降谷さんとチケット
「見てみて」
「またこれか」
広げられた雑誌の中の人物を名前は嬉しそうに指差した。
昼食後、ソファーでのんびり座って寛いで居た中名前はローテーブル下の雑誌置きから一つ取り出した。ブラックのマグカップをローテーブルの上へ戻しその指差す人物を見やる。そこには名前が好きなバンドがでかでかと載っていた。
「相変わらずだな」
「ライブ楽しいよ」
名前は笑顔で語る。
その話を聞くと思い出すのが、ライブの次の日、名前は必ず首の痛みを訴える。なんでもヘドバンを思いっきりやりすぎるのだとか。
バンドや音楽にさほど興味が無い自分には無縁な単語を名前の話で覚えることになる。組織に潜入していた時は安室透として、必要性を感じた為に聴いたりはしていたが、名前の好きなバンドは安室透が好きなタイプのバンドでは無かった。だからこそ、名前がライブから帰った後、痛みを訴える姿はびっくりしたのを覚えている。
「それでなんだけど、ツアーが始まるんですよ」
「......つまり」
「一緒に行こう?」
大きな目で上目遣いをする名前は確信犯だ。逮捕したくなるレベルで可愛い。俺がダメと言わないことを分かってやっているからタチが悪い。でも、
「......仕事」
「やっぱり......」
「18時スタートか」
「バリバリ仕事中だよね」
ガクリ、とあからさまに肩を落とす姿を見ると少し心が痛む。ツアー日程を観るとそれは再来月の平日ド真ん中で、18時スタート。休みに固定は無いけれど事件というのはいつ起きるかわからない。だから確実に行けるとは言えない。名前もそれを理解してるからこそそれ以上何も言わないのだろうけど、その顔はなんともこちらまで悲しくなる。
「名前、」
「仕方ないよ、零くんにはお仕事優先でいてもらわなきゃ」
「ごめんな」
そう言って名前の頭に手を置くと、寂しそうな顔をしてヘラりと笑った。こんな顔をさせたくないのに、そう思えば思うほど名前に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「寂しい思いさせてばかりだな...」
「そんなことないよ、幸せな思いばかりだよ」
「またそうやって、」
「どうしてそう思うの?私なんて降谷零を幸せにしてやってる位の大きな気持ちでいるのに」
「それは、」
「零くんも私を幸せにしてくれてるんだからドンと構えていてよ」
言葉が出なかった。
自分ばかりが幸せだと、そう思っていたからこそ名前の言葉が刺さる。名前は本当に自分と居て幸せなのだ、自分が思っているよりも遥かにそう思っていてくれたことに自然と頬が緩んでしまう。
「適わないな」
「うっふっふ、そう思うならもっと撫でて」
「はいはい」
止めていた手を動かすと撫でられて頬が緩みっぱなしの名前の頬に自分の唇を寄せた。
(一応2枚チケット取っておいて)(勿論ですとも!)(行けるといいな)