこの次なんと言うのか分かってしまった。
「そうか…よし。やろう」
「え~~~!?」
「おいルフィ!こんな得体の知れねェスリリング野郎共と手を組んだ日にゃおれァ夜もオチオチ眠れねェよお!」
当たり前と言うか、途端に沸き起こる阿鼻叫喚。ここに心配性の三人が揃っていたものだから不安に拍車をかけていた。面白そうにその騒ぎを眺めるチェンバーズ・リバーがローの肩にそっと顔を寄せるのを見ながら、ロビンは一歩前に出た。
「…ルフィ、私はあなたの決定に従うけど…海賊の同盟には裏切りが付き物よ。人を信じすぎるあなたには不向きかもしれない」
「え?お前裏切るのか?」
「いや」
感情の無い声で答えたローの隣でリバーが肩を震わして笑う。そして、ロビンもルフィの想像通りの返答に笑みを浮かべた。これでこそ己の船長だと心底から思う。
結局ルフィの「おれには二年間修行したお前らがついてるからよっ」の一言で骨抜きになってしまった一味は、ハートの海賊団と同盟を結ぶこととなった。
まんまと乗せられて未だ照れている麦わらの一味を、ローとリバーは眉を顰めて見やっている。ロビンは彼らに数歩近づき、小さく角の生えた青年の顔を覗き込んだ。
「…あなたはどう思うの?この同盟について」
「……おれ?」
ローのすぐ傍に寄り添うように立っていたリバーに問えば、明るいグレーの瞳がぱちりとロビンを見据えた。彼の雪のように透き通った肌には大男から浴びた返り血を擦った跡が残っていて、白と赤のコントラストがいっそ底冷えする程の美しさを醸し出していた。
しかし、ロビンの問いを受けて涼やかな眉がきゅっとひそめられ、作り物の人形めいたその顔が一気に人間然とする。
「ローが決めたことに文句ある訳ねェだろ」
「そう。慕ってるのね」
「……いちいち何」
「いいえ、何も」
一人で麦わらの一味の中に加わっていた時は海の底にいるかのように静かな空気を発していたが、ローに対してはまるで人が変わったように彼の方から傍らに寄り添っている。
ロビンは大きな豹に懐く黒猫を頭に浮かべてにこりと微笑んだ。すると肩を跳ねさせたリバーが不審そうな顔つきになり、ローの向こう側へさっと移動してしまった。その姿を見ていたらしいローが、リバーの盾になるように身を乗り出し視界を塞いできたので内心で驚く。
淡白な人物に見えたが、この様子では見当違いだったらしい。…いや、彼相手が特別なのかもしれないが。
「……おい、あまりうちのクルーをビビらせるな」
「あらごめんなさい…つい」
「ビビってねェよ」
「お前は何を拗ねてる」
む、と膨れた頬をタトゥーの掘られた指がさらりと撫でる。すると肩を跳ねさせたリバーは一瞬で大人しくなり、翼を萎ませて船長の腕にぴたりと寄り添い口をつぐんだ。
寒風に吹かれた黒い髪の間から、真っ赤に染まった耳が覗く。その光景に、ロビンは彼らの関係性を垣間見たような気がした。
天竜人に狙われる一角天馬の噂は情報通の間では有名な話で、ロビンもシャボンディで初めて会う前からリバーのことは知っていた。ロビンのように訳があるわけでもなく、ただ希少な悪魔の実と美しい容姿が偶然出会ってしまったことで居場所を追われるなんてさぞ辛いことだろう、と思いを馳せることもあった。
だが、彼はロビンと同じように、心から安心できる場所を見つけることができたのだ。
冷淡にみえる死の外科医が彼の頭を柔らかく撫でる様からもそのことがありありと伝わってきて、関係の無いことと知りつつも顔を綻ばさずにはいられなかった。
「それよりちょっとあんた!とっとと私たち元に戻してー!」
ほっこり和んでいるうちに痺れを切らした半泣きのフランキー…もといナミが叫んだので、ローは大きな刀を抜いて入れ替わったメンバーを戻した。…はずだったのだが、ナミの身体はサンジが侍の身体探しに連れ去ってしまったため、ナミの口調で話すサンジが誕生してしまった。非常にシュールだ。
「なんで私だけたらい回しなのよ!!」と泣き叫ぶその様子に、サンジとはかなり仲を深めていたらしいリバーが「おもしれー」とぽつり呟く。
「何がおもしろいってのよ!全部あんたのキャプテンのせいなんだから!」
「ちげーよ、お前らがローの邪魔したからだろ」
「むきー!なんなのよ~!」
「つーか航海士、そこのガキ達はどうする気だ?」
「え?……それは…もちろん助ける。絶対家に帰してあげなきゃ」
「……助けるだと?何の話だ」
訝しげになったローにリバーが顔を寄せ、事の次第を話して聞かせたようだった。みるみる眉間に皺を寄せたローは、廃墟の奥で未だ眠り続ける巨大な子供達を見上げた。
「こんな厄介なモン放っとけ。薬漬けにされてるらしい」
「…ローの言う通りだ。なんの見返りもねェのに呑気に人助けしてる暇があんのか?」
ローとリバーは立て続けに冷めた声色でそう説いた。なまじ容姿の良い男が二人並び、真顔で言うので迫力がある。ウソップがぼそりと「こいつらこえーよ」と言うのがロビンの耳にも聞こえてきた。