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翌日。ポーラータング号は順調に航路を進み、予定通りの時間に次の島の近海に到着した。おれはシャチに着いて回って、浮上のための作業を見て覚えようとしていた。

「これがバラストタンク、あっちが気蓄機。こいつらがなきゃ潜水艦はただの鉄の塊ってとこ」

ほんの少しの不具合が、深海を潜航する潜水艦には重大な影響を及ぼすそうだ。だからクルー達は点検と見回りを毎時ローテーションで繰り返し、少しの異変も無いよう調べている。おれもとっとと力添えが出来るようになるため、シャチの説明を一言一句漏らさぬようにしていた。
すると島に着いたのか、丁度目の前のタンクが大きな音を立てて振動し始めた。

「うし、もう浮上するみたいだな」

シャチが言ったそばから、船は唸り声を上げて上昇を始めた。足を踏ん張って揺れに耐えていると、シャチがそういえば、と手を叩いた。

「お前、他の島初めてじゃねェの?」
「ああ。あの島出たこと無かったからな」
「お、じゃあ甲板行ってみろよ!結構有名な観光地らしいぜ」
「へェ…んじゃ、遠慮なく」

シャチの言葉に甘えて、おれは足早に甲板に向かった。雪景色と腐敗した社会しか、今まで見てこなかった。昨日読んだ本には想像もつかない世界が広がっていて、柄にもなくこの先色んな島を回れるのが楽しみになった。今日が、その最初。見た事のない外の世界、どんな光景なのか。

息せき切って甲板へ続く扉を開けると、まず頭上に見えた空が青く晴れ渡っていた。年中雪の降っていた故郷では拝めなかった青空。雲が無くなると、空ってこんなに青いのか。

感動して上を仰いでいると、先に上陸の準備をしていたらしいペンギンが、「上じゃなくて前見てみろよ!春島だぞ!」と笑い混じりに叫んできた。

言う通りに前を見ると、見た事のない深緑の大地と、鮮やかな色の建物が並ぶ大きな島が浮かんでいた。どんよりと暗い色彩だった故郷に比べると、島を描くのにパレットが幾つあっても足りないように思えた。

「…なんか目がチカチカすんな」
「お前、初めて他の島見た感想がそれかよ」

いつの間に隣りにいたのか、呆れたようにそう言ったシャチに肩をすくめた。色が多い、という感想しか浮かばなかったんだから仕方ない。

「美味い魚あるかなー」

急に降ってきた声に、驚いて後ろを振り向いた。オレンジのつなぎが目に入って上を見上げると、最初に出会った時からローの傍にいた二本足で立つシロクマがいた。

「あ、驚かしてすいません…」

でかいなりして打たれ弱い。しかし、多分彼も古参メンバーの一人だ。しかも航海士。

「いや全然。……ベポ、でいいか?よろしく」
「うん。よろしくー、リバー」

気さくに頷いたベポに肩を叩かれよろめいていると、島の裏側に到着したようだった。潜水艦といえどジョリーロジャーを掲げている以上、表から堂々ととはいかないらしい。
船が動きを止めると、いつもの黄色と黒のパーカーを着たローが甲板に出てきた。散らばっていたクルーが集まり、ローに注目する。

「ここのログは二日かかる。物資の調達が済んだら適当に過ごして、明後日の夕方には出航だ」
「アイアイ!」

クルー各々が返事をして、船を降りていった。見張り番のクルー達は甲板から呑気に手を振っている。
島での予定など一切考えていなかったので甲板に残って思案していると、梯子を降りかけていたペンギンが声を張り上げた。

「おいリバー、何やってんだ!早く行くぞ!」
「…え?」
「え、じゃねェよ!お前の要るモンとか色々見に行くって言ったでしょーが!」
「…聞いてねェよ」
「そうだっけ?ま、いいから早く来い!」

そう言って頭を引っ込めたペンギンに思わず笑ってしまった。おれは心なしか気分が高揚するのを感じながら、すぐに後をついて船を降りた。

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