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俺と住もう」

「リアルセブンイレブンで犯罪率高過ぎ、中々転出させてくれない市に行きたくないですし、まずそもそも私は降谷さんとお付き合いすらしてません。一体何徹目ですか本当に」

「仮眠はしっかりとしている」


そういう事じゃないでしょう、と言って降谷さんの目元を見てみると、浅黒い肌に黒いクマが住んでいた。
並盛に居るから少し来てほしい、と呼ばれ向かったいつもの場所に止めてあったRX-7に乗り込み、言われた言葉が上記の通りだ。仮眠を眠っているとは言わないし、この人の仮眠は1時間とかだったりするのを私は知っている。ポアロに組織に本職とトリプルフェイスとは色々としんどいだろうに、と毎度毎度このクマを見る度に思う。29にして、睡眠不足の中生きているのだから尊敬すら出来るほどに。そりゃあ、私も時には忙しすぎて眠れない日はあるが、たった1日。それを彼は週に3,4日としているのだから本当にやばいと思う。そして疲れすぎると何故か私に会いに来るところも相変わらずだ。普通に帰って寝ろよと声を大にして言いたいところだ。

「ははは、じゃあ俺が並盛に来ようかな」

「米花は中々転出させてくれませんよ」

「やっぱり名前が来るしか」

「いきません」


毎度のことである。なんで私があんな免許の書き換えだけで何日もかかる様な場所へ行かなきゃならんのだ。そして犯罪には巻き込まれたくないのだ。それを第一回目はしっかりと説明したが、もうこれで何度目かで説明するのを辞めた。
なぜかと聞かれれば彼が正常ではないから。相手は寝ていないのだ。だからこそ真剣に相手をしても無駄だ。
はあ〜と盛大にため息をついてシートへと凭れかかって窓を見つめた。


「本当は私に会いたかったのもあるんでしょうけど、なにかあるんですよね」


今回は、と付け加えると隣からは乾いた笑いと共に、お見事だ、とお褒めの言葉も掛かった。そうだろうと思ったよ、とダッシュボードを勝手に開けて入っていた紙を取ると、ある会社の図が載っている。


「ここの中身ですか?」

「ありがたい」

「この場で行いましょうか」


わざわざ会社の中へと侵入する必要は無い。以前にも同じように中へと侵入させてもらったので、容易い御用だ。手持ちのパソコンを開いてなれたキーボードをカタカタと叩いていくとすぐに中へと侵入ができた。降谷さんも近くへと顔を寄せてきたのだろう、柔らかな香りと息遣いが近くに感じられる。


「どの資料が必要で?」

「金の動きが知りたい」

「おーけー」


容易く社長自身のパソコンへと入り込み、ソフトを使用してネットバンキングのパスワードも全てを解いていく。警察の前で犯罪をしているのがなんとも言えない気持ちとさせるが、警察からのご希望なのでそこはあえて無視させてもらう。本来ならこんなこと御用である。USBを差し込んで全てをコピーしていく。コピーのところまで行って降谷さんは目を擦った。


「帰って寝たらどうですか」

「このまま運転、危ない」

「ホテル取りましょうか」

「......1人は嫌だな」


少しの上目遣いに悪質さを感じざるをえない。29歳の上目遣いとは意外とくるものがある。むしろ顔が整っているからこそなのだろうが。どうしたものか、とうーんと唸っているとピコン、と終了を告げる音が鳴った。
取り出して降谷さんへと渡すと、ありがとう、と帰ってきたあとに で? と聞かれた。


「恭弥の名前を出せば一番いい部屋用意させられますけど」

「名前は来てくれないのか?」

「ははは、冗談ばかりだと以来受けませんよ」

「いや、俺本気なんだけど」

「寝!ろ!」


降谷さんの緩くなっていたネクタイを掴んで言うと、彼はまたも君と寝たいなあ、なんて言った。私は抱き枕じゃないんだけど?と何度言えばいいのだろうか。
仕方ない、とスマホを取り出してタップすると降谷さんがポケっと可愛らしい顔をしているのを見ながら繋がった相手へと口を開いた。


「草壁、いつものホテルに予約して」

《名前は》

「草壁哲矢で...それで君もそこへと行ってくれる?」

《...?わかりました》


ブツ、と通話を切って降谷さんの険しくなった顔を見て私はあはは、と笑いが零れる。


「さあ、降谷さん。抱き枕も用意しましたよ」

「違うだろ!俺は男となんて寝ない!」

「さあ運転交代です!うふふ!」

「ちょ、辞めてくれ!」


扉を開けて運転席の方へと回れば、文句を言う降谷さんを助手席へと押し退け、エンジンキーを回した。重低音が鳴り響きシフトレバーを操作してホテルまでのドライブを楽しんだ。
文句のBGMを聞きながら。