断ち難き愛染

12


 スネイプ先生の低い声に縮こまり、丁寧に切り揃えた根をテーブルの向こう側へ押しやるウィーズリー。
 台無しにした根をなんとかするべく必死な彼の姿を見たエマは、小さく息を吸って彼の隣に立った。

「な、なんだよ…!」
「ナイフはこう持って。そしてこう切るの。ね…ほら、マシになったわ」
「……あ、ありがとう」

 口を半開きにして放心状態のウィーズリーについ笑いがこぼれる。
 ねえ、大丈夫?とエマが首を傾げて顔を覗き込むと、彼は呆けた口を閉じて頭をかいた。

「あぁ。…君、ほんとにスリザリン?」
「それってどういう意味?」
「―――エマ、この萎び無花果の皮を剥くの手伝ってくれるかい?」
「もう…しょうがないわね」

 ドラコのいる鍋の方へ戻ると、萎び無花果を剥き、ついでに芋虫を輪切りにする。
 はい、どうぞ。とそれらを渡すと、彼は礼を言い、萎び無花果の血の様な色をした汁を鍋に入れゆっくりと掻き混ぜながら横目でエマを見た。

「エマ」
「ん?どうしたの?」
「…日曜日予定は?」
「ないわよ。どうして?」
「……よければ、」
「――おい、ハリー!」

 話を大声で遮られ、ドラコは猛烈に不機嫌な顔で声の主を睨みつける。
 エマも同じ方に目を向けると、 黄土色の髪をしたグリフィンドール生が向かいの机に身を乗り出していた。

「聞いたか? 今朝の『日刊予言者新聞』――シリウス・ブラックが目撃されたって書いてあったよ」
「どこで?」
「ここからあまり遠くない」

 騒ぐグリフィンドール生たちに苦笑いし、ドラコの方を見る。
 彼はイライラした様子で雛菊の根と芋虫、煎じたニガヨモギを鍋に入れ激しくかき混ぜながら口をへの字に曲げていた。

「昼食のときに続きを話さない?」

 ね?と小首を傾げてなだめるように微笑むと、彼は怒った表情を少しだけ和らげ頷いた。

 授業が終わり、大広間のスリザリンのテーブルにつく。
 エマはいつも通り食事をバランスよくお皿に盛りながら口を開いた。

「ところで、さっきの話だけど」
「あぁ、あの、日曜日……校内案内のついでに、中庭で昼食を一緒にどうかと思って」
「もちろんYESよ。中庭があるのね、ピクニックなんて久しぶりだわ」
「日本ではあまりしないのかい?」
「するのかもしれないけど、私の家でそういうのはなかったの」

 エマの顔がなんとなく悲しげに見え、何か気の利いたことを言いたかったが言葉が見つからない。
 そんな空気を察してか、彼女はドラコを元気づける様に微笑む。

「日曜日、楽しみにしてるわね」
「ああ。この間のカモミールティーを持っていくよ。気に入ってくれてたろ?」
「わぁ、嬉しい。じゃあ私は日本の和菓子を持っていくわ。出国時に買ったのが残ってるの」
「それは楽しみだ」

 こんなに話すようになってくれて、少しは心を開いてくれたのだろうか。
 エマとの初対面は最悪で、ホグワーツ特急でうっかり口説くようなことを言ったり意地を張って自分のガールフレンドだなんて口走った時には、仲良くなるのは不可能かと思った。
 それに、昨日怪我で情けなく嘆いてる姿を見られた時は恥ずかしくてオブリビエイトしてしまいたくなったほどだ。
 それでも他の人間と変わらない顔で微笑んでくれる彼女は、きっと誰にでも優しい人なのだろう。

「あ、でも、和菓子にハーブティーなんて合うかしら…?」
「和菓子はすごく甘いって聞いたし、爽やかなハーブティーとはきっと合うと思うよ」
「たしかにそうかも」

 にこにこ微笑みハッシュポテト食べるエマを見て口が緩む。
 彼女とこうしているときだけは、ムカつくポッターたちのことを忘れて穏やかでいられた。



Bkm


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