すねたような言葉と裏腹にローの手をどかそうとはしないリバーに、ローは内心驚いていた。誰にも心を開かない野良猫のような立ち居振る舞いをしていながら、昨晩からローには警戒心をどこかに置いてきたような姿しか見せないではないか。
ハートのクルー達は陽気な連中が多く、ローにも気さくな態度をとる者が目立つし自分も別段それを気にしたことはなかった。しかし、彼らはあくまでひとりの大人であり、ローを信頼こそすれど、寄りかかってくる者はいなかった。
だから目の前の青年が、頭に置かれたローの手に耐えきれないように目を閉じてそれを堪能している姿は酷く新鮮で、思わず柄にもなく髪を撫でてやってしまうほどだった。
「…お前、歳は」
「…ん?…18だけど」
「あァ、道理でな」
ローには及ばないがリバーは背も高く、栄養不足で痩せてはいるが体格に恵まれていない訳ではない。ちゃんと飯を食べればすぐに今より逞しくなるだろう。鍛えていたのか、均整のとれた筋肉もついている。
しかし、壮絶な経験をして擦れた大人のように見えていても、ここのクルーの中でもダントツの最年少なのだ。
何が道理でなんだよ、と不機嫌になったリバー だったが、頭のローの手を甘んじて受け入れたままで顔の赤みもまるで消えていないとなれば、何の迫力も無い。
ローは、はん、と鼻で笑ってもう一度リバーの髪をくしゃりとかき混ぜ、椅子から立ち上がった。
本棚に向かい、手際よく本を何冊か抜き取る。後ろでリバーが何やら文句を垂れていたが、ローはそれを意に介さず、選んだ本を無造作にリバーの前に重ねた。しめて十冊ほどだ。
「明日の午後には次の島に着く。それまでにこれ全部読んどけ」
「…何の本だ」
「生きていくうえで必要なものだ。基礎的な医学や人体の構造、物理、化学、それに気候に地質。この船の大抵の奴らは経験と勘でどうにかなってるが、お前はこれ読んで丸々覚えた方が早そうだ」
「丸々?…おれ暗記とかしたこと無ェぞ」
「……7日前、シャボンディ諸島で起きた事件は」
「あ?……42番グローブの店が海賊に皆殺しにされかけたけど、どっかの爺さんに助けられたってやつのことか」
淀みなく言うリバーに、ローはにやりと笑った。
「ああ、恐らく冥王の仕業だ。…あんな隅の記事覚えられてたら上等だ。黙って読んどけ」
「………分かった」
リバーが素直に頷いたのを確認して、ローは部屋を出ていった。
残されたリバーは、頭を抱えて悶え始めた。上等、と言われたことに衝撃を受け、頬がみるみる赤くなる。またもや褒められたことに鼓動を早める心臓をやり過ごしながら、リバーはよろよろと本の山に手をつけ始めた。