断ち難き愛染

11


 翌日、1時間目の授業にドラコは出席しなかった。
 昨日は元気そうだったが、まだ傷が痛むのだろうか。とエマは少し心配になった。
 スリザリンとグリフィンドール合同の『魔法薬学』の授業が始まり、赤毛が特徴的な男の子とポッターの向かい側に鍋を据える。
 失礼するわね。とエマが小さく笑うと、二人はぎょっと目を見開いて顔を見合わせた。

 ダフネは他のスリザリン生たちのテーブルにいる。
 彼女は色々教えてくれたり仲良くしてくれていたが、他に仲の良い友達がいた。
エマはその間に入る様なことはしたくなかったのだ。というのは言い訳で、実は昔から友達を作るのが苦手だった。

 今日は『縮み薬』を作るらしい。
 縮み薬は前の学校、マホウトコロに通っていたときに同じ授業で作ったことのある薬だった。
 『魔法薬学』担当のスネイプ先生は前に立ち、工程を端的に説明しながら実際に作って見せる。
 マホウトコロで受けた授業よりわかりやすい上に先生の手際が良いので、エマはつい魅入ってしまった。

 スネイプ先生が最後の工程を終えたその時、静かな教室の扉が開き包帯を巻いた右腕を吊ったドラコが入ってきた。
 すぐさまパンジーが駆け寄り、心配した顔で怪我をしてる方の腕にそっと触れる。

「ひどく痛む?ドラコ…」
「ああ」

 ドラコは痛みに耐えるようにしかめっ面をした。
そのわざとらしい表情に、込み上げる笑いを抑えるエマ。
 座りたまえ。といういつもより少しだけ気楽なスネイプ先生の声を聞き、エマの向かいにいた二人が腹立たしげに顔を見合わせた。
 ドラコはエマの隣に鍋を据え、おはよう。と耳元で小さく囁く。

「それでは、実際に作ってもらおう。まずは材料の準備から」

 机に並べられた材料から必要な分を二人分取りドラコの前に半分置くと、いいのに。と眉をハの字に下げた。

「だって、痛むんでしょう?」
「時々ね、でも運が良かったよ。マダム・ポンフリーの話だと、下手すれば腕が取れてたって」
「大げさね」

 クスクス笑うエマを柔らかい目色で見つめるドラコ。
 そんな二人を見た向かいの二人は苦い顔で準備していた手を止める。

「ねえ、君ってなんて名前だっけ」

 そうゲテモノでも見る様な目で話しかけてきたのは、向かいにいる赤毛の男の子だ。
 エマはその目にいい気分はしなかったが、いつも通りふわりとお辞儀する。

「エマ・クジョウよ。どうぞお見知り置きを」
「わぁ…君ってどこかのプリンセスみたいだ」
「それはどうも…?」
「エマは日本の元貴族の高貴な家柄なんだ。君みたいなのが気軽に話しかけていい人間じゃないんだよウィーズリー」
「元貴族なら今はロンや僕たちとそんなに変わらないだろう?」
「何だと?ポッター」

 今にも喧嘩が始まりそうな空気に呆れた顔をするエマは、『萎び無花果』の皮を剥き『雛菊の根』を刻み終えたところで、コンコンとテーブルを鳴らした。

「ねぇ、ところで、縮み薬の作業は進んでいるのかしら?」

 それを聞いて慌てて作業を再開するウィーズリーとポッターだが、ドラコの手は止まったままだ。

「どうしたの?作業ができないなら手伝うわよ」
「いや、いいよ」

 そう言うと、ドラコはニンマリ笑ってスネイプ先生を呼んだ。

「先生、僕、雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと、こんな腕なので――」
「ウィーズリー、マルフォイの根を切ってやりなさい」

 スネイプ先生がこっちを見ずにそう言うと、ウィーズリーの顔が赤く染まる。

「大したことないくせに…!」
「ウィーズリー、スネイプ先生がおっしゃったことが聞こえただろう。根を刻めよ」

 ドラコが顎をしゃくる様にして雛菊の根を指すと、ウィーズリーはナイフをつかみ、根を引きよせてめった切りにした。
 それを見たドラコはいつもの気取った声で、せんせーい。と声を上げる。

「ウィーズリーが僕の根をめった切りにしました」
「ウィーズリー、君の根とマルフォイのとを取り替えたまえ」
「先生、そんな――!」
「いますぐだ」



Bkm


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