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子供達を含んだ大所帯は、島に打ち捨てられていた研究所の跡地へと避難した。そこに合流したのが麦わら、ホネ、長鼻、ニコ・ロビン、それに“クソマリモ”ことロロノア。ワニのような妙な生き物に乗って吹雪の中を駆け抜けてきた麦わらの一味の残りの連中は、その割にはピンピンとして元気そうだった。

あーあ、こうなりゃ力ずくで解決は不可能だ。そこまで自惚れちゃいない。一瞬練りかけていたプランをかき消し子供達の影にしゃがみこんでいれば、チャキンと刀の鳴る音が響いた。

「…で、そこにいるお前はどこのどいつだ?」

…ロロノア・ゾロ。サンジが散々愚痴ってた通り殆ど野生の獣だな。立ち上がり連中の前に足を踏み出して、「こいつは…」と言いかけたサンジを翼で制する。船長に挨拶くらいはしてもいいだろう。

突然現れた角と翼を生やした人間に、長鼻が「ヒィッ」と叫んで腰を抜かし、ホネとニコ・ロビンは興味深そうに身を乗り出している。ロロノアは依然として戦闘態勢。一転、麦わらはきらきらとした瞳でおれの角やら翼やらを見てきた。

「お、お前なんだそのカッケー角に翼……!あ!シャボンディでクマといたペガサスか!?」
「…あァ。久しぶりだな麦わら」
「おう!そうださっきトラ男にも会ったよ。確か仲間だったよな」
「──……トラ男?誰だそれ」
「トラ男はトラ男だ」
「?だからトラ男なんて……いや……あァ!?」

……おい、まさか。冗談だろ?

錆び付いたブリキのようにぎこちなくサンジの方を振り返れば、肩を竦めて首を横に振られた。額を抑えて天を仰いだ。ジーザス。思わず信じてもいない神に向かって嘆く。嘘だろ?最悪だ。

「まじか?正気か麦わら……おれの最高にかっこいいキャプテンの名前を……そんな…」

ああ、誰かこいつをぶん殴ってくれ。だがサンジの話しぶりを思い返せば、この冒険野郎はおれの言うことなんか馬耳東風なんだろう。クソ、最悪だ。

ローを指したダサすぎるあだ名への衝撃に耐えきれずにいるおれに、麦わらは全く気づくことなく屈託の無い笑みを向けてきた。

「トラ男の仲間ってことは、お前も2年前におれのこと助けてくれたのか?あん時はありが…」
「……いや…いい。おれァあの場にいなかったから礼はいらねェ」

まっすぐな麦わらの瞳を受け止めきれず目を逸らせば、すぐ横に立っていたサンジが気持ちを汲むように肩をポンと叩いてくれた。

「あールフィ、こいつはあん時おれ達と同じように野郎の肉球に飛ばされて、半年くらい前までおれと同じカマバッカ王国で過ごしてたんだ」
「え?そうだったのか…んじゃ、あそこにはいねーよな。悪ィ」
「リバーにはあの地獄で散々世話になったんだぜ」
「へェ!サンジと一緒にいてくれてあんがとなー」

頷きを返して麦わらに一歩近付けば、ロロノアが刀の柄から手を外した。眼光鋭い右目は変わらずおれを捉えていたが、さっきまでの緊張感はもう無い。ふうん、カマバッカでの口ぶりからして仲悪ィのかと思ってたけど、サンジがおれに気許してんの見て警戒解いたな。信頼はし合ってるんじゃねえか。変なの。

「…麦わら、お前がこの島に来た理由はあの緊急信号だろ?」
「ああそうだ。冒険の匂いがしたからな!」

しし、と太陽のように笑うその様に少し気圧される。面白ェ奴だと思うのは確かだけど、こうして面と向かって話すと気後れしてしまうのも事実だ。なんつーか、目がチカチカする。とりあえずこの男の好奇心を萎えさせるべく、頭の中を整理しつつ口を開く。

「……まず、その緊急信号に出てた侍っつうのがそこの生首と、お前らが持ってきた下半身だろ。で、そいつを斬ったのはおれのキャプテン……トラファルガー・ローだ。能力で殺さないまま身体を斬れっから。まだ何か疑問は…」
「なに、キャプテンだと!?そうかお前…ローの仲間か!」

あわよくばこの島への興味を無くしてくれねェかななんて淡い期待を寄せて麦わらに対峙していたが、突然口を挟んできたのは麦わら達が乗っていたワニのような海賊だった。

茶ひげとかいうらしいこいつは満身創痍でパンクハザードに上陸した所を“M”に救われ、更にはローに脚をつけてもらえたのだとツラツラ話しだした。

「ローはおれの救いの神だ…!あァあんた、おれァこいつらに捕らえられてたんだ!ローの仲間だってんなら、助けてくれ!」
「…おれはローにこいつらを島から出さねェようにとだけ言われてる。悪ィがお前を救う余裕は無ェ。じき別の助けが来るだろう」
「~~~っそ、そうか……」

大体おれはこの島の連中に存在さえ知られていない。毛頭無理な相談だ。そもそも、死の淵にいたこいつを救ったという“M”…麦わらの一味には茶ひげの語った美談に感動して泣いてる奴らまでいるが、恐らくこれがシーザー・クラウンだろう。ローが聞かせてくれたシーザーの能力のことを思い返せば、島に充満してたとかいう毒ガス自体奴が引き起こしたもんじゃねェのか。

…だったら、こいつに救いの手など差し伸べられるはずが無い。茶ひげから目を逸らし考えを巡らせていれば、背後から大きな足音が近づいてきた。

「…おのれ!!この妖怪め拙者の胴体を返せえ!」
「ッあっぶねェな」

頭と下半身をくっつけた妙な見た目になった侍が、突然勢いよく頭突きを繰り出してきたので翼でそれをいなした。眉を吊り上げ目を見開いた激しい形相で睨みつけられ、舌打ちが漏れた。

「避けるな妖怪!フン、色男の頭に角を生やし、更には地獄の使いのような翼!あの冷酷な男の部下に相応しい気味の悪さだ!」

ストレートな暴言に、隣に立っていたサンジが「お前なァ」と侍を止めようとする。その腕を引いて、前に出る。どうでもいい奴になんと言われようが構わないが、ローを引き合いに出されたら黙ってはおけない。

「おれに当たんなよ、サムライ。お前が島の奴を斬ったからローがやり返しただけだろうが」
「いいや!そもそもの始まりはモモの助さ…モモの助を貴様らが捕らえたせいでござる!!」
「ああ?んだそれローはそんなチンケな真似しねェよ」
「何を!どの口が申すか!!は、七武海などと片腹痛い!長が長なら部下も部下だ!!」
「……てめェ今、ローを馬鹿にしたか?」

胴体もねェくせに威勢のいい野郎だ。その間抜けな身体もう一度切り離してやる。怒りにまかせて額からメキメキと角を伸ばして翼に力を込めれば、侍は怯みながらもこちらを睨みつけてきた。

「うっひょ~かっけ~!!」
「ルフィはしゃぐな!おいリバー落ち着け、クールなお前に戻れ!」
「あほ侍、てめェは喧嘩売んなら身体戻してからにしろ。今の状態じゃ勝てるわけねェ」

冷や汗をかきながらも臨戦態勢に入っていた侍はロロノアに引きずられて行き、おれはサンジに後ろから羽交い締めにされた。細っこい女の手だったが、その口調は確かにサンジだったので仕方なく角を戻す。

「…おいサンジ、一応聞くがお前あの侍救う気か」
「あァ。あの首を連れ出したのはおれだ。責任がある」
「…変わらねェなお前も。勝手にしろ」
「言われなくても」

に、と笑みを浮かべるのは女の顔なのに、その表情はサンジそのものなのだから不思議だ。全くこいつの底抜けにお人好しなところは変わらない。本当に、おれには理解の及ばない部分だ。

やがてサンジは、胴体を探して飛び出して行った侍を追いかけて極寒の地へと出て行ってしまった。

ホネと、それからお目付け役のロロノアと共に。流石に島から出る程遠くへは行かねェだろう。追いかける理由も無いのでおれは麦わらの近くでその動向を見守ることにした。多分そろそろ、ローがあの海兵達を伸した頃だ。

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