04




04





――――数時間後 ランチタイム 食堂にて――――

「隣、いい?」

私は反射的に身構えて声のする方を見た。
「・・・あ、うん、どうぞ」
ちょっとほっとした。隣の席に腰掛けたのは、同じクラスの女子だった。
かたん、とAランチの載ったトレイがテーブルに置かれた。
「あたし、岬。岬 硝子。面と向かっては初めまして、だよね。よろしく」

ミサキ・・・ショウコという彼女は、きりっとした瞳を細めた。ストレートの黒髪が揺れ、凛とした雰囲気を纏っている。

「うん、よろしく」
「あんたさ、昨日けっこー目立ってたよね」
「――!っ、げほっ」
「あ、だいじょぶ?」
咀嚼していたカツカレーのカツがのどに詰まりそうになる。
ミサキさんが、よしよし、と背中をさすってくれた・・・
「切原にあんな物言いできんの、たぶんこの学校であんたぐらいだよ?」
「や、あれはね・・・、感じ悪かったよね、はは・・・」
もう苦笑いしかできないわ。
「いんや。あたしはすっきりしたわ。気に入った。あんたとは気が合いそうだと思って、声かけちゃったの」
「―――へ」
あ、なんだろ・・・・・嬉しい。
私も・・・シンパシー感じる、かも。

てっきり、昨日のアレでクラス全員敵に回したかもって超ビビってたんだ。
切原は1限から3限まで全部サボってて教室にはいなかったからいいんだけど、
周りのクラスメイトは挨拶はしてくれるものの、距離を置かれてるみたいだったから。

「・・・すごい嬉しい。ありがと、ミサキさん」
「硝子でいーよ?・・・うん、あんた、笑うとすごい可愛いじゃん」
硝子は、嫌みのない笑顔を私に向けた。
私もつられて笑っていた。

「・・・・ってか、ほんとギャップありすぎ。授業初日からカツカレーチーズトッピング大盛りって・・・・・!!!!だめだもうがまんできない、あはははっ」
って笑顔がすぐさま爆笑に変わってる!!!
「ちょっ、今更そこで笑う!?」
「もーーーおもしろすぎ、凪子」
「いやいや、カツカレーは男子の食べ物じゃないし!女子だって大盛りだって食べるし!」

私、新しい友達と他愛無い話で笑いあえてる。
新生活・・・まだ捨てたもんじゃない!って思えた気がした。


「お、ほんとだカツカレーうまそー!ひと切れもーらい!」

見知らぬ声が頭上から聞こえ、瞬間、私のお皿からカツがひときれ消えた。
「んなっっ!!!??」

「おい、ブン太、やめとけよ」
「悪ぃ悪ぃ、あんまりうまそーに食うんだもんよ、つい」

てへへ、と悪びれもせず笑ったのは、ゆるくウエーブのはいった赤い髪の男子生徒・・・
そしてその横には、ハーフ?と思しき肌の浅黒い目鼻立ちのはっきりとしたスキンヘッドの男子生徒、だった・・・。
あまりに強烈な登場に、私はなんの反応もできずただ見上げているばかりだった・・・・
な、なに!!??この人たち!?

「おまえだろぃ?2−Fの編入生、三島ってのは?」
もぐもぐ、カツを食しながら私をジロジロとみる赤毛男・・・・
「・・・・・は?」
状況が飲み込めない。いやかなり屈辱的であることだけは確かだけど。


「・・・・・丸井先輩、・・・ジャッカル先輩も。・・・・どーせ切原に言われて見に来たんでしょ?」

その様子を眺めていた硝子がため息をつきながら静かに言い放った。

「お、赤也の天敵、岬じゃん!ビンゴ、よくわかったな〜」


前言撤回。せっかくの新しい友達との和やかなランチタイムが台無しになっていく。
きりはら、という名のお陰で。
「凪子、この人たちはね・・・」
その先は、予想できた。できれば外れてほしかったけれど・・・、

「おっと、自己紹介は自分でするぜぃ、俺は3年の丸井ブン太。テニス部レギュラーだ」
「・・・・・俺は、ジャッカル桑原。俺もテニス部レギュラー」
「岬と馬があう上、大盛りカツカレー食う女か、面白要素てんこ盛りだな!!!」
「ねえ硝子・・・私今年大殺界なんだと思うの」
「凪子・・・・どこ見てんの・・・・・・・・・ちょっと、ジャッカル先輩」
私が現実逃避で違う世界に行きかけていると、硝子がニコリと冷ややかに笑った。
「怖!!!その眼やめろ岬!お、おいブン太やめとけ、もう行くぞ!!」
「おー、じゃな、カツカレー女!」

ジャッカルという先輩がずるずると赤毛の男を引きずって食堂を去っていく。
当たり前だが、私と硝子に周囲の視線は釘づけだった・・・・

「あー、災難だねぇ、切原の仕業だよ」
「カツ。」
「え?」
「私のカツカレー・・・貴重なカツ、盗み食いされた」
「・・・・よしわかった、プリン買ってきてあげるから、ね?」

また悪目立ちした。
その原因は切原赤也が原因なことは明らかだった。
でもそれ以上に空腹の私は、今しがた食べられてしまったカツへの無念でいっぱいだった。

丸井とかいう赤毛の先輩・・・・・
許すまじ!!!!!
食べ物の恨みは恐ろしいんだからな・・・・!



#prevタグ# #nextタグ#


- 4 -

*前次#


ページ: