よく見る夢が二つある。一つは見も知らない金髪のガキガールの夢。もう一つはいやん、ヒミツだよ。もともと夢ってそんなに見ない、年に数回見るか見ないかという程度だけど、それでもその二つは繰り返し夢に見る。金髪のガキガールの、具体的にどんな夢かと聞かれると「とにかく金髪の幼女が出てくる夢なんだよ」としか言いようがない。夢ってそんなもんでしょ?ばっちり覚えてるつもりでも、波打ち際の砂の城のように現実に打ち崩されてしまう。断っておくと俺はロリコンじゃあないから。いや貴方の深層意識は正真正銘のロリコンでそれがそんな夢を見させているのですと言われたら信憑性ありずぎて震えるけど。
そんなことを、このいかにも「女の子」って内装の部屋を眺めながら考えた。そんなことを思い出す程に「女の子女の子」している部屋というのが正しい。壁紙からカーペットからカーテンからベッドカバーから、あらゆるものがピンクと淡いパープルで統一されている。クロゼットの木の扉なんかはわざわざピンクに塗りなおされているのだ。半開きになったその中には女の子の服がどっさり。ロリサイズから少女サイズ、ハイティーンサイズまでより取り見取り。着なくなった服も捨てずにとっておくタイプみたいだ、夢見がちなタイプの女に多い。けれどいちばん大人サイズ(いろんな意味でね)のタイトワンピースでも最後に流行ったのは数年前というようなデザインだし、なにより部屋全体が埃っぽい。カーペットは埃に浸食されて硬く、黒ずんている。
かつてこの部屋で女の子が育って、今は長いこと誰も踏み込んでいない**『はず』の部屋。ってとこだろ。
『はず』っていうのは、ベッド脇にチョコレートバーの袋の真新しい切れ端が落ちていたり、ピンクのクロゼットはちょうど「少女サイズ」あたりにごく最近引っ*き回された跡があったり、ネタバラシすると現在この家はデイケアに通うような裕福な婆さんの一人暮らしで、彼女は脚と頭の具合が悪く、この部屋含め二階全体に誰も足を踏み入れなくなってから数年は経つのに、今、廊下のほうに確実に人の気配があるからだ。
さりげなくドアの蝶番側、ドアを開けたときに影になる側へ立ちながら、できるだけガキ向けの、親しみやすい第一声を考えようとした。まあこれがぜんぜん思い浮かばない。ガキの相手するのって、実のところ苦手なんだよね。よく「いいパパになりそ〜」なんて言われるけど。苦手だなんて言おうものならそれこそ“パパ”パードレなんかは「てめえがガキだからだろ」とか言いそうだから黙ってた。『大人げない』のもダメ、かといって『バカにしてる』と思われてもダメ。その中間のちょうどいい塩梅が難しいし、怠い。それでも第一声っていうのは一回っきりで、こういう世界でこういうことばっかやってると誇張じゃなく生死を別ったりしちゃうものだから、後悔しない程度には考えなきゃならない。初対面の(すでに二人殺している)ガキ相手に警戒心を抱かせず掴みもオッケーの第一声。いや思い浮かばねーよ。ソーシャルワーカーとかスクールカウンセラーじゃないんだぞ俺は。
そんなこんなで思い浮かばないうちにドアノブが回り始めてしまった。南無三。ドアはとても用心深く少しずつ開く。小さな鼻先がはじめに覗いて、次に金髪が見えて。第一声は思いつかないけどとりあえずビンゴ、写真とおおよそおんなじ背格好のガキが入ってきたので俺ってばやっぱりこういう『調査』活動に関してはできる子ちゃんなんだよなって。
「やっほー☆」
ドアの影から顔を出して、兎にも角にもそう言った。もう破れかぶれである。でもそんなに悪くないよね?フツーのガキ相手なら。結構親しみやすいと思うけど。しかし相手はフツーのガキではなかったので、機敏に振り返りキッと俺を見据えるや否やなんと、切りかかってきた。隠し持っていたナイフ(のようなもの)で。間髪入れずに。戦慄した。可愛くない。親しめよ。それでもあどけなくがむしゃらな一撃は身を引いて避けて、踏み込んだまま間髪入れず繰り出してきた二撃目になかなかいいセンスしてんなと感心して、さらに踏み込んだ三撃目で悪い子ちゃんなことに平然と俺の首筋を狙ってきたのでお遊びはここまで、ナイフごとその手を掴んで受け止めた。そしてそのままクレーンアップ。
「ぎゃー!手が!」
「しーっ!静かにしな、大丈夫だから」
いや何が大丈夫なんだかわかんないけどだって急に、騒ぎ出すので。まさか騒ぐと思わなかった。もう二人殺した上に逃亡しおおせて、挙げ句独居老人の家に潜伏するようなガキなのだから、つまりいろいろと「わかってる」ガキなのだから。おいおい階下にはこの家の婆さんがいるんだぞ。そのへんの聞き分けなさは所詮ガキということだろうか。一瞬のち、ガキボーイは静かになりはした。しかし吊り下げられた手をしきりに気にしながら、もう一方の手でがしがし殴りつけてくる。その手もチャっと捕まえる。ふいに、よく行く飯屋の通りにに棲みついてるブサイクな野良猫に構ったらすさまじく抵抗されたのを思い出して不愉快になった。どいつもこいつも。今や両手を聞き分けのない猫よろしくぶら下げられたガキボーイは、焦りと怯えが2割ずつ、残りの6割はぶすむくれの上目遣いで睨んでくる。うっわそっくりブス猫にそっくり。睨む目は写真とおんなじ、完璧に灰色の瞳をしている。写真の彼には間違いない。今はブス猫だけど。加えていささか髪は短くなり、そして、
「あれれれれ、なーんで女の子の格好してるんのかなー?」
そう、デニムスカートを履いていた。その下にスパッツも履いてるけど。男の子だったはずだよねえ?って、このくらいのガキってそういう揶揄に最も敏感で最も残酷だろ?と期待をこめて意地悪く笑ってみたのに、彼は精一杯やれやれと言った表情をしてみせただけだった。おまけに肩を竦めるような仕草をする(吊り下げられているので実際に竦めることはできない)。素直に答えるなんて思ってはいないが、腹立つ。
「まあいいや。それよりボク、返さなきゃいけないものに心当たりあるよねえ?ここ最近拾った『モノ』でさ。重くて、ごつくて、すごくうるさくてすごく便利で、だから子供が使っちゃならないものなんだけど」
もちろん銃のことだ。まだぶすむくれているガキボーイを軽く振って答えを促す。しかし彼はやれやれとぶすむくれの中間くらいの表情を崩しもせず平然とこう言ってのけたのだ。
「知〜らなぁ〜い」
ぷすくすくす、って。そっかそっか、そう、素直に答えるなんて思っちゃいないからね。
「…そ、わかった、…じゃ勝手に調べよっかな!」
「ぎゃー!!」
どうやって調べたかと言うと、逆さまにして振った。いつのまにか魔境と化したリュックサックの中から目当ての物を早急に探し出さなきゃならないとき、みんなそうするんじゃないかな?細い手から、ゴルフボールくらいしかない足首へ持ち替えて上下に振る。そのしっかり着込んだダウンベストの下とか怪しいな〜と思いながら。案の定、持ってたナイフやらどうみてもジャンクのネジやら飴ちゃんやらがぼろんぼろん床へと転がり出る中、逆さに振られて「えうっえうっ」とえずきながらも、健気にダウンベストの胸あたりをしっかり押さえている。もうちょっと振ってやるか。
「このまま振り回されたくなかったらお兄さんの言うこと素直に聞いて、渡すもん渡してくれ。そしたら痛いことも怖いこともしないでおいてあげる。言ってることわかるかな〜?」
「えうっえっエロ!!」
「…んー?」
「おっ、んなのっ、こっ、っのっ、スカートっ、覗くとかっ、エロだっ!!サイテーっっ!!」
「…」
大人げねえよなお前、というパードレの顔が浮かんだ。いつまでガキ気取りなんだてめえは、と。心底小バカにした顔が。うるさい、ガキの目玉をむしり取る大人に言われたくない。つまり俺が何をしたかと言うと(ガキガールと言い張っている)ガキボーイのスカートの中に手を突っ込んで、ソレを。おんなのこならフツーはないはずのソレを現物確認した。無いというのだから確認したまでだ。
「ぎっ」
加減はした。ガキボーイの体が変な感じに引き攣って固まる。ベッドに落とすと、甚大なダメージを受けた男にしかありえない、そう、ある意味なによりも男らしいポーズでうずくまった。両手でそのあたりを押さえて健気に震えたかと思うと、左右に転がって苦悶のうめきを上げる。また脂汗を滴らせながらきつく歯を食いしばったかと思うと、息を詰まらせたまま片手でガンガンマットレスを殴りなんとか苦痛を散らそうとしている。小さくてもちゃんと男の子だな〜人類、と感心する。そう、男じゃねえか、何が女の子のスカートの中だ、何がエロだ、許さねえぞ絶対にだ。
しかしさすがに大人げないばかりなのも小癪なので、ここらで猫撫で声も出してやることにした。
「変装か。よく考えたな。髪は自分で切ったのか?上手いじゃないか。足の悪い婆さんの一人暮らしの家に隠れるってのも考えたなあ。お前に用があるやつはまずスラムのガキを洗いざらいしようとするだろうからな。あいつらは新入りに厳しいだろ。その点ここなら二階には絶対上がってこない婆さんだけ気を付けときゃいいってわけ。毎日ベッドで眠れて、寝てるうちにリンチされて死ぬこともない。賢い賢い。100点満てーん」
「…っの死ねぇッ!!!」
さらに感心なことに、ガキボーイはハンムラビ法典を知っているようだった。つまり目には目を、金的には金的をというアレを。ベッドでのたくっていたその姿勢から、ちょうどいい高さに来ていた俺の無防備なアレに的確なキック。満身創痍のガキとは思えない、なかなか堂に入った重みのあるキックであった。まさかその体勢からキックが繰り出されると予想させない動きも素晴らしい。或いは危機に瀕しているからこそ発揮されたポテンシャルなのかも知れない、子曰く、窮鼠猫を噛む――それだけだけど。痛い系は無効なタイプなので、お兄さん。
「え…?なんで?」
渾身の金的をスルーされたガキボーイは青ざめて起き上がり、にじりよって俺のを現物確認した。そして「うげー」と言う(すさまじい表情付き)。じゃあ触んなクソッタレ。次に俺の左手を両手で取り、押し広げ裏返し穴が開くほど眺めまわす。何をしているのかと思ったが、よくよく考えればその手は最初にガキボーイの手をナイフごと受け止めた手なのだった。…なるほど、それで「ギャー手が」ね。傷一つないんでビビってるんだろうが、それはあのナイフがペーパーナイフにも劣る鈍らだったからだ。30年は研いでないんじゃねえのって感じの。おおよそこの家の台所から失敬した果物ナイフとかなんだろう。言わないけど。ちょうど足元に転がっていた件のナイフを、俺はベッドの下に蹴り入れて隠した。
「…なんで?」
「んー。企業秘密」
しらばっくれるとガキボーイはポトリと俺の手を落とし、なんとも言えない上目づかいでにじり下がり枕に埋もれ「フーン!」とふんぞり返った。気にしてませんのポーズ。強がりで結構。なんとなく優位に立ったところで話を進める。
「単刀直入に言う、銃を持ってるだろ。お前がそれを何に使ったか知ってる。お前の親父を殺したヤツと、あのアバズレを殺した」
「あばずれ」
ガキボーイはガキに聞かせちゃいけない言葉にだけ敏感に反応し、にやにや嬉しそうに繰り返す。クソガキだ。
「その銃はもともと俺たちの銃なんだ。俺たちの…なんというか…会社の備品って言ってわかるかな?だから返してほしい。返すだけでいいんだ。大人しく返せば痛いことはしない」
「もうした」
「もうしない」
「アンタは殺し屋なの?」
哀れっぽく股間を押さえたかと思うとそんなことを聞いてくる。大丈夫まだ付き合える。だってガキ相手に力ずくでなんて、あまりにバカバカしいし小癪だろ。バカなあんちくしょうはガキ相手に力ずくで行って返り討ちって目も当てられない惨状を引き起こした。同じ轍を踏むわけにはいかない。そんなことになったらパードレが笑い死ぬだろう。死ぬならいっか。いやいや。たかがガキから銃を取り返すのに殺されることもないし殺すこともない。けどまああまりにもすんなりいかないようだったら、殺さないこともない、ってのが俺とあの悪魔パードレの共通認識だ、常識みたいなものだ。この街ではこの国では、映画の中の洗練された都市より命が安い。
「殺し屋…殺し屋?殺し屋…なのかな?どうなんだろ。いや、うん、んー。うん、たぶん殺し屋って言ってもいいんじゃないかな」
「“さっさと仕事を済ませな!!”って言ったほうがいい場面?」
どっこでそんなしょうもないセリフを覚えるんだか。そしてよくもこの場面で吐けるものだ。クソガキだ。
「さっさと銃を返すだけでいい場面。さっさと返せ。それで俺は消える、未来永劫、お前の前に現れない、誓うよ」
「“さっさと仕事を済ませな”」
ガキボーイは表情も変えず、つまり笑いの残滓を頬に貼り付けたまま繰り返した。目は試すような上目遣いで俺を見ている。おいおいこの、ガキ。わかってんのか。ぐらぐらと頭に浮かんだチンケなセリフに自分で煽られたわけじゃない。まさか本気でイラっときたなんてそんなわけない、そんなわけないない。
でもちょっと脅かしたい気分になったのは事実だ。
「いいか、おい、お前が腹で大事に温めてるその銃は二人殺してるんだ、二人だ、数は数えられるな?」
なるだけ大げさな身振りでベッドに乗り上げるとかすかに身を強張らせたので、逃げる間も与えずその胸倉を膝で踏み付ける。案の定、そこにはぺらぺらの体に不釣り合いなごつくて物騒なものの感触があった。決して華奢とか小柄ではない俺の体重をその物騒な塊ごしにかけられて、ガキボーイの表情がたちまち歪む。数えられるな?と目くばせで繰り返しながら、なおもそれを鳩尾にめり込ませた。まだこれを返してもらってないので、どれだけ痛いことをしたってかまわないのだ。
「違う、ぅ、銃じゃない、俺が。俺が、二人を殺したんだ!」
「騒ぐんじゃない俺が話してる」
黙らせながらしかし、大したところにこだわるな、とは思った。確かに銃は人を殺さない。滅多には。なんとか起き上がろうともがくその喉を指先だけで沈める。これを思いっきり絞められたら何も面倒じゃねえのにな、と思いながら。ベッドに沈んだぶんだけほとんど嗚咽じみた呻きを漏らしながら、なおも膝にかじりついてくる。頑張るのは勝手だがそろそろなにより理不尽な大前提を思い出してくれなきゃ困る。つまりお前がどんなに頑張ろうが、どんなに小賢しかろうが、俺は暴力だけでどうにでもできる。
「拾った櫛は使っちゃならない、知らないか?お父さんが教えてくれなかったか?前の持ち主の不運が移るからだ。ネクタイピンもおんなじ。女も、ガキもだ。拾ったもんを使い続けると碌なことにならない。なんだっておんなじ」
「…え、何の話、いっっ!!」
「これの話だよ。俺はずっとこれの話しかしてない。話を逸らすな」
加減し損ねて大きく膝がめり込んでしまった。もちろんし損ねて。
「誰かに殺されるのを心配してるなら、銃さえ返せば誰もお前なんか殺しに来ない。さっさと返せば済む話だろ?その前に俺に殺されないか心配しろ。ガキの一人くらい殺して取り返せばいいって考えのヤツだっているんだ。お前の親父はどうなった?なあ。お前の親父はどうなったよ。俺がガキ相手にマジになりたくないってちっぽけなプライドにこだわってるからお前は今生きてるんだ。銃を返せ。そんで孤児院でもなんでもいきゃあいい。絞め殺したりしない。首の骨を折ったりしない。顔中の骨がぐちゃぐちゃになるまで殴ったりしない。お前の人生の節々に現れて脅しかけたりなんてもちろんしない。今ならだ。今返せばだ。具体的に言うとあと10秒くらいだ、10、9――」
「俺が殺したんだ。俺がちゃんと、殺そうって自分で、俺が決めて、俺が殺したんだ。二人。二人」
「――8、7、」
「――だからあと何人殺したって変わらない」
「6」
なるほどな、と思った。
すでに頭に血が上っていたからそんなテンションだったけど、本当は天啓を得たくらいの衝撃はあった。なるほどな、本当にそのとおりだな、って。それはたぶん罪の話ではなくて、救いの話だ。まあ、あとから思い返したときに、そう思ったんだけどさ。そのとき時点で感じた衝撃は、どちらかというと物理的なものだったらしい。
「…ねえ、刺したんだけど、気づいてないの?」
言われて自分の腹を見た。ナイフではない。もっと華奢なフォルムだ。矢が生えている。矢て。足の下のガキボーイは枕の下に手を突っ込んで、もう一本同じ種類の矢を取り出そうとしていた。競技用の矢――女の子用のピンクのやつ――が数本、枕の下から覗いている。どれも先端が鋭利に研がれて競技で使おうものなら本気で怒られそうな代物に変わり果てていたけど。そうか、そういやそうだったな。矢て。笑いが出た。そんなものをこの家から引っ張り出してきて一生懸命研いで枕の下へ隠しておいたのか、ナイフは鈍らなくせに。
「何笑ってるの?壊れた?」
引き気味の拙いお伺いが言いえて妙なものだから余計笑える。滑稽なという意味で。ガキボーイは気味悪そうにしかし抜け目なく俺の足の下から抜け出そうとしたがそれはまだダメ。
「はー。そうだな、やり方を変えよう。正直大人げなかった、今のやり方は」
「すっごくね」
「すっごくな。怖かっただろ?」
「そこそこね」
「そこそこ怖かったら刺したくなっても仕方ないな」
「…」
正直、俺の気持ちの大前提として、そりゃこんな危なっかしいガキが二人殺した銃を持ってるなんて全裸で警察詰所の前を歩き回るようなもんだが、俺の気持ちの大前提としては、パードレに骨を投げられてよしコラ行ってこーいと言われるまま速やかに銃を回収しお利口にハウスハウスするのはちょっと、かなり、すごく、おもしろくない。簡単だろ?なんて言われたら、いやあこれ結構きついんすよぉ?と言いたくなるのが人の常だろう、ね。約束を無視して目玉を毟り取るよりは断然カワイイでしょ。
「ねえなんで?下になにか着てる?防弾チョッキとか?」
「着てない。ちゃんと刺さってる。お前が刺したんだ、親切で可哀そうな俺を。もうちょっと刺してみるか?ほら、ここ持って、わかるだろ、肉に刺さってる」
「ウゲー!」
「冗談だよ。それ以上刺すな」
腹に刺さったままの矢を掴ませると(自分が刺したくせに)ガキボーイは心底嫌な顔をして逃れ、それからコロコロ笑った。ガキだ、やっぱ。『自分で決めて殺した』そう信じることができるガキは、何を考えながら二人殺したのか。何を考えながら逃げたのか。何を考えながら髪を切ってスカートを履いたのか。何を考えながら冷静に、こんな隠れ場所を見つけたのか。どうしてそんなことをしなきゃならなくなったのかを理解してるかどうかはどうだっていいんだ。何を考えながら今、笑っているのか、こういうガキってやつはいったい。そこんところには少し興味があるってだけの話だ。