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窓に手をついてサボを見送っていると後ろから覆いかぶさるようにして抱きしめられた。ローの香りがふわっとしてまた顔に熱が集まる。昨日ハグよりえろいこと散々したのに全く慣れねぇ。これ絶対一生慣れないままだ。
ローは肩に顎を乗せて、つまらなさそうに口を曲げてこっちを覗き込んできていた。胸がぎゅんっと高鳴る。勘弁して、何その可愛い顔!

「随分打ち解けたな」
「え、サボと?いや、打ち解けたっつーか……麦わらと似てねえ?気づいたらペース乱されてた」
「へェ」
「どうした?革命軍に思うとこある感じ?」
「そうじゃねェよ。……ふん、束縛してェなんざ無縁な感情だと思ってたが……お前は本当、色んなもんを教えてくれやがるな」
「———……束縛?そ、そそ、束縛?え……今、嫉妬したってこと?」
「悪ィか」
「……!!」

ふん、と鼻を鳴らしたローはおれを抱きしめる腕にぎゅっと力を入れて、肩に顔をうずめた。高い鼻筋が首にすり寄せられる。大きな体躯に身体がすっぽり包まれて、昨日から何度目かの天に昇る心地になった。

まじ?何よりも自由を愛してる男が束縛してぇっつった?道歩けば女に振り向かれまくるモテ男が、嫉妬?これ夢?……いや夢じゃねえ!両腕の中に収まったまま身体を後ろに向けて、感情が溢れるままに正面から思いきり抱き返した。

「して束縛。どんどんして。全然悪くねぇ、最高」
「……お前の自由を尊重してェんだがな」
「あんたに束縛してほしいっていうおれの意志を尊重してクダサイ」
「ふ、なんで敬語になる」
「下手に出てお願いしてんの。あんたの嫉妬とか束縛とかご褒美でしかねぇもん。でも、いくらでもしてほしいからこれ言うの正直やだけど、する必要性は全くねぇ。おれの眼中にあんたしかいないって知ってるだろ?あんたがいれば良い。おれにはあんただけだから」
「あァ、知ってる。だからお前の気持ちどうこうじゃねェよ。お前がそうでも周りはそうじゃねェだろうが」
「……どういうこと」

周りって何。誰に何を言われようがあんた以外本当にどうでもいい。サボや麦わらの一味のことは嫌いじゃないけど、あいつらから好かれようが嫌われようがどっちだっていい。それを言おうとすると頬に両手が添えられて、頭ひとつ分高い場所からローが真剣な表情で見下ろしてきた。

「お前、おれの顔が好きだろ」
「大好き」
「おれもお前の顔が好きだ」
「………!!ど、どのへんが?」
「全部だ」
「全部!?……ッこの顔丸ごとあんたのだから、一生愛でて。死ぬまであんた好みに保つから」

衝撃に打ち震える。背伸びしてローの両手に包まれた顔を近づけると、ローは柔らかく目元を緩めておれの頬を指で撫ぜた。

「ばか、どんな見てくれになっても構やしねェよ。皺だらけになってもお前はお前だ」

顔がぽうっと赤くなるのが分かった。なァ、これ以上あんたに溺れさせてどうすんの?ローへの感情に底が無さすぎて正直怖い。じいさんになるまで一緒にいれたとして、おれより一秒でも早くローが先に死んだらどうしよう。想像するだけで泣き叫びたくなる。

「……うう、おれもどんなあんたでも大好き……」
「あァ、おれ達二人はそれで良い。だがお前がこの海で一番美しいことは事実だ。お前がおれしか見えてなくても、周りがどんどん寄ってきやがる」
「こ、この海で一番……?」
「あ?当たり前だろ。比べようも無くこの海で一番だ。人間の姿も天馬の姿も、角のてっぺんから足の先までお前は美しい。こんなに美しい奴は他にいねェ」

む、と眉間に皺を寄せたローは真剣そのものだった。大きな手がおれの前髪をかき上げて、確認するみたいに顔を見つめられる。

そんな風に、思ってくれてたのか。おれもローのことをこの海で一番かっこいいと思ってる。当たり前すぎる事実だ。欠伸がでちまうくらい、当然のこと──……もしかして、おれと同じくらい当たり前に思ってた?

ふと、ずっと注がれている視線がとてつもなく熱いことに気が付いた。そういえば昨日の夜もローの視線は本当に一度もおれから離れなかった。自分とローの感情の重みの違いを考えようと思ったことはない。だって考えるまでもなくおれの方が重いに決まってる。でもローは今嘘偽りなくおれをこの海で一番だって言ってて、それはおれがずっと思ってたことと同じで———。

「……ま、待って、キャパオーバー。まだ昨日の夜あった事を噛みしめきれてねぇから、そんな破壊力ありすぎる話はまた今度、ゆっくりで……」
「駄目だ。死ぬまで傍にいるつもりだが、一秒も離れずずっと隣にいるなんざ無理だ。おれもお前も一人の人間で、海賊だからな。だから今おれの気持ちを伝えておきたい。なんせおれ達はこれからまた広い海に出る……二人っきりじゃいられねェ」
「——…う、ん」
「おれァ自由に空を飛んでるお前を見るのが好きだ。だが、誰の目にもつかねェように傍に閉じ込めたくなる時もある。一年半お前がいないクソみてェな日々を過ごした後、反動みてェに四六時中一緒にいたせいで、こんな訳の分かんねェ感情が生まれた」

感情の籠った声色とは裏腹に優しく抱えられて、窓辺の縁に座らされた。変わらない高さにローの瞳がある。大好きな薄灰色の目。おれにとってはこの海で一番美しくてかっこいい男。

「翼と角、出せるか?」

小さく頷いて、ローを見つめたまま身体に力を入れる。開け放たれた窓の外に向かって大きく翼を広げて、ローに当たらないように小さく角を伸ばす。昨日は折れていた角はもう完全に治っていた。
黒い羽根が何枚かひらひらと舞い散る。ローは眩しげにそれを見上げてから、角の先にそっと唇を押し当てた。

「やっぱり綺麗だ、お前は。この翼も角も、お前の全部……誰にも、何にも渡さねェ」
「そうだよ。おれの全部はあんたの」
「あァ、羽根の一枚までおれのだ。リバー……」

腰に手が回って首筋を舌が這う。快感にのけ反ると追いかけるように喉に吸い付かれて、息を漏らしながらローの首に腕を回した。
喉を甘噛みされ、顔中にキスを落とされ、いつの間にか上半身は殆ど外に投げ出されていた。長い腕に支えられながら、真上から見下ろしてくるローを見つめ返す。ローの黒髪が風に靡いてその瞳を見え隠れさせた。たなびく髪の隙間から覗く静かな眼差しが、おれを光線のように貫いている。

「これから先、おれからお前を引き離そうとする奴は、息の根を止める。身体を切り刻んで心臓を握り潰してやる。だからリバー…冗談でも、おれ以外に目を向けるな。その相手が死んでもいいなら話は別だが」

———歓喜で目の奥が急激に熱くなった。ローを引き寄せて翼で包み込んで、震える声を漏らす。

「おれが余所見するなんてありえねぇから。おれにはあんただけだから、だから、あんたも………」

ひく、と喉が震える。こんなこと口に出していいのだろうか。自由を愛するローに、こんな自分勝手な望み。思わず口をつぐむと、ローは勢いよくおれの身体を抱き上げて真っすぐに見つめてきた。

「全部言え。お前は肝心な所で自分の望みを言わねェ。海賊ならもっと傲慢になってみせろ。おれはもう欲望を全部ぶつけたぞ」
「……あんたのは、欲望のうちに入んねぇ………だって全部嬉しいだけだ」
「おれもそうだ。お前の望みなんざ何を言われても可愛くて笑えてくる。ほら、言え」
「うう……」

ローはおれを抱き抱えたままベッドまで歩いて上半身をその上に降ろした。出しっぱなしの翼が布団に埋もれて、頭の隣にローの手が置かれた。上から大きな身体が被さってきて、逃げも隠れもできない。

逡巡する喉を叱咤しながら、潤む瞳でローを見上げた。ずっとずっと心の中で思い続けてたこと。でもローには一生言うつもりなかった。だって、ローはおれと違って“束縛”なんか大嫌いなはずだから。

「言う、から……ぜ、絶対嫌いにならないで」
「お前を嫌いになるわけがない。天地がひっくり返ってもありえねェよ。自分でも信じられねェが、お前になら殺されても良いってところまできちまってるんだ。だから、言え」

額から出た角の先に唇を押し当てながらローはそう言った。なあ、おれがあんたを殺すなんて、それこそあり得ねぇだろ。涙が目尻から零れ落ちていく。おれは顔の横にあるローの腕を握りながら、嗚咽混じりに言葉を紡いだ。


「…お……れは──あんた以外目に入んない。だから、あんたにも、余所見しないでずっとおれだけ見ててほしい……おれより綺麗な奴がこの海にいないなら、ずっとおれだけ見てりゃいい。それで……一生飽きさせねェように頑張るから、お願い、もうおれ以外抱かないで………」


──言った。言ってしまった。驚いているのかなんなのか、ローの瞳孔がみるみる大きくなっていくのを見ていられなくて目をつむった。
重っ苦しい束縛以外のなんでも無い。誰を見ようが誰を抱こうがローの自由なのに。閉じた目尻から涙が零れ続ける。それが嫌で両手で顔を隠そうとすると、手首が勢いよくローの手に縫い留められた。そして掠れた声で「おい、」と上から呼びかけられる。

「………まさか、それだけか?」
「え……?」
「それをずっと言いたかったのか」
「…ご、めん、あんたがこういうの嫌いって、分かってんのに…」
「嫌いじゃねェ」
「え、」
「いや……お前以外に言われたら我慢ならねェがお前が言うと……あー………時間ねェのに可愛い事言って興奮させんじゃねェよ。おい、本当にそれだけか?」
「これだけ、だけど」

はあ、と深いため息をついたローがどさりとおれの上に降ってきた。心地いい重みと柔らかなベッドに挟まれて、恐る恐る背中に翼を回す。分厚い胸板に覆いかぶさられて、心地が良かった。

なんか分かんねぇけど全然怒ってないっぽい。ローはのそりと身体を起こして肘をおれの顔の横について、呆れたような目つきで見下ろしてきた。

「……言われなくても、お前以外目に入らねェよ」
「え」
「え、じゃねェ……昨日惚れてるっつったろうが」
「それとこれとは違うっつーか……おれはあんた以外に勃たねえけど、あんたは分かんないし……」

切れ長の瞳を細めたローは、おれの目尻に残った涙を指でそっと拭った。

「自己肯定感の低い奴だと常々思っていたが、こんなに深刻だったとはな。まァ、対応を怠っていたおれの落ち度でもあるか」
「い、いや、あんたは何も、」
「ちゃんと言ってなかったおれも悪ィ。今聞け。今後お前以外抱く気は更々無い。そもそもお前と出会ってから、お前以外とキスもセックスもしてねェ。元々性欲は薄い方だ。誘われた時しかやってこなかったし、あんなお前見た後にお前以外に反応するわけもねェ。あァそれと、性欲薄いっつったがお前相手だと朝まででもやれそうだから、やりてェ時はおれからも誘う。いいか?」
「————……ぅ、あ……?」
「最後までちゃんと聞いとけ。おれァあいつらのキャプテンでもあるからその部分はやれねェが、それ以外の全部はお前のもんだ、リバー。お前のおかげでコラさんの悲願もこの手で果たせた……だからトラファルガー・ローはお前にやる。そんくらいお前しか見えてねェ。お前はこのおれを骨抜きにするほど極上の男だ。それを自覚しろ」
「……………………」
「……聞いてんのか?」

聞こえてる。ただ意味を受け取って噛み締めるのに時間がかかってるだけ。
間抜けに口を半開きにして鈍い脳を動かしているおれを見下ろして、ローは涙の乾いた目尻に何度かキスを落としてきた。

「……えっ、と、あんたはもうおれ以外抱かない……」
「そうだ」
「お、おれしか見えてねぇ……?」
「あァ」
「……そのうえ、トラファルガー・ローがおれの……?」

端正な顔が真上でふっと微笑んだ。高い鼻先がからかうようにおれの頬を擽って、耳元で吐息混じりに囁かれる。

「お前の好きなこの顔も身体もお前のもんだ。──リバー、考え中のとこ悪ィがそろそろ時間だ。そのままで良いから移動するぞ」
「だ、大丈夫。まじで鼻血出そうだから、後でちゃんと受けとめる」
「鼻血?……ははっ、可愛いなお前は」
「ちょ、待っ…………」

本気で鼻を抑えたおれを楽しげに笑ったローが引き寄せた。ふらふらと立ち上がったところで唇が塞がれる。貪るような熱いキスを必死に受け入れながら脳を覚醒させようとして、当たり前だけど失敗した。

出会ってからこれまでにローが言ってきてくれた言葉は全部覚えてる。もちろん今の言葉も一言一句全部頭に刻んだ。そのせいで腰に力が入らないし、視界もずっとクラクラしている。

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