断ち難き愛染

13


 日曜日の朝、エマはいつも通りの時間に起きた。
 いつもと違うのは、今日は部屋で勉強するのではなくピクニックに行くということだ。
 課題や予習は昨日全て終わらせたので、今日は一日中のんびり過ごすことができる。
 朝食と歯磨きを済ませ、身なりの最終チェックをすると、『不可逆探知拡大呪文』のかかった鞄を持って待ち合わせ場所の談話室へ向かう。
 談話室に着くと、足を組んでソファに座っているドラコがいた。

「待たせてごめんなさい」
「待ってないよ。今さっき来たとこだ」
「なら良かったわ」
「少し予定より早いけど、行こうか。地下と1階はもうだいたい知ってるだろうから2階から案内しようと思うけど、大丈夫かい?」
「えぇ、大丈夫。今日はよろしくお願いします」

 まず最初に案内されたのは、図書館だった。
 何万冊もの蔵書、何千もの書棚があるらしい。
 その広さはおそらくマホウトコロの図書館よりも広く、エマが目を輝かせているのを見てドラコは変わっていると笑った。
 次は医務室、『闇の魔術に対する防衛術』の教室と『魔法史』の教室、マクゴナガル先生の研究室を通り過ぎ、北塔には『占い学』と『マグル学』の教室があると教えてくれた。
 ドラコはその教室には近づくことすらしたくないらしい。
 エマもマグル学にはあまり興味がなかった。

 3階に上がり、ルーピン先生の研究室と嘆きのマートルという幽霊が棲み憑いている女子トイレを通り過ぎる。
この階には校長室もあるらしい。
 4階のトロフィー室、『呪文学』の教室、背中にコブがある隻眼の魔女の像、立入禁止の廊下を見て回る。
 6階7階8階9階を見て回り、最後は天文塔に来た。
てっぺんに『天文学』の教室があり、ホグワーツの中では一番高い場所だという。
 柵に手をついて体を乗り出すと、大きな湖と山が見渡せた。

「綺麗な景色ねぇ…」
「エマ、あまり乗り出さないで」

 ドラコが心配そうな顔でエマの隣に立つ。
 涼しい風が頬をかすめ、プラチナブロンドの髪が耳の辺りで揺れていた。

「ねえドラコ」
「なんだい?」
「どうして私にこんな良くしてくれるの?」
「それは……君が僕と似ていると思ったからさ。前に君もそう言ってくれたろ?」
「そうだったわね」

 ―――自分に自信がないのね――私と同じ。と、エマは以前ドラコに言ったことがある。
 だが、似ているという理由だけで…と考えたところで気がついた。
 自分が他人に優しくするのは、困っている人を自分と重ねてしまうからだ。
彼もきっとそうなのだろう。

「ねえドラコ」
「ん?」
「ありがとう」

 ふわりと微笑むと、ドラコは気取った、だが優しい笑顔で応えた。

「そろそろ中庭に行こうか」
「えぇ、そうね」

 腕を空に伸ばしながら大きく息を吸い込み静かに息を吐く。
 冷たく澄んだ秋の光に目を細めると、ドラコがスッと手を差し出した。
 レディファーストに慣れる日はくるのだろうか。と頬をピンクに染めながらも、悠然とした態度を崩さないよう背筋を伸ばす。
男の子にしては少し華奢な彼の手を取り、長い階段を降りていった。



Bkm


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