「ゴムゴムのお!!ギガントピストル~!!」
「……は?」
「あいつ……ッ馬鹿ルフィ……!!」
麦わらが大岩と共に重しになってくれたおかげで、おれ達はリフトに乗って塔の上へと登ることができた。たどり着いたのは王宮の下段、外壁塔の入口。ヴァイオレット曰く敵に見つからず王宮へ行くためにまたしても秘密の入口を使うとのことだったので、見張りにバレないよう身を潜めていたところだった。
辺りに轟音を鳴らした麦わらのド派手なパンチによってその作戦が一瞬にして不意になったことを悟った。秘密の入口どころか、門番もろとも外壁塔の入口がガラガラと崩れ落ちていく。
あーあ。ま、やっちまったもんはどうしようもねぇ。おれは唖然として口を半開きにしたヴァイオレットを着ぐるみの肘でつついた。
「おい王女サマ、せっかくの道案内だったけど方針変更だ。こうなりゃ正面から行くぞ」
「ルフィのやつ……!つーかお前さっき、ピーカって奴がどうとか言ってなかったか!?」
「そうよ…彼に見つかったらドフラミンゴの元へはもう……!」
ロロノアとヴァイオレットが冷や汗をかいている傍らでおれは着ぐるみを脱ぎ捨て、大きく翼を生やした。ああ清々した。麦わらのあの無鉄砲さ、ローはキレそうだけどおれは正直嫌いじゃねぇ。
「がたがた言ってたって変わんねぇだろ。おれァ翼もげてもローんとこへ行く。そんだけだ」
「ええ……仕方ないわ!こうなったら正面からの方が早い!」
「おお!!脱いでいいよなもうコレ!」
「勝手にしなさい!!」
「ま、まーまー…」
脳天気な麦わらにため息を吐いたロロノア、ぷりぷり怒るヴァイオレットを宥める錦えもん、全員が着ぐるみを脱ぎ捨て並び立った。
「では、拙者はこのまま地下のカン十郎を救いに参る!」
「ああ、確か工場で働かされてるんだったか…」
そもそもこの侍がドレスローザに来たのはそれが目的だった。錦えもんは錯乱のためとかなんとか言って、ドフラミンゴの服装になってその場を離れた。去っていくピンクの羽を見て思わず舌打ちを漏らす。中身が錦えもんだとしても、あのふざけた服はやっぱり腹立つ。
「うおおお待ってろミンゴー!!」
「が、外壁塔正面入口より報告!!侵入者ァァ!!麦わらのルフィです!!う、うわああ!」
猪突猛進で門の中へ飛び込んだ麦わらに続き、翼を硬化させて駆け出した。その勢いのまま、通信機に向かって叫んでいた奴の頭を蹴り飛ばす。
これでドフラミンゴにも麦わらが既にコロシアムの外にいることが伝わっただろう。今試合に出ているのは別人だってことも。あいつの顔が歪むのを目の前で笑い飛ばしてやりたかったけど、それはまァ後の楽しみにとっておこう。唯一武闘派ではないヴァイオレットをロロノアとおれの間に挟んで、飛び出していく麦わらを追いかけた。
「B-2外壁塔に着いた!このまま進んで!」
「警備の連中が出てきやがったな!」
「薙ぎ払えば良いだけだ……!」
ドンキホーテ・ファミリーの構成員達は、侵入者を排除すべく次々に襲いかかってきた。おれは宙へ舞い上がり、武装色で覆った翼を旋回させながら正面の敵の身体を切り飛ばした。数枚の羽根と共に散った血飛沫が石造りの壁に染みを作る。
ローは人殺しを厭うけど、あいつの能力と違っておれが戦えば人間の身体は切れるし二度と元には戻らない。躊躇なんかできないし、できるほど器用でもない。隣にいるロロノアが鬼気迫る表情で相手の胴体を斬り飛ばすのが目に入って、やっぱりこいつも同じなんだと思った。おれ達は、立ち塞がる奴らを踏み越えてキャプテンの道を斬り開かなきゃなんねぇんだ。
「──こちらB-2外壁塔大食堂前!間違いありません!“麦わらのルフィ”、“海賊狩りのゾロ”、“一角天馬チェンバーズ・リバー”!──そしてヴァ、ヴァイオレット様……!ぎゃあ!!」
麦わらの放ったパンチがまた一人構成員を殴り飛ばした。おれは両手に刀を携えたロロノアの肩に手をつき、その背後に迫っていた敵の肩を角で串刺しにした。素早く引っこ抜いて地面に降り立つと、振り返ったロロノアが歯を見せて笑みを向けてきた。戦場だってのに楽しそうなヤツ。
「ははっ!助かったぜ」
「余所見してんじゃねぇよ」
「悪ィ悪ィ」
角の先から血が垂れるのを首を振って払いながら、ヴァイオレットに近づいた敵を蹴り飛ばす。長年仇の懐に潜り込んでいただけあって、ヴァイオレットは随分と肝の座った女だった。次から次へと倒れ込んでいく構成員の身体を軽々と飛び越えて、麦わらの背中に食らいついていく。おれとロロノアもヴァイオレットの両隣を囲んで後に続いた。走るよりも飛ぶ方が速いので、翼を仰ぎ低空飛行で石畳を翔けていく。
「飛ばしすぎんなよ王女サマ」
「あら一番飛ばしてるのはあの男よ」
「あァ…おい麦わら!次どっち曲がるのか分かってんのか!」
「わっかんねー!!どっちだァ!?」
「左よ!」
「ロロノア、お前左分かんの」
「そんくらい分かるわ!舐めんな!」
方向音痴ロロノアの言うことはいまいち信じきれなかったが、流石に前にいた麦わら達の後に続けば問題ないようだった。
「ガラ空きィ!!待ってろミンゴー!」
「警備が追いついてねェな!」
「とっとと抜けるぞ───」
壁に囲まれた道は今まで通ってきた所と打って変わって閑散としていた。このまま警備を振り切れば、王宮まで一気に近づける。
3人分の足音とおれの羽音だけが響く中、パキ、と何かにヒビが入る音がした。人獣型のときは聴力が人よりもかなり良い。だから多分、野生児じみた麦わらよりもその音に気づくのが早かった。
「…麦わら!止まれ!!」
「え!?どうしたウマ男!」
「何かくる!右の壁から!ッくそ、」
「っうわ、わわ、おわァァ!!うひょー!飛んでる!」
翼を思いきり仰いで一番先にいた麦わらの元へ飛び、その首根っこを引っ掴んだ。身体が浮き上がったことに歓声を上げる麦わらと共にそのまま後退し、突然山のように盛り上がりはじめた壁から距離を取る。
「なんだァ!?」
「石が動いてやがる…!」
ロロノアとヴァイオレットの近くに麦わらを放り投げて、壁を振り仰いだ。石壁が波打ち、まるで目と鼻のような妙な窪みが浮かび上がる。やがて轟音と共にせり出してきたその塊は、巨人ほどの大きさになって道を塞いだ。ついさっき空から落ちる隕石を見たばかりだから大抵のことには驚かないつもりだったけど、さっそく頭を抱えたくなる光景だ。
「なん……っだこれ」
「石の化け物……!!」
ロロノアが刀を構えた傍で、ヴァイオレットが青い顔をして後ずさりした。
「しまった……!ピーカ!!」
ああ、こいつがそうなのか。どうやらヴァイオレットが恐れていた奴が案の定現れたらしい。確かにこの巨体のうえ建物と同化なんて訳の分かんねえ能力使われちゃ、逃げるのも無理筋だろう。
だがそれも、“道を歩かなくちゃならない”場合の話だ。砂埃をあげながらこちらへ振り下ろされてくる大きな手のひらが通路を塞ごうとするのを見つめ、口を開く。ローがすぐそこにいるのに立ち止まってる暇なんかない。
「お前らおれに乗れ」
「……え?乗る…ですって?」
「ええ!いいのかァ!?」
「ローのためだ、早くしろ!」
「おっ、また乗れんのか」
道を塞がれてるなら空を飛べばいい。天馬へと姿を変えて、翼を大きく伸ばした。この石野郎、でかい分ノロマだ。速さなら負ける気がしない。
大はしゃぎの麦わらがまず背中に飛び乗ってきてきて、麦わらに腕を取られたヴァイオレットが戸惑いながらも後に続いた。最後にロロノアが乗ったのを確認して大きく翼を仰ぐ。背中からは「きゃあ!」と悲鳴が響いた。ま、空飛ぶ馬に乗るのって結構こえーだろうな。
速度を上げて巨体の頭上まで飛べば、石頭に浮かぶ瞳が驚いたようにおれを見上げてきた。追いかけて伸ばされてきた腕の更に上へと飛んで一気に死角に入る。しかし一人で大盛り上がりしている麦わらのせいであっという間に位置はバレてしまった。
「うっひょ〜たけェ~!すげェなウマ男~!」
「ヴァイオレット!このまま王宮に飛んでいいか!」
「い、いいえ、待って……!ことは小人達の作戦と同時に進めなければならない!」
「は?……くそ、その方がローを救う効率が上がんだろうな」
「もちろん。上手くいけば強力な戦力が増える!」
つまり、おもちゃになっている連中が一気に解き放たれるのを待つ。それがこいつの言う戦力だ。畜生が、少し待って駄目ならおれ1人でも突っ込んでやる。
「ペガサスかっけえ~~角かっけえ~~最高だウマ男~!」
「…ま、まさか空を飛ぶ日がくるなんて……」
「おい、あのピーカって野郎はなんなんだ?能力は?このままほっといて良いのか」
きょろきょろと辺りを見回す2人とは違っておれの背中に乗るのが2回目になるロロノアは、至極冷静にヴァイオレットに問いかけた。石畳を伝いこちらへ移動してくる石人間を見下ろして、刀を構えたまま今にも飛び出していきそうな気迫だった。
「ピーカはファミリーの最高幹部…!イシイシの実の岩石同化人間…触れた石と同化することができる能力の持ち主よ」
「…なら、王宮まで着いてくるかもしんねェってこと?」
「そうね……あなたの素晴らしい飛行能力ならこのままピーカを振り切れるでしょうけど、いずれは。今のあいつはこの王宮を実質支配していると言ってもいい」
「おれが水湧かしても無理そう?」
「同化っつーなら、石伝いにトンズラこいてまた別の場所に来るだろうな」
ロロノアが至極冷静に意見を言い、おれも頷きを返した。下を見れば外壁が丸ごと波打ち、生き物のように蠢いていた。ドフラミンゴを相手取るだけでも面倒なのに、あのデカブツがおまけで増えればロー救出の障害が増える。
「……決まりだな。リバー、降ろせ」
「あァ」
「いっけえゾロ!全部斬っちまえ!」
「え?貴方まさか……!」
おれと同じことを思ったらしいロロノアが背中をぽんと叩いてきた。頷きを返して地面に向かって急降下する。とんでもない浮遊感に襲われたであろうヴァイオレットがまたしても「きゃああ」と悲鳴をあげて、麦わらは「ひゃっほー!」と歓声をあげた。
こちらに気づいて振りかざされた石人間の手に向かって、ロロノアがおれの背中から飛び降りた。スパン、と石が真っ二つに斬り崩されたのを横目に旋回して元の軌道へ舞い戻る。
「む、麦わら……!彼、本当に大丈夫!?」
「あいつなら心配すんな!何があっても大丈夫だ!ウマ男もそう思ったんだろ?」
「まァ。サンジの仲間ならあんな石野郎くらいさくさく斬ってくんねェと」
「ししっ!そうそう、おれの仲間は強いからだいじょーぶ!」
おれのたてがみに埋もれながらそう言う麦わらの声には全幅の信頼が滲んでいた。ビュン、と風を切って外壁塔の下へと飛ぶ。ヴァイオレットは一息ついたようで、こわごわとではあるがおれの毛皮を撫でる余裕まででてきたらしかった。
「──…綺麗な毛並み……ああでも、こんな時だけど……本当に、空を飛ぶなんて生まれて初めてよ。ドレスローザが…私の故郷がよく見える」
随分と寂しげな声色だった。変わる前の姿と、変わってしまった姿と。両方を知っている王女の気持ちなんかおれには分からないし知る必要もないだろう。それはこいつの問題だから。おれにはおれの救いたいもんがある。ただ、倒してェ奴は一緒だ。
それは何にも変え難い共通項として、この空の上おれ達の中に確かに存在している。