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これまで一般的な生活を送ってきた。本当に、いわゆる平凡な人生である。義務教育課程を終え、更に進学し、休日は友人と遊ぶこともあれば一人家でダラダラと過ごすことも珍しくはなく、バイトにもそれなりに勤しんでいた。そうして、そのうち成人を迎え社会人となり、仕事づくしの日々を送っていたわけだが、どういうことか異国の地で再び勉学に励むことになっている。しかもその内容は魔法について。現状、帰れないからこの世界でとりあえず生きていくしかないと決まったあの日から、早くも一週間が経過していた。ホグワーツ魔法学校と呼ばれる名門校で、朝から晩までみっちり授業を受けている。魔法史やら魔法薬学やら箒の使い方など。今の状態では在籍する他生徒たちとともに授業を受けるわけにはいかないので、空き教室に先生方が来て教えてくれている。基礎から何も分からないため、ある程度学んだタイミングで生徒たちと合流するという手筈だ。とはいえ、他の世界からやって来ましたこんにちはとは言えるわけがなく、生徒たちには教師の1人であるアルバス・ダンブルドアの知り合いの親戚のそれまた更に遠い親戚で、最近になって魔力があると判明したため知り合いのいるホグワーツに入り今は別で指導を受けている留学生、という扱いになっているそうだ。それだけ離れた知り合いであれば、もう何の関係もないのでは。

ちなみに、翻訳魔法というのか、共通言語に聞こえる魔法をかけてくれているため会話には困らない。文字も意味が理解ができるようにしてもらったので問題ない。しかし、自分の能力自体が上がったわけではないため筆記は気合と勘だ。自分の英語力の低さが身にしみて分かる。

「アクシオ!」

呪文を唱えると机上に置かれたノートが瞬時にこちらへ飛んできた。

「やったー!!これ私、かなり上手くなったんじゃない?」

全て先生方の指導の賜物である。おかげでこの世界で1人放り出されたとしても困らない程度の実力を身につけることができた。代わりにこの1週間は昼夜問わずみっちり勉強と訓練が続き、慣れない環境とキツさに思わず吐いてしまうこともあったが。ちなみに私が使っている杖は、こちらに来た晩に拾った物だ。

コンコン、と部屋の扉をノックする音に続いて「入っても?」と校長の次に気にかけてくれているダンブルドア先生の声が聞こえた。軋む扉を開けて快く迎え入れると、彼は手近にあった椅子に腰を下ろした。

「調子は?」
「なんだかとても良い気がします」
「そうか。良かった。明日から君には他の生徒たちと同じように授業を受け、寮で眠り、ホグワーツでの生活を送ってもらう」
「はい」

こちらの世界へ初めて来た翌朝、目が覚め鏡を通して見た自分はいつの間にか学生時代の姿に戻っていた。年齢とともに身体も成長し、いずれは来た時と同じ姿に戻るだろうと。この姿で再び学生生活を過ごすだなんて変な気分だ。人間は日々老化こそしていくが、こんな風に若返ることはまずないのだから。

「君の組み分けについてだが、明日の集会で決めるそうだ」
「え?そうなんですか?てっきり先生方が決めてくださるのかと」
「いや、組分けは帽子が決めることであって私たちにその権利はない」
「へぇ。途中編入でもそういう感じなんですね」
「帽子は正しく君の資質を見極めてくれる。自分の意志と反した結果になることもあるだろうが、君の希望は?」
「……うーん」

そのような質問を受ける日が来るとは到底思っていなかったため、返答に困る。ここじゃなきゃ嫌だというのは特にないが、平和な寮であってほしい。強いて言うなら、主人公のハリーがやけに嫌がっていたスリザリンは回避したいところである。

「ここがいいっていうのは特に決められないです。むしろ、先生から見て私はどこにいそうですか?」

それから彼は顎に手を当て「ハッフルパフだろうな」とすぐに答えた。
そうしてダンブルドア先生の予想通り、組み分け帽は全生徒の前でハッフルパフと宣言したのだ。大きな拍手で迎えてくれたハッフルパフ寮のテーブルに着くと、近くの数名から挨拶を受けた。思いのほか歓迎ムードで一安心である。

集会が終わると生徒たちはぞろぞろと大広間を出て行く。その後を追うように、急いでハッフルパフの列最後尾に並んだ。実際に現地に来てみないと大広間から寮への道のりもよく分からない。お喋りする絵画や動く階段のことは知っていても、映画では丁寧に道順までは教えてくれないのだ。

「……あ、あの」

斜め前を歩いていた男子生徒が、歩く速度を緩め遠慮がちに声をかけてきた。

「なあに?」
「その、君に、少し聞きたいことがあるんだけど……」
「いいよ。何を聞きたいの?」

とはいえ、今まで住んでいた場所のことや生活のことを聞かれても答えられないが。そもそも時代が違うのでスマホなどと言っても怪訝に思われるだけだろう。「じゃあ、えっと」となかなか話を始めない彼に「今話しづらかったら後ででもいいよ」と提案するも今でいいと断られてしまった。

「君、日本から来たって本当?」
「うん、そうだよ。みんな耳が早いね」
「ここじゃあ珍しいから、みんな気になってるんだよ」
「そうなんだ。もしかして、それが本当かどうか確かめたかったってこと?」
「いや、違う……えっと、日本から来たなら」
「来たなら?」
「カッパとか妖怪を見たことがあるか聞きたくて……」

思わぬ返答に「カッパと妖怪」と彼の言葉を繰り返し呟いた。彼はこちらの様子を窺いながら「……ごめん。今のは忘れて。気持ち悪いよね」と気まずそうに下を向いた。もしや、異国文化に興味があるタイプなんだろうか。気持ち悪いなどとは少しも思ってはいないが、この手の話をしてそういった経験があるのかもしれない。

「別に気持ち悪くないよ。私に答えられる内容じゃなかったらどうしようって身構えてたらカッパと妖怪についてだったから力が抜けちゃったっていうか。あ、でもカッパと妖怪は話を聞いたことはあっても見たことはないから、どのみち君の期待には応えられないかも……」

並んで歩きながら「ごめんね」と謝罪の言葉を述べて、彼から視線を外した。何の反応もない様子に再びそちらを向くと、意外そうに瞬きを繰り返している。

「どうしたの?」
「なんていうか、まともに返事をもらえると思ってなくて」
「え?聞かれたら普通答えるでしょ。無視するとでも思ったの?」
「そういうわけじゃないんだけど」

彼は魔法動物をはじめとした生き物に興味があるらしく、話し始めるとつい熱くなってしまうためそのテンションについていけない周りの者たちからは少し敬遠されている節があるのだという。 

「オタクなんていつどこにでもいるのにね。ここの人たちには珍しいのかな」
「オタクって何……?」
「なんでもないよ。こっちの話。それで、えーと、ごめん名前聞いてもいい?」

列の一番後ろで歩幅を合わせて歩く。ハッフルパフの他の寮生たちも歩きながらそれぞれおしゃべりを楽しんでいるようで、こちらのことなど誰も気にしていない。

「私、名前。もう知ってるかもしれないけど」
「僕は……ニュート。ニュート・スキャマンダー」
「よろしくね。スキャマンダー」

この時私は、意図せずファンタスティックビーストの物語に足を踏み入れていたのである。目の前のニュート・スキャマンダーが、あの魔法動物学者ニュート・スキャマンダー本人なのだと気づくのにそう時間はかからなかった。



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