有給消化編(会議1)





「降谷家会議を始めます」
「いえっさー!」

日々働き続け、毎年毎年与えられる有給休暇は溜まっては無くなる。そして、漸く仕事が少しだけ落ち着いてきた所で有給消化をしては、と話が回ってきた。
その答えに俺は喜んで受け入れ明日から4日の休みを手に入れた。嬉しさのあまりに名前へ、すぐに連絡を入れれば、自分と同様に嬉しそうな声で喜んでくれた。まるで遠足前の子供みたいにうっきうきで帰ってきて、名前が作った最高の肉じゃがとほうれん草の胡麻和え、茶碗蒸しにだし巻き玉子を食した後お茶を飲みながら今に至る。
本当に、遠足行く前みたいだ。

「零くんはいつ呼び出しがかかるかわかりません!なので出掛けるとしたら日帰り且つ近場が好ましいです!」
「さすが俺の妻だ。その通り」

腕を組んで褒めると名前はでへへ〜なんて緩く笑った。なんと可愛い顔なのだろうか。むしろ毎日家で名前を眺めるのもいいかもしれない。我ながらいい考えだ、と小さく頷き提案をしようとした所で名前がはい!と言って手を上げた。

「明後日はライブがあります!」
「......そうだった」
「因みに一応の為と思いまして零くん用にバンドTシャツを手に入れました!」

新品なんだよ!と透明の袋に入ったTシャツを机の上へと出される。出されたTシャツに俺は思わず目を手で覆った。毎日家で眺めるという願望が崩れたのと、Tシャツに書かれている文字が原因で。

「仮にも警察の人間が殺意って......」

流石にマズいだろ......。
その言葉にあはははは!と笑う妻は最高に可愛いのだが、俺は笑えない。なんだよ殺意って。警察はその殺意ゴリゴリの人間を捕まえる側だぞ。

「確かにチョイス間違えた!でもこのシンプルさがいいと思わない?」
「シンプルすぎてヤバいだろ」
「だめ、無理笑う」
「俺は笑えない......俺本当にこれ着るの?」
「着て一緒に頭振りまくろうよ」

無理。ハードルが高すぎる。
笑いながらスマホでその曲を流し始めた名前に、少しだけ頭を抱えた。中々ハードな曲でありながらも、サビは中々クセになる。いや、でも殺意って......。何事だよ、と一人心の中で突っ込んでみる。しかも、中々頭に残るハードなメロディー、そして声。

「意外とクセになる......」
「よし、じゃあ決定で!それに零くんが警察だなんて誰もわからないと思うよ」
「行くのは決定だが、このTシャツは厳しい」
「大丈夫だよ。着てる人多いから!」

着てる人が多いから、なんてそんな雑なフォローがあるか?なんて少し首を傾げてしまう。殺意と書かれたTシャツと名前を交互に見る。名前は似合うよ、なんて言いながらけらけらと笑った。絶対思ってないだろ、と思わずジト目になる。

「零くんなら大丈夫。絶対に似合うから大丈夫」
「......殺意」
「ごめ、やっぱ無理。笑いが止まらなくなりそう」
「...頭振るのは出来ないが、これを着てライブデートには乗ろう」

笑われているのは正直癇に障るが、可愛い笑い声で涙を浮かべながら笑う名前なら許そう。
もう一度殺意と書かれたTシャツを見て、初めてのライブデートに少しだけ頬を緩ませた。






(名前も当日はこれを?)(あ、私はこっちの可愛い方)(......俺だけ殺意?)(似合ってるから大丈夫!)