有給消化編(2日目)





「さー!気合い入れるよ!」
「首気をつけて」

いつもより薄化粧をし、バンドTシャツとスキニージーンズを履いた名前に、注意をすればはーい!と返ってきた。
会場には既にお客が結構入っており賑わっている。その中にはチラホラと、自分と同じ殺意と書かれたTシャツを着ている男性や女性を目にする。一昨日に名前が言った通り意外と着てる人間がいることに少しだけ安堵した。流石に自分だけがこれでは居た堪れない。隣に居る名前はヒールでは無く、スニーカーの為いつもより小さい。
薄暗い会場の中、最前列とまでは行かないが、それなりに近いステージに少し興奮気味な名前。このライブは本気で楽しみにしてたの!と語っていた姿を思い出しくすり、と笑う。

「そろそろ、始まるね!」

照明が徐々に落とされ、暗くなってきた。それに伴い名前の声も落ち着きのないものになってきた。
照明は全て落ち、ステージのスポットライトのみになり、少しずつ音が流れ出す。そこで周りの人間達も興奮しだした。それは名前も同様で、少しずつ前のめりになっていく。
折角なんだ、このバンドの音を楽しもう。
そう決めて前へと向けばメンバーが登場し、ボーカルがゆっくりと準備をしていた。




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「今回も、最高すぎた......」
「あんなに首って振れるものなんだな......」

曲が始まりそこからは凄かった。
前方へと人が集まっていき、気が付けば名前の隣に居たはずなのにいつの間にか他の女性が居た。
半ばになればボーカルの煽りに会場は湧き上がり熱気が籠っている。ライブというものにはそれなりに付き合いで来たりしたことはあったが、ここまでのライブとは初めてかもしれない。
楽しい。そう感じながらも、どうしても名前達みたいに頭を振ったりだとかは出来なかったが、ライブという物を初めて楽しいと感じた。

「やっぱり楽しい!好きな人とライブデート」
「俺も、初めてライブを楽しいと思えたよ」
「うふふ!今日は最高な日だあ!」

開演前の物販で購入したタオルとスマホケースを握りしめて座る名前の頭を軽く撫でる。汗をかいた後の髪は少しだけパサついているように感じた。目尻を下げて笑う名前の顔にこちらも思わず目尻を下げてしまう。

「零くん、ありがとう」
「またライブデートしよう。その時までに曲を覚えるとしようかな」
「それならCD貸すから車で聴いてよ」
「ああ、そうするよ」

キーを奥へと回せば大きな音を立ててエンジンが掛かった。車内ではラジオからクラシックが流れる。先程まで聴いていた曲とは大違いで、俺はオーディオの電源を切った。
名前の好きな音楽が意外と俺の中でも好きになった日。





(ちなみにどれが好き?)(3曲目が好きだったかな)(あの曲は良いね。私の中でも1位2位を争うよ)(知ってるよ。名前がよく口遊む歌だから)