依頼

着流しを着た恭弥は口元に手を当てながら くわあ、と大きな欠伸を零した。
居間の中庭は、地下アジトであるはずなのにそこでは鹿威しが カコン、と定期的に音を鳴らす。その音を聞く度に地下であることを忘れ去られる程に心地の良い空間である。
しかし今、ここには恭弥と私。この部屋へ入ることを許されているのは私と草壁だけだ。そこに恭弥と私だけが集まるというのは中々久しいことである。基本的にはここを、主に使っているのは私だと思う。ここの主は基本的に自分の執務室で行動しているからなのだけど。そして私は、見られては困るような情報などを扱う際は主にここで活動しているからだ。組織関連するの情報はとてつもなく大切なものになるのでここでしかやれない。例え中学時代からの後輩だとしても、疑ってしまうのだ。しかし疑うことは悪くない。恭弥にもその話をしたのだけど、恭弥自身もそれがベストだ、と答えてくれたので甘えて主にここで仕事をするのだけど、今日は仕事序での少数会議である。
カタカタとパソコンを叩いていると、恭弥が口を開いた。


「ポモドーロの事だけど」

「ああ、どうだったの?」

「潰すことになったよ。日本に居た奴らは名前や幸田達がやってくれたお陰でこっちは終わった」

「わーい」

「ヴァリアーが担当するから匣を貸すのは辞めたよ」

「いいんじゃない?ヴァリアーなら残虐者の集まりだから、あっという間にポモドーロが玩具になるよ」


Enterを押してザッと資料を読み流していく。よし、と小さくつぶやいてそのデータを保存して印刷ページにかける。居間の億にある恭弥の執務室からザッ、とプリンターの音が小さく聞こえてくる。


「それで、序でにヴァリアーの仕事受けたんだけど」

「パスで」

「名前がやらないならあっちのキノコが来るみたいだよ」

「内容はなんですか」


ベルが来るなんてたまったもんじゃない。生きて帰られなくなる怖い耐えられない。内容にもよるけれど、彼らは暗殺部隊。任務内容は暗殺が主だ。この日本でふうきあの私が暗殺は出来ない。日本の殺し屋なら社会的抹殺くらいしか出来ないが、一応聞いてみる。


「高重幸人って人間を探し出す」

「............は?マーモンの粘写で終わるじゃん」

「その赤ん坊がやっても出なかったらしいよ」


飾りの鼻水だね、と言う恭弥にそっと頷いた。
カコン、鹿威しの音は和を感じて温かみを感じると言うのに、高重幸人を探せないとシバかれる、と想像しただけで悪寒が私の体内をブルりとさせた。恭弥からプレゼントとして貰った万年筆を握り、紙へと文字を書くが、毎度思うのはとにかく滑らかな書き心地である。この万年筆を使えば、他の万年筆もボールペンも嫌気がさす。ちなみに外用にも買ってもらったので基本的には万年筆でしか書かない。
そんな自慢の万年筆で"高重幸人"とメモをする。私はマーモンみたいに出来ないけれど、行動すれば何とかなる。しかしこの人が何かしたのだろうか。恭弥の目を見つめてみると、切れ長の黒い目がニヤリと笑った気がする。


「何したと、思う?」

「......さあ?」

「ヴァリアーに潜入して彼らの情報を流そうとしてる」


その言葉に思わず笑いそうになった。
ヴァリアーともあろう組織に入り込んで挙句に情報横流しなんて命知らずにも程がある。それにその姿はまるで降谷さんを思い出させるが、降谷さんがいる組織程頭の悪い軍団でもない。なんと愉快だろうか。 あはは、と零れた笑いに恭弥も喉の奥をくつくつとさせた。そうなればすぐにでも探して始末してもらいましょう。


「彼が日本にいる場合は僕達が咬み殺せばいい」

「じゃあ咬み殺し次第、ヴァリアーに引き渡すとしますか」


すぐ様パソコンに高重幸人の情報を入れていく。
この案件は人探しに長けてる人間へと任せれば1番早い。データベースへとアクセスをし、住所を割り出し彼の持つスマホデータも序でに削除しておこうか。色々と頭の中で考えを巡らせた。