「受け過ぎたなあ......」
依頼された要件を纏めた資料を前に、あーー、とだらしなく言葉が漏れた。
1つ目は合成案件、2つ目はハック案件、3つ目は人物について。
因みに合成案件が1番手強い。これについては言葉の一つひとつを取らねばならないし、なんならこの合成されたもので人間の一人の人生が変わろうとしているのだからなんとも言えない気持ちなのが本音だ。
しかしこれが一番重要な物となる。むしろこれ警察でやれ。そんな気持ちで耳元につけていたイヤホンに向かって口を開けた。
「1時間......いや、30分時間を頂きます」
《了解。頼んだ》
イヤホンを外し、代わりにパソコンに繋がれたヘッドホンを耳へと装着した。
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「なーーーーにが警察だよ!クソくらえ!」
出来上がりホヤホヤのデータを添付してメールを送信して、すぐにヘッドホンを外しイヤホンへと戻した。ついでにと、ハッキングのデータについても一緒に送っておいた。
それから1分もしないうちに電話がなり応答すると、思わず出てしまった悪態に、電話の向こうから大きな笑い声が耳に入った。
《随分と面白い発言だ》
「なーんも面白くもないです!もー!疲れました!」
《その分上乗せしておいたから》
あったりまえですよ!と少し大きめの声で伝えてから、次の仕事へと移る。この仕事は赤井さんからの依頼である。
赤井さんからの案件は、自身がハッキングしようとした所、ロックが厳重にかけられセキュリティ突破出来ずにいる とのことだ。こんな物ちょちょいのちょいなので、ちゃっちゃと済まそうとカタカタキーボードを鳴らして入力をしていく。
ソフトを起動させ中のロックがあっという間に解かれ、最後の所まで来た。きっとここまでは赤井さん自身も来たのだろうけど、確かに難しいかもしれない。
眼鏡を1度クイッ、と指で押し上げてまたキーボードの上へ指を滑らせた。
今度は、右につけていたイヤホンとは逆のイヤホンからザザ、と雑音が聞こえ始める。
《怪しいヤツを捕まえました》
「......私忙しいから恭弥に回して」
《恭さんは今匣の実験中ですので自分が行きます》
《了解しました》
「お願いしまーす」
最後にエンターキーを押して突破。
中のデータを全てディスクへと流し込み、足跡を残さぬ様しっかり確認しながら戻る。手を動かし続け約2時間。私の仕事は終わりだ。ピコン、と小さくパソコンが終わりを知らせディスクを取り出しそれを机の上へと乗せてからパソコンの電源を落とした。
スマホを操作し、目的の人物である緑と登録された画面をタップすると発信音が右のイヤホンから聞こえてくる。3コール目で はい、と聞こえてきた。
「出来上がりましたので、どうしましょうか?」
《相変わらず早くて助かる。 こちらに来て貰えるとありがたいのだが》
「その分上乗せしてくれます?」
《ああ、乗せよう》
「では、明日の13時に伺いますね」
了解 と返事を聞いて切る。
やっと一段落した、とそのまま後ろへと倒れ込み大の字になってみる。畳の匂いが何とも癒される。私は本当に日本で生まれられてよかった。今は洋室等が主流だが和室の畳とは一部屋でもいいから入れておくべきだと思う。日本を忘れるな素晴らしき家達よ。
くだらないことを考えながら くあぁ、とでた欠伸するとやってくるのは睡魔だった。夜中は探っていた人間が動いたので恭弥と絞めたのもあり、眠気が襲ってくるのも仕方がない。少しだけ、と温かみのある木の天井に呟いてからゆっくり瞼を落としていった。
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「...名前、」
(まだ眠い)
「名前」
(まだ寝て5分もしてない)
「咬み殺す」
「殺すぞてめえ」
(おはよう)
「そう、殺ろうか」
バッ、と勢いよく起き上がると視界からサッと黒が消えた。横を慌てて振り返れば意味深に笑う恭弥の姿にサァ、と血の気が引いていく感覚。心の声が思わず出ていってしまった。 ごめんなさい!と思わず土下座すると恭弥は ふふ、と笑ってなお背筋が凍る。どうしようか、怖い。自分がまさかそんなヘマをするとも思っていなかったのだ。仕方なく無い?と様子を伺うとどうやら恭弥自身は殺り合うつもりは無いらしい。 おつかれ、との言葉までもらったのだ。きっと彼は冗談で言ったのだ、とほっとした。ああもう二度とこの部屋で居眠りはせずに居よう、と心の中で誓ったが、恭弥が笑みをより一層深くさせた。
頭の周りに疑問符を沢山飛ばして恭弥に、どうしたの? と聞いたのが間違いだったのかもしれない。彼はとても楽しそうな顔をして悪魔の言葉を吐き出した。
「新しい匣の中で、殺り合おうか。ご主人様と犬の戯れを」
戯れなんて可愛すぎる表現じゃないか。
もう二度と居眠りをしないと、半泣きながらに神様恭弥様に誓った。