降谷さんとアイス
最高気温を叩き出した日の夜は熱帯夜と言われる程にとても暑く、冷房器具が無ければとてもじゃないが過ごすことは出来ない。
ベランダへと出れば熱を含みじっとりとした空気が体に纒わり付く。ふー、と息を吐き出すと同時に自分の口からは煙が排出され、その煙は空気と同化し消えた。
(やっぱり不味いな)
まだ付けたばかりのタバコを水の入った容器へと突っ込むとジュッ、と音を立てて消えた。
よいしょ、と立ち上がり網戸を開けて中へ戻ると、長い髪を簡単に纏めてキャミソールに短パンとラフな格好でソファーへと座る妻と目が合う。その隣に腰を下ろした所でねえねえ、と声が掛かった。
「零くんがタバコなんて珍しいね?」
「今日部課に貰ってね。俺はあれを美味しいとは思えない」
「タバコ吸うくらいならアイスの方が良いよ美味しい」
ほら、と差し出されたアイスをそのままカプリ、と一口食べる。
バニラが鼻を抜けていき、ねっとりとした冷たいクリームが口内の温度を下げた。毎年夏はこのアイスが冷凍庫に常備されている。
「毎年よく飽きないな」
「バニラが1番シンプルに美味しいじゃん」
「たまには他の味も試したくならないのか?」
「私が執着するの1番知ってるのは零くんでしょ」
この会話も毎年恒例だ。去年もこうやって話したのを思い出す。
そうだな、と返せば名前はまた俺の口元へとソフトクリームを突き出す。ぱくりと食べたのを確認して次は名前が食べて口端に付いたバニラをペロリと舐めた。
「誘ってる?」
「零くん年々欲情するのが早くなってきてない?」
「それだけ名前が誘うのが上手くなってきたんだろ」
「誘ってないもん」
これも毎年恒例。名前の口にクリームが付いてそれを赤く柔らかい舌がチロリとクリームを攫っていく。その姿は俺の欲望を掻き立てるのに十分すぎる材料だ。そして歳を重ねる毎に彼女は美しくなり、その行為がまたエロく感じる。
「30代になると男性は性欲が減るんじゃなかったけ?」
「俺は普通の30代よりも若いということだな」
「分かる。若いよね全体的に」
サクサク、コーンをかじる音が聞こえてきたところであと少し、と自分の中でカウントダウンを始める。
「でも無いよりはあるに越したことはないよね」
名前は小さくなったコーンを咥えたまま、立ち上がり俺の膝へ向き合う様に座りクビに腕を回してきた。
なんだ?と聞くと口から飛び出たコーンの先を俺の口へと近付ける。
「じゃあ冷ましてもらおうか」
突き出されたコーンに齧り付き、雑に咀嚼して流し込み名前の唇へとかぶりつく。
カウントダウンは残り5秒だった。
(名前は俺を欲情させるのが上手いな)(零くんは私を欲情させるのが上手いね)(随分と可愛いことを言う様になったな)(零くん効果です)