案内された席へと座り、印刷された紙をファイルから取り出しもう一度確認をする。情報に間違いは無いか、打ち間違えは無いか、相違点が無いか等。
シャー、とカーテンの下ろされる音をBGMに手元ではカサ、と音を立てた。
確認をザッと終えてファイルへと仕舞い前を見ると丁度降谷さんが全ての戸締りを終えてカウンターでアイスコーヒーをグラスへと注いでいた所だ。
注ぎ終えたグラスにストローを差してコトリと、私のテーブルに2つ置き、真正面の椅子へと腰掛けた。ありがとうございます、と声をかけるといつもの優しい顔で、いいえ と返事がされる。
店内はいつも流れている緩やかなクラシックのBGMも無く、普段なら綺麗に並べられた椅子はテーブルの上へと乗せられ、入り口の看板は中へと仕舞われていた。私達が居るテーブルのみが使われていた。
「わるいな、閉店してから来てもらって」
「いいですよ。こちらも仕事でしたから」
「そうか...助かるよ、ありがとう」
この人はなんて綺麗な顔をしているんだろうか。これは世の女性が好きな顔ですわ。恭弥も骸も山本も獄寺も他多数が整った顔をしているが、全員中身に問題がある。それなのに、降谷さんといえば中身は少々ワーカーホリック気味なだけであとは全てが整っているのだから、彼等に爪の垢でも飲ませてやりたい程だ。溜め息が出そうになるのをグッと堪えて、それで、と声を出した。
「今回は随分と簡単な依頼でした」
「ありがたいよ、助かる」
「こんな人間のデータならそっちのデータベースで事足りるかと」
「名前に会う為......と言ったら?」
相変わらずですね、といつもの様にぶっきらぼうに答えて資料へと目を落とす。確かにこんな人間の履歴なんて、部下へと調べさせれば簡単なことだろうに。どうしてか私に依頼してきて、会いたかったからなんて調子が良すぎる。まあそれに応えた私も私だけど。私としてはただ別に暇潰しで、報酬が貰えるから受けただけ。だから決して降谷さんに好意があるわけでもなんでもない。ただ、自分の利益率になるのなら唇までは差し出すことができるだけ。それに、私は恋だの愛だのそんな下らないことに興味なんて微塵もないのだ。あんなもの時間の無駄。
以前に一度彼にも話したことがあるが、その時はまた、彼も同様に頷いた。なので彼からのこういう甘い言葉等はハニートラップの一種だと私は思っている。私はマフィアでない分恋愛は自由だが。
しかし、降谷さんが私のことをよく思っている、と話している姿をぼーっと眺めながら、楽しそうだなあとぼんやり思った。
「ハニートラップはバーボンの専門だと思ってました」
「......君らしいな」
ハァー、と重く溜め息を吐いている姿に、思わずクスッと笑った。なーに、私は鈍感でもないから知ってる。この人が私なんかに好意を抱いてくれていることくらい。
でも残念ながら、バーボンや安室透が存在している時点でリスキーで、虚無なものもない。だからこそそれを知らない振りして、安室透やバーボンの姿には嫌悪感を出す。
「安室透が必要なくなった時は、ちゃんと考えますよ」
出されたアイスコーヒーのストローを軽く咥えて吸って、氷が溶けて少し薄くなったコーヒーで喉を潤す。目の前に座る彼は頬杖をついたまま、じっと固まってしまっていた。そんなに驚くことなのか?とこちらも目をじっと見つめ返す。
サッと口元に手を当てて私をマジマジと見だす降谷さんに なんですか 、と眉間に皺を寄せながら聞いても返答はない。
「君が、俺に近寄ってくるとは、思わなかった」
「...は?」
「君は俺のことが嫌いだろう、なのに」
「バーボンと安室がたまらなく嫌いなだけですよ。降谷さんについては嫌いではないだけで」
「っ〜、ああ、早く終わらそう。降谷零に戻った時は1番に会いに行こう」
「はいはい」
どう考えたって1番に会うのは部下の風見さんだろうよ 、その言葉と一緒にいコーヒーを飲み込んでポップアップ画面に通知が来たのでそれを開いた。
(赤井さんからか)
そろそろ帰ろうか
スマホをカバンへと突っ込み、荷物を片付けていると、来た時よりも機嫌のいい降谷さんが 帰るのか? と言うので小さく返事をすると少し寂しそうな顔をした。
しかしそう思ったのも束の間、降谷さんが立ち上がり私のソファー席へと来て隣へ着席する。必然と近くなる距離、ほんのりと香るシトラスにくらりとしそうになる。
「ふるやさ、」
「ん」
シトラスが近くなって、柔らかな唇がぷちゅり、とリップ音を立てて軽く触れ合った。こんなスキンシップしてくるのは降谷さん位だ。ハグはストレスを軽減させてくれるというが、キスには何かあるのだろうか。
優しいキスをされながら、現実的なことを考えていた。