06

安全装置が外されたソレを向ける人間をくすくす と笑った。そのことに逆上した人間が引き金を引けば弾が火薬の匂いとともに近付いてくる。
危ない! と叫び声が聞こえるが、私にとってこんな物は玩具も同然である。意識を集中させれば直ぐに弾はあらぬ方向へと飛んでいき、ソレを放った人間はなぜだ、と小さく呟いた。
タンッ、と地面を蹴って飛び上がり、そいつの前へと着地したと同時に彼の手を掴み己の顎へと銃口を向けた。男の力に勝つなど到底無理かもしれないが、脅しのためだけにしておく。そうすれば案の定彼の馬鹿力が働いてすぐに手を解かれ、今度は私の額に冷たい銃口を突きつけられた。


「ヒバリの女は随分とじゃじゃ馬らしいな」


その言葉に否定をしようと口を開いた瞬間、パン、と音がした後に私と男の間を鉛玉がビュンッ、と通っていった。それに驚いた男は一瞬怯え、私は出処を見やる。そこには随分とスーツが乱れた降谷さんの姿だ。


「彼女は雲雀の女ではない」

「えええ......そこですか」


それに本来なら貴方はここにいないだろ、と文句も付けたくなる。


「安室さん、どいていてもらってもいいですか!」

「は、何言っ」


リングに自分のエネルギーである炎を灯し小さな匣へと合わせると、酸素の薄い空間が出来た。
中には私と標的の男────おまけで降谷さん。
この空間いうよりこの匣自体がまだ、実験段階で本使用出来るような代物ではないが、使えるようになればボンゴレはこの匣を大層気に入るだろう。
この空間では痛覚も死ぬ感覚も全て味わえる。しかし、所詮この空間自体が幻覚で出来ているのだ。つまりは、ここで痛みを感じても、死んでも、現実は生きているし痛みの原因もない。


「恰好の戦場だよ」


懐に入れておいた銃を躊躇なく相手の足と腕に入れると、赤い鮮血が飛び散り、酸素が薄く息がしにくい相手はすぐにと動けず、呻きながら倒れ込んだ。その様に、さっきまでの威勢はどこに行ったのよ?と笑いながら聞いてあげたくなるほどだ。
近くへと寄っていき、浅い息を吐く男の髪を掴んで此方に向かせる。


「ボンゴレと組めば安心だと思った?」

「っ、たりまえ、だろ」

「安心だね。でもね風紀財団は同盟とかそんなの興味ないから」

「名前!辞めろ!」


ゴキっ、と大きく嫌な音が鳴り響いた。
少し苦しそうにしている降谷さんの声無視して、掴んでいた髪を思いっきり後方へ引っ張り喉を圧迫させた。
気絶してしまったのか、私の腕を掴んでいた手がだらん、と 落ちてしまい、私も髪を掴んでいた手を離した。すると男は私の足元へとそのまま落ちていく。


「名前、どうして、」

「ごめんなさい、待ってて」


耳元のインカムを繋ぐと同時に匣の効力が切れてきてるのか、呼吸はしやすくなってきたし、足元にあった血が薄くなってきている。


《終わりましたか》

「終わりましたので回収お願いします」

《了解》


気を失っているうちに、彼が匣を持っているのかを確認するために、彼の指にはまっていたリングを外し、仰向けにしてポケットを弄る。
胸ポケットの方へと手を動かした時にコツン、となにか硬いものが当たる感覚がし、こんどはそこをモゾモゾとすると、ネックレスに繋がれた匣を見つけた。
ぐいっとネックレスを引っ張ればほそかったチェーン外れすぐに切れ、匣は私の手中に留まる。


「な、んだ、」

「...効果が切れましたね。ただの幻覚空間ですよあれ」

「...っはあ、どういうことだ?」

「つまり、あそこで起きたことはすべて幻覚。だから彼も傷一つないですよ」


ほら、と血飛沫があった場所も、私が貫通させた場所からも傷も血も見当たらないことを見せると、降谷さんの目は大きく開かれた。なんだか新鮮な反応でくつくつと喉の奥で笑ってしまう。私も初めて匣を見た時はこうだった気がする。それが普通の反応だ。


「安室さん、話はまた今度。ここからは安室さんの領域じゃない」


目をじっくりと見つめ微笑むと、彼の意識は遠のいていき、やがて目を瞑ってゆっくりと倒れた。ごめんなさい、と髪をひとなでしてからやってきたヴァリアーの人間には男とクスリを渡した。


「名前さん!大丈夫でし、」

「ああ、ありがとう。悪いけど、風見さんに連絡してこの人引き取りに来てもらって」

「え、名前さんは!?」

「この匣の実験データを報告する方が優先だから」


じゃ、と手を挙げて背を向けると、リーゼントで体格のいい男が頭を下げて見送りをしてくれている。見なくてもわかるのは毎度恒例のことだからだ。私なんかに気を使わないでよ、と言っても中学生の頃から変わらない。中学生の頃は今よりもっと単純で、楽しかった。


「あの頃に戻ったら戻ったでキツいか」


骸やヴァリアー、白蘭達や赤ん坊達のこと、それらを思い出せばキツいに決まってる。
ぶるり、と体が震えた。