「いるじゃねェか何が一人だ!!」
「…いたな…今驚いてる所だ…」
ローは想定外の乱入者にかなり驚いているようだった。…麦わらの一味が研究所から出てきた、この光景海軍に見られたらかなりやべェんじゃねえか?降下しかけていた翼を再び傾け、一直線に地面へと向かう。誰ひとりとして空を見上げる者はいなかった。
子供達を先導していたサンジが入口前の海軍と対面して、慌てたように背後を振り向く。忙しないとこも変わらない。
「マズイぞ海軍だ!ここは無理だ出口を変えよう!ガキ共は裏に──」
「おいサンジ!!!」
「まわ、れ、ッ!?!?」
海軍の一人の頭上に靴をのめり込ませながら着地して大声で叫べば、その金髪が弾かれたように振り返った。みるみる見開かれる目に大きく翼を広げた人獣型のおれが映る。
「……えッ、リバー!?なんで…あ!そっかお前トラファルガー・ローか!!」
「ちっ、お前が黒足か……」
「おお、おお……!!」
盛大な舌打ちをかましたローは、やけに不機嫌そうにサンジを睨みつけた。その視線をにやにやと受け止めた喜色満面の男がローの肩を馴れ馴れしく叩く。その手は再び舌打ちをしたローに一瞬で振り払われたが、まるで気にしていないらしいサンジがまたこちらを振り向く。
「なァおい…良かったな!!会えたんだな!髪も切れたんだなリバー…良かったなァ!!」
「ああそっちもな!だが話は後だ!!サンジお前──」
相変わらず、真っ直ぐで眩しい奴。再会が今じゃなけりゃこっちだってハグの一つくらいしてェんだが、今はとりあえず大人しくしといてもらおう。
ここで静かにしておくよう説得しようと口を開けば、混沌とした展開にようやく慣れてきたらしいメガネの海兵がこちらに刀を向けてきた。
「…っい、一角天馬チェンバーズ・リバー!!7500万の賞金首、別途報酬金までかかってる海賊です!スモーカーさん!!」
「言われなくても見えてる!クソ、またややこしい奴が…てめェシャボンディで消えたんじゃなかったのか…!アホの天竜人への土産もんなんざごめんだぞ!」
おれの声をかき消すように海兵が叫び、じゃき、と幾つもの銃が頭目掛けて構えられる気配がした。
「ああ!?だっれが土産だクソ煙野郎!」
海軍のお偉いサンは天竜人がおれを狙ってることも勿論ご存知ってか、クソが。
舌打ちと共に思いきり広げた翼に力を込めてそれらを弾けば、武器を吹き飛ばされた海軍が慌てふためきどよめいた。
「た、大佐ちゃん!この男バケモンだ!翼が鉄みてェにかてえ!」
「し、しかもどんだけでかくなるんだこの翼……!!」
「皆落ち着いて!一角天馬及び麦わらの一味を捕らえます!!」
「駄目だたしぎ!そこの一角天馬は今や七武海の部下!おれ達が手ェ出すわけにゃいかねェ…!!」
「は、はい!!」
そうか、そういう取り決めなんだったか。自分が七武海の部下なんだって実感は薄いが、悔しげに銃を下ろす海軍の姿にローが登りつめた地位の高さが伺えた。そして未だ麦わらの一味には銃口を向け続ける海軍にサンジが切羽詰まってこちらを振り仰いだ。
「悪ィリバー、おれ達はずらかる!またな!トラファルガー、ようやっと会えてまあまあ嬉しいぜ。リバーをよろしくな!!おいお前ら裏口へ回るぞ!!」
「……おい…誰が誰に誰をよろしくだって……?」
「お、想像通りの反応サンキュー!じゃあなァお二人さん!!」
何か気に食わなかったらしいローの、鬼哭を握る手がふつふつと震えるのが見える。なんでか今にもサンジに襲いかかりそうな雰囲気だが、状況的にスモーカーに背を向けるわけにはいかない。麦わらの一味と協力関係にあるなんて誤解は今は避けたいとこだ。
「おい待てサンジ…!ッロー、まずいんじゃねェのかこれ!」
「………あァ、状況も気分も何もかもが最悪だ。話を聞いてただけでもムカついたってのに、実際会うとこうも……」
ぶつぶつと何やら零し盛大に眉を顰めたローが、素早く手を掲げる。ブゥン、と広がった“ROOM”が大きく広がり海に浮かぶ軍艦までをも包み込んだ。これ、二年前よりも射程範囲広がってるよな、すげェ。辺りにいた海兵を翼で薙ぎ払いながらローの元へと飛べば、背後ではその指先一つで軍艦が宙へと浮かぼうとしていた。
長身の肩に手を置き、研究所の奥へと走り去る麦わらの一味の背中を見つめ顔を近づける。
「サンジ達が行っちまう」
「あいつらも逃がす訳には行かねェ」
「どうする?」
「…お前、黒足屋と話は良かったのか。会いたかったんだろ」
「ん?いい。あんた最優先」
そんなの当たり前だろ。俯いてしまったローを首を傾げ覗き込めば、帽子の影の下で薄灰の瞳がほどけるように細められた。さっきまでのしかめっ面が嘘のような柔らかい表情に、そんな場合じゃないってのに耳が少し熱くなる。
おれなんか変なこと言ったか?
「な、なに?当たり前のこと言っただけなんだけど」
「…は、なら遠慮しねェぞ」
褒めるように頭が撫でられる。そしてローが広げた“ROOM”が逃げるサンジ達を捉えた。直後に掲げられた鬼哭の斬撃と共に連中の心臓のような何かが飛び出して、それで……。
「シャンブルズ」
……んん?ローが手を翻した瞬間、全速力で走っていた連中が途端に混乱しきって速度を落とす。
「………んだあれ?どうなった?」
「これで逃げられねェだろう。リバー、あっちを追え。こいつらはおれがやる。何があっても島から出すな」
「分かった」
すぐに頷けば長い指がさらさらと髪を梳くように動いた。それから力強く肩を叩かれる。あー、頼られるって最高。ローに笑みを返して、サンジ達の後を追うため一番速く動ける天馬の姿になって翼を仰いだ。
「…おい待てウマ野郎…!!」
「お前の相手はおれだ、白猟屋…」
「……トラファルガー…七武海があの馬ァ持ってて良いと思ってんのか?今まで行方不明だったから天竜人も溜飲下げてたが…お前のとこにいると知れりゃあ連中カゴ持って追いかけてくるぞ」
「あいつを含め、お前らはこの島で“何も見なかった”…そういう事にさせてもらう。おれァ今機嫌も最悪なんだ。せいぜい楽しませろ」
「チッ……海賊風情が…!!」
ローがスモーカーと何やら話している声もすぐに遠くなる。いくら走ったって、天馬の速度の方が上だ。数秒後にはもう研究所内をひた走るサンジ達の背中に追いつこうとしていた。