奥さんとドライブ
ハイブリッド車には適わないが、走行中の音は静か。アクセルを踏む力も軽く踏むだけで速度も一定で、男女共に操作のしやすい車だと思う。オートマチックでありながらもスポーツカーを思い出させる。楽しい。楽しいのだが、
「20キロまでのこの不安定さだけは気に食わない」
「私のミニちゃんに文句を言うな」
信号が赤から青へと変わりゆっくりと速度をあげる。アクセルを踏み速度をあげるも20キロまでは不安定なままだ。そこを超えれば安定した走りなのだが。
この車の持ち主である妻は、そこも味だよ、なんて言うがこの不安定さは何年経とうと慣れることはないのだと思う。少し前に新しいミニへと変えてはどうだろう?と聞いた事があるが、その時は頬を抓られた。
彼女はこの車にとても愛着があるらしい。俺が未だにRX-7を乗る様に、彼女もまこのミニを乗り続けるのだ。
「私がもし新しい車買うとしたらまたミニクーパーかな」
「どのタイプにするんだ?」
「次はどうかな。クーパーでも良いしクラブマンもいいよね」
「近いうちに変える?」
「んなわけない。この子がもうどうにもならなくなった時だね」
どうにもならなくなった時、というのは俺のせいでベッコベコになっても可なのか。また信号が赤へと変わろうとしていたからゆっくりとブレーキを踏んだ。隣を見ればまっすぐと前を向いて座っている。俺の視線に気付いたのか、こちらを向いた時にいつもの可愛らしい笑顔で、その顔になんだか気分が上がる。
「秋になったらこの車で紅葉見に行こうね」
「俺のじゃなくて?」
「ミニちゃんで。このミニちゃんは零くんと私、2人だけの特等席だもの」
ああ。うちの嫁はとんでもなく可愛いんだ。
ほんのり少しだけ頬を赤ませて、へらりと可愛いことを言ってくれる。俺と名前だけの特等席。
そうだな、と返せば信号は青に変わる。またゆっくりとアクセルペダルを踏み込む。グラグラと少しだけするが、今度は全然気にならなかった。
思い出してみれば、この車は名前の言う通り名前と俺しか乗っていない。俺が自分の7が修理へ行ったときにはこの車でだったが、風見すら乗せることは無かった。
緩んでしまった頬を隠すために片手で口元を覆う。気がつけば速度は60キロになり、車の揺れはないはずなのに何故だか自分だけ揺れているような気がした。