迎え

普通の人間が、幻術を解くことなんて簡単に出来やしない。脳に入り込んだソレは人が思うよりも強く根を張って支配をしていくからこそ、立ち上がることなんて不可能だ。
目の前でもがき苦しむ姿を見て哀れだ、と素直に感じた。自分が仕掛けたこととはいえ、財団法人に歯向かうなんて愚かな真似である故に、女である私に返り討ちされるのだ。女に負かされるのは男として辛いだろうに、クスクスと小さく笑い声が零れる。


「風紀財団とボンゴレは、別と考えた方がいい。何故なら雲雀恭弥以外は風紀財団の所属だからだよ」

「っ、ぅえ...うぅ、」

「それに君、ポモドーロの生き残りなんだって?余っ程仲間捨ててまで逃げてきたんだね」


恐ろしいや、と酸素の薄い中、えずきながら床に爪を立てて痛みで逃れようとする姿にある種度胸がある、と素直に拍手を送りたい。そんなことしたら爪が剥がれてしまうじゃないか。ああ、痛そうだ と言う言葉と反対に顔は笑みを作っていた。
匣の実験から2週間。ボンゴレ側の研究によって出来上がったこの匣は改良型の物で、酸素の薄さ、幻術の空間両方が強くなった。幻術空間で幻術を掛けることはただの地獄だろう、現に彼は嘔吐しそうになっている。脳みそがぐるぐるとして、視界はゆらゆら......我ながら中々の地獄を味合わせていると思う。骸程鬼畜にはなれないが、充分鬼だ。


「辛いなら、終わらせてあげるよ」



コツコツ、ヒール音を鳴らしながら彼へと近付き彼の髪を掴み上げ目を合わすが焦点は全く合わない。瞳孔すらも開ききってしまっている。使い物にならないな、と判断し首を折る痛みを味合わせることに躊躇しそうになるが、彼の首に腕を回して掴み上げていた頭をそのまま横へとゆっくり曲げていった。
ゴキ、と骨が小さな悲鳴を上げた。




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「と、いうことがあった」

「......名前も随分と躊躇しなくなったね」

「そうかな?大分優しめだと思ってるけど」


ふー、といつもの如く煙を吐き出した。
処理班に彼を任せて、迎えへと来てくれた恭弥の車に乗り込んで今アジトへと帰宅中だ。恭弥に話せばクスクスと笑っている辺りこの人は本当に鬼だ、と内心思った。
窓から流れる景色を見ていると、見慣れた姿が見え、すぐにそれは流れていってしまった。あ、とも声を出さず自分の中に留めるが、きっと恭弥も気付いてはいるだろう。現に口元が弧を描いている。


「居たね、君の降谷零が」

「私の?何の話よ」

「」