すきすきだいすき超あいしてる
 ユキくんは4歳年上のお尻の小さなシティボーイだ。お尻が小さいっていうか全身ガリガリなんだけど。手首なんかほっそくて俺の親指と中指で作った輪っかがガッタガタに余っちゃう。まったくもうこの子はアラサーに片脚突っ込んどいてゴハンもちゃんと食べないのかね!!と俺の中のオカンがムクムクするけど、ユキくんはどちらかというといわゆる痩せの大食いってやつだ。わりと恐ろしい量のゴハンをスイスイダイソンのごとく平らげて、たまにお腹を痛めてうずくまっている。給食後の小2かよ、あるいはやっぱりもうアラサーに片脚突っ込んでるから胃がついてけてないのねってどっちにしろなんだかそういうユキくんを見てるとすごい愛おしくて愛情たっぷりにお腹撫で撫でしてあげたら殴られた。「情けかけてんじゃねーよ!!」って。極道かよ。いや極道ではないけど、カラオケ屋の店長だけど。元ヤンであるのは確かだ。ユキくんの出身高校は他県にまでその名が轟く由緒正しきヤンキー校だし、卒業式をバックレたために『友達』経由で郵送されてきた卒業証書はまだゆうパックされたまま開かれた形跡もない。どう受け取っても全力で教育体制というものに反抗している。これで元ヤンでなかったらなんだと言うのか。噂に轟くヤンキー校、こんなにガリッガリの身体で喧嘩に明け暮れたりしていたのだろうか。この小さなお尻を蹴られたり、あるいは『友達』と青春アミーゴしたりしていたのだろうか。やだやだそんなのやだやだ、第一折れちゃうでしょーが!そして青春アミーゴはフツーにうらやましい、うらやましい!うらやま死イ!!自分で言うのもなんだけど、俺はとってもすこやかに嫉妬深い。好きな子の元彼という概念がこの世から消滅することを願って血涙を流すタイプだ。

「ハハハ、キッモイなお前」

 そんな俺の血涙にまみれた顔をもユキくんは真顔で笑い飛ばすのだ。これぞアラサーの余裕っていうか。「ハハハ」ってめっちゃ棒だったけどね、てか真顔で笑わんといてくれや!

「お前さっきからアラサーアラサーうっせえよ。そうやって調子こいてっとあっという間だからな。マジでビビるからこの二十代前半の早さ」

 それは俺でも思うけど。てかヤダな、それもめちゃくちゃヤダな、このままどんどん体感時間が早くなっていったらそれ即ちユキくんと過ごす時間も光陰矢の如く過ぎ去っていくということであって、やだやだそういうこと考えただけでブルー入っちゃうタイプなの!繊細なの!どうしてもネガティブなの!!

「よく毎度毎度そうやってウジウジする理由見つけてくんなあお前、マジ感心するわ」

 心底めんどくさそうに生ゴミを見る目でユキくんはそう言って、手元の雑誌に意識を戻していく。読んでいるのはLEON。なんっで!?なんでそんなん読んでるん!?いかにアラサーとはいえまだLEON編集部のターゲットにする年齢層じゃないでしょユキくん!なんっで!?
 とまあ思わずつっこんでしまったけど、俺はそう、ユキくんの言うとおりウジウジしていたところなのだ。違う、もうちょっとマシな言い方をすれば落ち込んで拗ねてご機嫌斜めになっていたところなのだ、イイ歳して。マシになってない、むしろ死んだほうがマシかもしれない。虚無。拗ねて丸まって廊下に転がって根を生やしていた俺を、風呂から出てきたユキくんは「うわっ、でっけえ図体してクッソ邪魔だなオイ通路だろが!」と蹴り飛ばした。血も涙もない。情け容赦もない。だけど俺はそう言われてその体勢のままじりじり蠕動して邪魔にならなさそうなベッドの脇まで移動してまた根を生やすレベルの拗ね男なので、そのくらい厳しくされたほうが張り合いもあるというものである。
 丸まって抱えた膝と腕の隙間から見えるユキくんは完璧に俺を無視してLEONを読んでいる。風呂上がりで、ほこほこしていて、刈り上げたうなじと重く濡れたまんまの前髪がかわいい色っぽい拭いてあげたい。ふらふら立ち上がってユキく〜ん髪の毛乾かさなきゃ風邪ひきまちゅよってすり寄って行きたいのを精神力でぐっとこらえた。なぜなら俺にはこうして拗ね続けることで訴えなければならないことがあるから。我ながらぞっとするほど未就学児レベルである。

「あっつい。窓開けよっかな」

 ユキくんが独り言をつぶやく。ハイハイって窓を開けに馳せ参じたいのを精神力でぐっと堪える。今日はちょっとあったかくてきっと風呂上がりなんかめっちゃ暑いのに、三角の隙間から見えるユキくんはTシャツを着ている。俺の服をまた勝手に、でも俺のだからぶかぶかだね彼シャツだねエロいねエヘエヘ、なんて。下はパンツいっちょなのに。
 ユキくんは俺の前では頑なに服を脱がない。いや、下はいくらでもすっぽんぽんになるけど、上は絶対脱がない。いつもなにか着ている。一緒にお風呂入ったこともないし(「お前それは…きっついわ…」と信じられないほど距離感のある目で拒否られた)、プールや銭湯に行ったこともない。銭湯に至っては「入れないから」と言われた。入れない…から…??えっそれは、それってまさか乱れ牡丹とか唐獅子とか金剛力士像とかが背中に咲き乱れている感じなのか…??と俺はビビってしまい、なんとも手慣れた感じで話題を替えたユキくんに結局問いただすタイミングを逸してしまった。今思い出しても俺のバカバカ!愚図!でくの坊!!って感じである。自分が言うのだしユキくんもたまに言うのだから間違いなくでくの坊だ。そうユキくんは絶対に脱がない。それはそういうときも、つまり、セックスなんかをいたすときも。
 「穴がありゃできるんだからいいだろ」とユキくんは言った。なんてことを言うんだコイツはと思った。そしておそらくなんてこと言うんだコイツはという顔を俺はしたんだと思う。そしてそしておそらく、自分で思っている以上に『なんてこと言うんだ』感満載の、身も蓋もなく言えばどん引きに近い顔をしていたんだと思う。俺に対してはいつも不遜で女王様なユキくんが珍しくバツが悪そうに顎を引いて「いいだろ、脱がなくたって」と、いやに心細い声でつぶやいた。そりゃ、こういう場面じゃなくても頑なに上半身を見せるのを拒むのだ、何か多少の後ろめたいことがあるんだなんて考えなくたってわかる、いくら俺でもわかる、いくら俺がバカでアホで顔だけのネガティヴァーだとしてもそれくらいは察せる。『なんてこと言うんだ』っていうのも、『なんでそんな、自分をオナホかなんかみたいに言うんだ』って、なんだかすごく悲しくなったからだし。だから俺はそれ以上追及しなかった、「ユキくんの乳首舐めたかったのに」と恨めしく言うに留めた。そういうこと言ったらきっとユキくんはいつものように俺を張り飛ばしネチネチ罵倒し倒して元気になってくれると思ったから。予想に反してユキくんはニヤリとエロく笑い、「服の上から舐めてイイぞ」と言った。うわあずる、ずるいなあもおめっちゃエロいめっちゃ興奮する。めっっちゃ興奮したべろべろした。コトが済んだ後その俺が乳首ごと舐め回したTシャツを捨てられて泣いたけど。「仕方ないんだって、なんか乳首んとこだけでろでろに伸びてんだもん。すげえ乳首長い人のTシャツみたいなんだもん。まあじゃなくてももう着たくはないけど」って言われて泣いたけど。

「はあ、ぜんっぜん風無え、笑うわこんなん」

 窓を開けたユキくんが相変わらず独りごちる。俺が扇いであげよっかユキくんって侍りたいのをぐぐっと耐える。三角の隙間から見えるユキくんは、Tシャツの襟を両手で掴んで前に引っ張っている。うなじを覆うように。癖なのだ。サイズの大きい俺の服を着るときの。襟がでろでろになっちゃうんだよそれされるとって思うけど。なんとなくそのユキくんが自分では気付いていないだろう癖すら俺は指摘していないのだ。

 無理矢理脱がせてやろうかって思ったことがないと言えば嘘になる。

 むしろ毎回その衝動と戦っているようなものだ。服を脱げない理由を教えてもらってるわけでもない。なら、無理矢理そういうことされたって文句言えないだろって、そういうろくでもない欲に捕らわれたりする。ユキくんはがりがりのシティボーイ(おのぼり)だし、俺もまあホストだからそんなに腕っ節に自信があるわけじゃないけどユキくんくらいなら無理矢理押さえつけてそれから無理矢理、なんてのはきっと容易い、きっと簡単にできる。しかも、そういうことをいたしているときのユキくんにはなんだか酷く『そういう気持ち』を擽るところがあって、そんなの言い訳だってわかってるけど、すごく、すごく酷いことをしてやりたいような原始的な男の欲を逆撫でられる。酷いことしちゃいたい、壊しちゃいたい、ダメかなって。コイツ、このまま滅茶苦茶のグズグズにしてやりたいなって。

 でもだからこそ、余計にそんなことをしたらいけないんだって気持ちが強く上回るのだ。

 そういうユキくんだからこそ、欲望のままに傷つけたりしたらいけない、それは決してまっとうな思いやりだけではなくて、きっとそんなことしたら俺に不利なことが起こるって予感だ。きっとその時点でユキくんは俺をユキくんの中から締め出して、完全にシャットアウトして二度と振り向いてくれない、そんな予感がある。そしてきっとその予感は、ユキくんの見せてくれない上半身と関係がある。それこそ予感以下でしかないけど。だからすごく優しく扱う。それはもうこれまで誰にも、お客さんの女の子と接するときにも発揮したことのないような優しさをユキくんとするときにはじゃぶじゃぶに発揮する。なんだかそういうゲロ甘い扱いを毛嫌いしそうなユキくんもなんにも言わないし、これでいいんだと思う。ユキくんと繋がりながら、背中に腕を回して抱きしめる。乳首だって服の上からだけど舐めさせてくれたし、別に触られるのはいいんだと思う。俺が聞けないだけで、ホントはなんで脱がないのかも話してくれるのかも。ただホントに見られたくないだけで。ユキくんの熱いこめかみに俺の熱いこめかみを押しつけて抱きしめる。背中に回した腕。ユキくんの体温で暖まったTシャツの布地の感触。薄い薄い生地越しの、かすかな肌の感触。浮き出た背骨と、肩胛骨と、それだけじゃない、皮膚全体の硬質でボコボコした感触。そこがどうなってるのか俺は知らない。見たことがない。でも、すべてが愛おしいから優しく優しく抱きしめる。


「スバル、お前いつまでそうしてんの」

 ハッと気付くとユキくんが俺と同じような体勢になって、俺の腕と膝の三角の隙間から俺の顔を覗き込んでいた。やっばい軽くトリップしてましたわ、完全に。目の前に生ユキくんが居るというのに。もったいないもったいない!一応拗ねていたのにばっちり目が合ってしまってもう南無三って感じの俺をユキくんは「フッ!!」と見事に鼻で笑い飛ばし、俺の頭を掴んで「こ〜のガキンチョがあ〜!!」と揺さぶってきた。待って、ユキくん待って、結構くるよ?コレ、結構三半規管にくるよ?コレ。

「仕方ねえ出血大サービスだからな、ご機嫌斜めのガキンチョの言い分聞いてやるよ。なんで拗ねてんのか言ってみろよ」

 そうだ俺は拗ねているのだ。なんかいつのまにか深イイ話みたいな流れになっちゃったけど、拗ねている。それはつまり何を隠そうこのユキくんに不満があって、それを拗ねて部屋の隅で丸くなるというなんの生産性もなく発展性もない思考停止に他ならず愚策としか言いようがない幼稚極まりない手段で訴えているのだ。弱冠22歳にして。真面目に死んだほうがいいかもしれない。もちろんその不満というのはユキくんが上半身の服を脱いでくれないひいては生乳首を見せてくれないことではない。再三触れたようにそんな小さなことを気にする男ではない俺は。それじゃなくて、全然別件で俺は部屋の隅で人間団子と化している。俺は精一杯恨みがましい、じっとりした声を心がけて口を開く。

「ユキくんさあ…なんでさあ…俺以外の男とさあ…ふたりっきりで遊ぶの」
「ちっさ!!わっ、ちっさちっさ!!」

 小さかった!俺小さかった!!聞いてくれはしたものの相変わらず容赦も慈悲もないユキくんの反応にグッサグッサやられながら、俺は反論する。涙ながらに。

「いやだって、だってさあ!いやじゃん!いやだもん!そんな、彼氏以外の男とさあ二人っきりって世の男の9割はいやだよ!?」
「ふたりっきりってもなあ、俺男じゃん、女ならともかく」
「てめえホモだろうが!!」
「誰がてめえだぶっ殺すぞ確かにぼくはホモですがそしてブーメラン刺さってんぞこのクソドホモ!!」
「やだやだ!大人数ならいいよ!大人数ならいいから!野郎とユキくんがふたりっきりはやだっ!!」
「そんなに友達いねえし」

 クソ泣けるし。
 ガキのごとく拗ねたかと思えば未就学児のごとく床を転がり出した177センチ22歳の俺の頭をゴリゴリ床に押さえつけて止めながら、それでもユキくんは考えてくれているようだった。ああもう、こういうとこ大好き。いっつも俺の自分でもしょうもないと思うようなどうしようもない駄々も不満も、ユキくんは一応ちゃんと受け止めて考えてくれる。そのまま言うことを聞いてくれることは滅多にないけど、まあそれは俺の駄々が完全に杞憂のわがままだから仕方がない。その場合は容赦なくのめされるけど、ちゃんと考えてくれるだけで俺みたいな繊細ネガティヴァーは安心すると言うものだ。
 ゴリゴリ俺の頭を床ですり下ろしながら、ユキくんは言った。

「でもなあ、マモルは友達だし」
「あっ、マモルっていうんだ、マモルっていうんですね〜覚えた!もう覚えちゃったもん!つーか相手一人なわけ!?ああああんこれはいよいよ友達だと思ってた二人のあいだに何かが芽生える未来に真実味が出てきちゃったよ〜!!」
「お前マジでうっざいな!びっくりするわうざすぎて!友達だって言ってんだろが!!」
「聞いたことある、この台詞聞いたことある、ドラマとか再現VTRとかで聞いたことあるぅううヴヴヴぶ」

 ネガティヴァー極めすぎて過呼吸めいた発作的なものを起こす俺。「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」なんて迫真の演技で言いながら俺の顔をわしづかんでタコさんみたいにするユキくん。俺はマジでブルー入ってんですけど。ふざけてる場合じゃないんですけど。

「…かっこいいの?」
「は?」
「マモルくん、かっこいいの?」
「…お前いい加減にしないとそろそろ怒るからな」
「俺だってなにするかわかんないよユキくんのこと好きすぎるんだもん!!」
「マモルは顔はめちゃくちゃ良いけど」
「うわあああ俺以外の生きとし生けるイケメンは滅せよ!!」
「軽くサイコパス入ってるからテメエは軽くメンヘラ入ってるけどな!!」

 なんだよどっこいどっこいじゃないか!なんてポジティブになれればネガティヴァーやってない。だいたい俺だって顔はいいのに、小さい頃からずっと顔だけは誉められてきたのに、ユキくんは俺のことかっこいいなんて言ってくれたことないし、そりゃ歳下だけど、そのサイコパスマモルとやらのことはソッコーで「顔はめちゃくちゃ良い」って!「めちゃくちゃ良い」って!「顔は」って!!つーかユキくんの友達ってだけでうらやま死い過ぎるし、前述のとおり友達少ないユキくんの友達ってだけでうらやま死いだし、はっもしかしてユキくんの高校の卒業証書経由して送ったのもそのマモルくんなんじゃないの?と俺は百戦錬磨の女の勘も真っ青な名推理をひらめいてしまう。そうとなるとそのマモルくんはユキくんと高校も一緒だったことになり、住所を知ってるような仲の良さだったことになり、高校時代のぴちぴちのユキくんと青春アミーゴしてた可能性が、あっやばいもううらやましすぎてガチで死にそうになってきた。もうアカン、そんな時間の積み重ね、うらやましすぎる、しかもイケメン、もう、もう。

「スバル、いい加減にしろよ、友達だって言ってるだろ」

 ユキくんが台詞とは裏腹にちょっと優しい声でそう言って、優しく髪を撫でられて泣きそうになる。わかってるよ、ユキくんはこういうことで俺に嘘なんかつかないよ、俺だっていい加減にしたいよ、でもそれができたらネガティヴァーやってない。ベスト杞憂ニストやベスト石橋ノッカーを毎年受賞してない。そんなもん実在すんのかしらんけど。
 ユキくんが好きすぎてはち切れそうなんだよ。
 ユキくんがいない世界のことはもう考えられないんだよ。

「わかった」
「おっ、エラいぞ〜すーちゃん、機嫌なおしまちたか?」
「それ俺じゃなかったら一瞬でまた機嫌損ねるからね!」
「お前は損ねないんだ、エラいエラい」

 誉められて撫でられてもうトロけそう。しかし違う、そうじゃない。あくまでこれは譲歩だ、これから言う条件を飲んでもらった上での譲歩だ。

「会わせろ」
「あ?」
「その、マモルくんに、会わせろ。会ったら安心だから!そしたらもう二度とこんなわがまま言わないから!」
「それはお前嘘だろうが…」

 確かに、前も同じような状況でこんなこと言った気がするから嘘かもしれん。でも世の中には、必要な嘘もあるのです。よい子のみんなそれだけは大人になる前に覚えておいてね。
 ユキくんは俺をちらちら見ながら少し考え込む。さっきよりも長いこと考えていたかもしれない。顎を引いて、バツが悪そうに。ユキくんは言った。

「ヤダ」
「なあああんで!なんでよ!会うだけだよ刺したりしないもん会ってあわよくばお友達になって牽制するだけだもん!」
「すがすがしいなお前。でもヤダ。やなもんはヤ!」
「理由は!?理由!理由!」

 思わず起き上がってユキくんのほっそい肩を掴む。ユキくんはぷいと顔を背ける。ぎゃんわいい。いや、違う違う。まだ濡れている厚い前髪が割と大きな目を隠す。ぎゃんわいい。いや違うって俺、なに、なんなのこの反応こわいよこわすぎるよなに隠してんのユキくんユキくんユキくん!って自分とユキくんを叱咤しながらなおも食い下がると、ユキくんは目を逸らしすぎてほとんどまぶたを閉じながら吐き捨てた。

「…じ、自分の彼氏イケメンに会わせたいホモがいるわけねーだろこのクソが!」
「はあ…ユキくん愛してる…っ」

 思わずぎゅうと抱きしめるとユキくんは湯上がりの身体をさらにほっこほこにさせた。やばい、やばいよ超うれしいよユキくんが嫉妬してくれるとか!史上初!本邦初公開!全米が涙するかは知らんけど俺は泣くほど嬉しい。それなら仕方ないね俺はユキくんの言うこと聞くねだって俺はユキくんを愛してるからねって囁いてたらユキくんの携帯が鳴って、これ幸いとばかりにユキくんは俺の腕から抜け出した。あれ?あれあれ?と思ってる間にフツーに電話に出るユキくん。立ち上がって露わになった生足がまぶしい。

「もしもし、おう、マモル」

 え。さあっと血の気が引くのがわかった。ユキくんが俺を見下ろす。にやあっとなんかすごい嫌な、意地悪な笑み。ちょっと、えっと、ちょっとちょっとちょっと?俺が子犬のように見上げているにも関わらず、ユキくんは信じられないことをのたまった。

「今?一人じゃないけど、別にだいじょうぶ」

 な、な、な、

「なにが大丈夫だテメエ!!代われ!マモルくんだろ代われ!!」
「ははははは、黙れガキンチョ!ん?いやいやこっちの話ぜんぜんへーき」
「代わって!代わって!やだやだやだもお代わって!!」
「だめ〜!!ん?そう、うるせーの、反抗期かしらね」
「もおおおユキくんんんん!!」

 フハハハって魔王みたいに笑いながらわりと本気で俺を殴り伏せるユキくんはめちゃくちゃ楽しそうだった。いきいきしてた。ひどい。ひどいけど、そんな人が好きなの俺、滅茶苦茶にしたいほど、ゲロゲロに甘やかしたいほど好きなの。惚れた弱みだよこればっかりは仕方がないよって、でもマモルくんは刺しちゃうかもって、俺は納得ずくで泣いた。

【完】
prev top next
GFD