コニリオ

「この匣ははっきり言って使い物にならないと思うよ」

「奇遇だね。僕もそう思うよ」


リングを填めて開匣して一言。恭弥があげる、と言って渡してきた匣からは小さな兎が炎を宿して出てきた。先ず兎という草食小動物な時点で私達の中ではもう使えない。兎は元の持ち主と違うと感じているのか、私達に少し威嚇をするがそんなの屁でもない。なんだコイツは。


「だいたいなんで私にこの兎渡すわけ?恭弥はこの個の能力見たんでしょ?どうだったの?」

「威嚇されて終わった」


なんだよそれ!と思わず声を上げて笑ってしまう。威嚇されて終わった、って何その面白いやつ。大体恭弥が威嚇されただけで終えるわけが無い。ただ単に見た目で判断しただけだろ、と思わず問いたくなった。チラリともう一度兎を見てみる。体は白いが額には藍色の炎を宿している。つまりは霧属性の匣であり、私が使おうと思えば使える。しかし、


「私よりクロームの方が似合うと思うけど」

「僕はヤツらが嫌いだよ」

「......」


すっかり失念していた。そうだ、恭弥は骸だけでなくクロームのことも嫌いだ。やってしまったと後悔しても時すでに遅し...眉間にはシワがよった。 ごめん と謝れば、 別に と素っ気なく返ってきた。


「その兎の名前は君に任せるよ」

「は?私が使う前提なの?」

「せいぜい飼い慣らす事だ」


じゃあ僕は忙しいから。
そう言って恭弥は立ち上がり襖を開けて出ていってしまった。なんだって、私がこの兎を......。じっと兎を見つめるが兎は低い声を出して変わらず威嚇をしている。開匣が出来て尚且つ出てきたということは相性は悪くないはずなんだけどな?どうしてか、兎は威嚇を辞めないし距離を置かれている。焔がなくなれば勝手に帰るだろうと分かってはいるのだけど、何せここは畳の上だ。目が離せない。


「困ったねえ......君は何に変われるのかなあ?」

「フヴー」


これは困った。私は匣についての研究なんてしてないし、情報収集担当だからこの子について調べる時間すら勿体無いと言うのが本音なのだが。
とりあえず愛着を持つために名前を考えてみる。名前は大事だ。


「...ぴょん」

「ヴー」

「ウサコ」

「フヴー」

「コニー」

「...ヴー」


これは近付いてきたのか?鳴き声を出すまでに少しの間ができた。大きな進歩じゃないか?と何故か少し嬉しくなる。
そのまま思いつく限りで候補を出すが、コニー以外は全て威嚇の声がすぐに出てきた。匣は元々イタリアから来ている。それを考えて単純だが、それとなく言葉に出すが如何せん呼びにくい。


「コニリオ」

「......」

「納得したのか...?コニリオさーん」

「......」


バッ、と思わず手を上へと思い切り伸ばした。なんと、兎はコニリオと呼んだところ威嚇の声を出さなくなった、そして思い切り立っていた耳が少しだけ下がったのだ。これは大きな、大きな進歩ではないだろうか?嬉しさのあまりに天をも仰いだ。やっと、威嚇の声が終わった。ここまでで10分近く掛かっている。10分もだ。
ピロリン、と携帯が音を立てた。パカッと携帯を開くとメールが一通入っている。そのままメールを開くとバーボンからのメールで、添付された写真の人間の居所と動きを教えて欲しい と書かれている。人探しなら本職の人間を使えよ...と思いつつ 了解、と返事をしてまたコニリオに目を向けると先程よりも少し落ち着いてる様子だ。


「コニリオ、これからの飼い主は私だよ」


よろしくね、とゆっくりと手を伸ばすとコニリオはビクッと驚いた様子だが、そっと触れてみると逃げる動作は見られない。もふもふとしている毛に癒される。
私は匣なんて余っ程使わないので開匣することなんてそうそうないと思うけれど。
これから仲良くしようね、と気持ちを込めながらゆっくりとその可愛い兎を撫でた。