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カランカラン、とドアベルが鳴り客の来店を知らせた。


「いらっしゃいま……」

「どうも、来ちゃいました」


そう言ってカツカツと歩いてくる彼女はつい先日出会った名字名前だ。彼女は前回とは違いカジュアルな服装で可愛らしいパンプスを鳴らしながらカウンター席へと座った。
前回とは違い緩く巻かれた髪にタートルネックのリブニット、首元にはパールがあしらわれている。どうやら今日は非番のようだ。


「今日はお休みですか?」

「ええ、丁度有給がありましたので…それに安室さんのコーヒー飲みたくて」

「そうなんですね……ホットで良いですか」

「お願いします」


ニコリ、彼女の作り笑顔にこちらも作り笑顔で返す。
彼女が本当にコーヒー目的で来たのかどうにも怪しい気がしてならない。カウンターの中に戻りフラスコの中へ水を入れアルコールランプに火をつける。彼女はじっ、とこちらを見ていた。
運がいいことに今は店内にほかの客は居らず、梓さんも今は休憩に入っているところだ。出入口である扉を見て客が入ってくる様子がないことを確認してると「安室さんって」と声がかかった。


「罪な男ですよね、彼女随分炎上してる」

「……よく彼女からも怒られますよ、"軽率な言動はやめてください"って」

「大変ですね、私には無縁ですけど」

「そうでしょうか?これからも会うというのに」

「仕事ですからねえ」

「……仕事以外には会えないんですか?」


「2回目でそんなこと言っちゃいます?」

「気になりますからねえ」


貴女のすべてが、と一言付け加えて出来上がったコーヒーを彼女の前へと置くと彼女はゆっくりとソーサーからカップを持ち上げひと口コーヒーを飲んだ。その指には相変わらず格好に似合わない存在感のあるリングがはまっている。
カチャ、とカップが戻されその手がカウンターの上へと戻された。ゆっくりと自分の手を近付けてそのリングがはまっている指に触れると彼女は「なんですかいきなり」と言いつつそれを退けることは無かった。


「貴女にしては随分と大きなリングですね」

「これが無いと色々と都合が悪いんですよ、お守りみたいなもので」


リングをひと撫でしてその手の甲に自分の掌を重ねて少しだけ力を入れて握る。小さな手で随分白い肌に何故だかずっと触っていたくなる。「人肌恋しいんですか?」なんて彼女は聞いてきたがこんな風に触るのなんて久々だ。確かに人肌恋しいのかもしれない。ふ、と小さく笑って「そうかもしれないな」と返すと彼女は反対の手でコーヒーカップを持ち上げた。自分らしくない行動だが、不思議と何故だか触れていたくなる。こんなことは初めてだ、と少し戸惑う。しかし今離したくない。


「人と付き合う気は?」

「探ることを前提にですか」

「いえ、純粋に」

「メリット、あります?」

「安室透として非常に動きやすくなる、君は僕を利用出来る」

「それ協力者で良いのでは?というより、安室さん疲れてませんか…考えが変ですよ」

「自分でも少しおかしいとは思うが……この手が好きだな、と」

「ワオ…………」


そこまで言うと彼女はだんまりになってしまい、僕は変わらず彼女の手を握っていた。やることはあるのに、どうしてもなんとなくこの手を離すのは嫌だった。だからこそ彼女に付き合うという提案をしたのだが、うーん、と悩んでいる。不思議なものでひとつ好きなところを見つけると彼女の一つ一つの行動が可愛らしく見えてくる。現実は風紀財団という物騒な集団の中の一人なのだが。


「まあこのまま誰とも付き合わず死ぬのも勿体ないですしイケメンなので良しとしましょう」

「だれとも付き合わず…?つまり初めてということですか……?」

「え?そりゃあ色々ありましたし…じゃあ早速ですが次のお休みはいつでしょう?」

「そうですね、明後日はお休みです。まさか女性からデートに誘われるとは」

「折角ですしね。では午前10時半に米花シティホテルで会いません?」


スっと引かれた手はカバンから手帳を取り出しペンを握った。置いてけぼりになった自分の手を下ろしてじっと彼女の書いていく文字を見つめる。