25


二人して無言で窓の外を見ていると、ローのデニムのポケットにいた電伝虫が呼出音を鳴き始めた。すぐにローが受話器を取って、おれも聞こえるように近くに寄る。
聞こえてきたのは女の声だった。多分、イッカクだ。

『キャプテーン、無事ですかあ!』
「ああ。そっちは」
『海軍には見つかってません!でもまだ港に軍艦が停泊してますよ。そろそろログの溜まる頃合ですよね?最初に降りた島の裏の桟橋、そこで落ち合いましょう!』
「分かった。船を回しておけ」
『はい!』

ガチャ、と切れた電伝虫をしまって、ローは足早にベポの元へ向かった。オレンジのつなぎのポケットから、何やら球状のコンパスのようなものが取り出される。多分あれが、本に書いてあったログポースってやつだろう。
それを確認したローは、ベポの腹をぽんと叩いた。

「おいベポ、ログが溜まった。ここを出るぞ」
「…え!もうそんな時間!」

ベポが慌てて飛び起きる。そしてローの手にあるログを確認して「ほんとだーー!」と叫んでから、どたばたと皆を起こして回り始めた。

起こされたクルー達は、寝起きの割にてきぱきと動いた。食料の入った荷車や、調達してきた物資なんかを手早く準備していく。おれもローが買っていた医薬品なんかが入った袋を背中に抱えた。ローは各地で作られた薬を収集しているらしく、袋は結構な重みがある。

「港にまだ軍艦があるってことは、島にはまだ海軍がいる。何処かに回り込まれてる可能性もある。注意しとけ」
「アイアーイ!」

白いつなぎの連中に、大きいシロクマ。正直なところ、かなり目立つ集団だろう。島の裏手の桟橋までは結構な距離もある。まあ見つかってももうログは溜まってるし、船まで逃げればこちらの勝ちだ。


小屋を出て、できる限り森や丘の影になる所を選んで進んだ。おれは大きな荷車を引くクルーを手伝うため、後ろから荷台を押して歩いていた。
太陽が真上に登りきっていて、肌が汗ばむ。長年どんよりとした冬島にいたおれにとっては、この春島の陽気はあまり肌に合わなかった。

森が開けて、家が立ち並ぶ小さな町が見えてくる。船が待つ桟橋があるのは、ここを抜けた所だ。

それにしてもまじで暑い。やっと着くか。流れ落ちる汗を拭ったときだった。押していた荷車が急に動きを止めて、おれは思いきり食料の山に衝突するはめになった。なんなんだ、いてェ。じんじんと痛む顔をさすりながら、恨めしく顔をあげる。すると、皆は立ち尽くしたままに前を向いていた。

「…おい、どうした」
「あちゃー、ばれてたか」
「ああ?」
「ほら、前」

荷車を引いていたクルーが、頭を掻いて前を指さす。荷物からひょこりと顔を出してみると、成程、町の入口に白い制服がずらりと横向きに列を成していた。真っ直ぐに此方を見て、銃やら剣を携えている。

そんなに広くもない島だ。一日探し回るうち、何処からかおれ達の通る道を突き止めたのだろう。隊列の一番前にいる男は、昨日宿屋の前で指揮をとっていた海兵では無かった。なんというか威圧感がまるで違う。…それにしても。

「……なんか、凄い人数いねェか?」
「ああ、まァ船長は二億の首だからなあ」

隣に立っていたペンギンが、どこか誇らしげに胸を張った。それは良いが、百人はゆうに超えてるんじゃないか。幾列も続く海兵を見て、げんなりとため息をつく。
と、先頭に立っていたローがでかい舌打ちをした。…バレる可能性は高かったし、こんな状況何度も打破してきただろうに、後ろ姿がやけにだるそうだ。おれは不審に思って声をかけた。

「どうした?」
「…面倒臭ェのがいる。海軍本部の中将だ」
「ええ!?」

ベポが素っ頓狂に叫んで飛び上がった。中将、てことはかなりのやり手ってことか。
先頭にいるモヒカンを途中で結んだ妙な髪型をした長髪の海兵が、多分そうだろう。道理で気配が違うわけだ。明らかに制服の造りが他と違っていて、体躯も大きい。

「……おい、お前らは横の森を迂回して行け。多分船の方にも追っ手が回ってるはずだ。こっちはおれがやる」
「りょ、了解!」
「キャプテン、お気をつけて」

荷物を抱えたクルー達が慌てて方向転換する中、おれはその場に残って動かないまま、海兵達をぼんやり眺めた。こんな大人数相手したことないけど、まァ物は試しかな。

「……おい、リバー。なに突っ立ってる。お前もだ」
「………」
「おい…」

「…リバーー!!」

呆れたようにため息をつくローを無視していると、後ろから突然シャチの声がして、背中に背負っていた荷物をふんだくられた。
走っていくペンギンにそれをパスして、シャチがばん、とおれの背中を叩く。その勢いで少しつんのめった。

「いいか、キャプテンのオペオペの実は使えば使うほど体力を使う!!頼んだぞ!」
「…!あァ、任せとけ」
「……おい、余計な事を教えるな」


面倒臭そうなローに向かって良い笑顔でぐっと親指を立てて、シャチは走り去っていった。

ふう、と息を吐いて前へ振り返った。中将が、ぴ、と手を上げる。一斉にじゃきんと構えられた銃口に、ざわざわと鳥肌が立つ。ああやっぱり、銃は大嫌いだ。

ローにそれを向けられる腹立たしさから総毛立った感覚のまま、おれは背から勢いよく翼を出した。たん、と思いきり地面を蹴る。ローが下で右手を翳すのが見えた。ブゥン、と広がる“円”と共に、おれは宙へと舞い上がる。

ローの“円”は、中将だけを捉えて進行を止めた。それで良い。あんたの負担を少しでも減らすことが出来れば。

残りの海兵達は、あんぐりと口を開けておれを見上げている。ぞわりと蠢いた髪が背中まで続き、たてがみが伸びる。額が盛り上がる感覚と共に、腕の長さほどもある角が伸びる。
蹄へと変化していく手を振り上げながら、おれはどよめく海兵達ににやりと笑いかけた。

「なァ!良い踏み台になってくれよ?カイヘーさん!」




- 25 -

*prevnext#

back

TOP