断ち難き愛染

09


 早めにシャワーを済ませ自室に戻ると、ガッシリとした体つきの女の子とパンジー・パーキンソンが部屋のソファに座ってお喋りを楽しんでいた。
 エマに気づいた二人は話しをやめ、少しぎこちない愛想笑いで出迎える。

「もう体調はいいの?」
「大丈夫よ。お気遣いありがとう」

 今話した体格の良い彼女がおそらくエマとダフネのルームメイト、たしかダフネがミリセントと呼んでいた子だろう。
 しばらく沈黙が続き、場を和ます様にエマが笑顔で口を開いた。

「私ったら、まだ自己紹介をしてなかったわよね。日本のマホウトコロから転校してきたエマ・クジョウよ、どうぞお見知り置きを」

 両手でスカートの裾をつまみ軽く持ち上げてふわりとお辞儀をすると、二人は呆けた顔でエマを見る。

「……えっと、どうかした?」
「な、なんでもないわよ!私はパンジー・パーキンソン。知ってるとは思うけど、聖28一族に含まれてるパーキンソン家の一人娘よ!」
「私はミリセント・ブルストロード…よろしく」

 ピンと背筋を伸ばして堂々と名乗るパンジーとは打って変わり、ミリセントは少し控えめに自己紹介を終えた。
 パンジーはエマの頭のてっぺんからつま先までをまるで手持ち検査をするかのように見ると、ツンとした顔で口を開く。

「ところで、ドラコとはどういう関係なの?」
「ドラコ?彼とは、友達よ」
「そうなの?…そっか、そうなのね」

 用が済むと、パンジーとミリセントは足早に部屋を出ていった。
 パタンと部屋の扉が閉まると、エマは教科書とノートを取り出して先ほどまで二人が座っていた椅子に腰掛ける。
 今日は体調不良で午後の授業が受けられなかった。
 ドラコの怪我により授業は途中で終わってしまったようだが、これから休むことがあっても問題ないようしっかり勉強しておかなければ。

 エマは、日本の数少ない純血を途絶えさせまいと血縁の濃い血族結婚を繰り返した九条家に生まれた。
 その影響により昔から体調を崩すことも少なくなかったが、それでも周りに遅れずやってこられたのは授業以外でしっかり勉強をしていたからだ。

 今日の復習と今週分の予習が終わり時計に目をやると、時刻は17時40分を過ぎていた。
 あ!っと席を立ち、夕食を取るのを忘れていたことに気づく。
急いで大広間に行き時計を確認するが、もう食べられる時間はあまりない。
 急いで食べるのも行儀が悪いので、時間ギリギリまで食事を取り、あとは部屋に持ち帰ろう…。
 
 サラダとプディングを食べ終わり、蜂蜜パイをハンカチに包んでさっさと部屋に戻ろうとしたその時、ふとドラコのことを思い出した。
 元気そうではあったが、一応大きな怪我だったので多少は心配だ。
少しだけ、様子を見に行こうかな。



Bkm


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