さらば、僕と君の純情
「何やねんアイツ、胸くそわるい。」
昼休みの屋上。焼きそばパンにかぶりつく。そんな青春のテーマを気取りながら、荒々しい言葉を吐き捨てる。分かりやすく、不機嫌だ。
「どうしたん?」
「なんかさあ、あんな言い方するう?こっちが珍しく空気読んだらあれやで?」
「亮。ぜんっぜん話が見えへんわ。」
感情のままに愚痴を吐き出す亮も、いい加減落ち着いてきたらしい。焼きそばパンが残りわずかになったところで、頭をがしがしと掻きむしった。
「…周りからさ、勝手に噂とかされるの嫌やん?本人置いてけぼりで噂の一人歩きなんて最っ悪やん。」
「…そやねえ。」
相変わらず話の本質はまったく見えなかったけれど、やけに感情のこもった言い分に共感する他なかった。
亮がそれで嫌な思いをしたことも一度や二度じゃないことを知っているから。
「だから、俺は偏見とかなんにもないねん。」
「んー。」
「ただ単純に!勝手な決めつけとかでぼっちになってるのが悲しいなと思って声かけただけやねんで?」
いよいよ話が見えなくなってきた。いや、始めからこれっぽっちも分からなかったけれども。さっきとはまた変わって、不貞腐れたように唸る亮は少し新鮮でもあった。
ストローを噛みながら、亮は眉を寄せた。
「…大倉もさ、なんであんなんのお守りしてんねやろな。」
「……大倉?」
「いくら幼なじみやからって…あんな過保護にする?しかもあんな電波女。」
フラッシュバック。
かつての記憶が一瞬で頭に流れ込んでくる。つん、と目の奥で何かが走ったように痛む。
「話しかけないで、やって。ほんまムカつくわ。」
「…そんなこと言われたん?」
「おん。そんな言い方ある?」
亮は不機嫌なままに空っぽになったジュースの紙パックをつぶした。
案外、これって恋の始まりとかいうやつなのではないだろうか。昼休みに合流してから今まで、亮は彼女の話しかしていない。本人は気づいていないようだが。
「そんなこと言う子じゃなかってんけどなあ、蛍。」
「そうなん?信じられへんわ…って、知り合いなん!?」
「うん。中学一緒やったからね。」
「あー、そうやん。大倉と一緒やんな。」
あの頃の俺達はまだまだ子供で。
どうするのが正解だったのか分からないまま、最低な結果を生んだ。
でも、あの頃に戻れたとしても、どうしたら違う今になっていたのか。俺には未だに分からなまま。
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