なんだか外が騒がしくなり、エマは目を覚ました。
ホグズミード駅に着いたのだと、荷物を持って慌ただしく出口へ歩いていく生徒たちを見てわかった。
頭上の荷物置きからトランクケースを下ろそうと背伸びをすると、後ろからスッと長い手が伸びてケースを掴む。
驚いて振り向くと、燃えるような赤毛で背の高い青年がエマを見下ろしていた。
「はい、どうぞ。かわいいお嬢さん」
「あっありがとうございます…あの」
「ん?」
「近いです…」
「おっと失礼」
赤毛の青年は一歩距離を取り、エマの顔をまじまじと見つめると、残りの荷物を見てニコッと笑う。
「僕はフレッド・ウィーズリー。かわいいお嬢さんのお名前は?」
「私はエマ・クジョウです。どうぞお見知り置きを」
「よろしくエマ。残りの荷物も下ろしてあげるよ」
「いえ、そんな」
「君じゃ届かないだろう?」
「僕が彼女を手伝うから気にしなくていいぞ、ウィーズリー」
声のする方を見ると、フレッドと名乗った赤毛の青年はあからさまに嫌な顔でドアにもたれかかっていたドラコを見た。
「君、こいつのガールフレンド?うぇ」
「そういうのでは…」
「――そうだ。だからもう小汚い尻尾を振って彼女に近づくなよ」
「言われなくてもそうするさ」
フレッド・ウィーズリーはため息を吐きながら手を振ってそそくさとコンパートメントから出ていく。
ガールフレンド―――つまり彼女と言われ、急に気まずい空気が漂った。
何か言わなければ、とエマが口を開いて何かを言うより先に、ドラコが言った。
「ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほどたくさん子どもがいるんだ。あんな下等な連中と関わるべきじゃない」
「そんなこと言うべきじゃないわ」
ふくろうが入った籠を下ろす手がピタリと止まり、少し驚いた顔でエマを見るドラコ。
エマははっとして口をつぐむ。
「口を出すべきじゃなかったわね。ごめんなさい」
「…いや、気にしない」
怒らせてしまったかと少し心配したが、荷物を下ろす手を動かし始めたドラコを見てほっとする。
入学早々同級生と揉めるのは非常にまずい。
「じゃあ、行こうか」
「あの、荷物を下ろしてくれてありがとう。でも、自分の物は自分で持つわ」
「いや、僕が持って行ってあげるよ。君の腕は少しぶつかっただけでも折れそうだ」
ドラコは少し小馬鹿にするように笑った。
昨日ぶつかって転んだときは心配するどころか攻め立てていたのに、調子のいい人。と思ったが、エマは黙ってドラコについて行く。
機関車を出ると、彼より大きくてガッチリとした筋肉質の少年二人が待っていた。
「えっと?」
「あぁ、こっちがクラッブでこっちがゴイル」
「どうも、はじめまして。私はエマ・クジョウ。以後お見知り置きを」
簡単な挨拶をしてふわりとお辞儀すると、クラッブとゴイルの二人はわかりやすく頬を赤く染める。
おい。というドラコの低い声に目を向けると、猛烈に不機嫌そうな顔をしてこちらを見ていた。
「どうかした?」
「…なんでもない」
フイッとドラコが目を背けたちょうどその時、機関車から丸眼鏡の男の子が降りてきた。
どこかで見たことあるような顔だな…と記憶を掘り返していると、ドラコが先ほどとは対照的な満面の笑みを浮かべて彼の方へ歩いていく。
いつの間にかエマの荷物を持たされているクラッブとゴイルが彼に着いていったため、彼女も彼らの後を追った。
「ポッター、気絶したんだって? ロングボトムは本当のことを言ってるのかな? 本当に気絶なんかしたのかい?」
ドラコは肘で茶髪パーマの女の子を押しのけ、ポッターと呼んだ男の子と城の様な学校への石段との間に立ちはだかる。
ポッター…あぁ、ハリー・ポッターか。とエマは日刊預言者新聞で見た顔だと思い出す。
「失せろ、マルフォイ」
「ウィーズリー、君も気絶したのか?あのこわーい吸魂鬼で、ウィーズリー、君も縮み上がったのかい?」
どんどん大きくなっていくドラコの声に、彼は誰にでもあの様な態度をするのかと少し安心した。
それと同時に、会う人会う人が皆同じ嫌な顔をする理由がわかった。
「どうしたんだい?」
穏やかな声がした方を見ると、白髪が多くて若い教員と思わしき男性が次の馬車から降りてきたところだった。
ドラコは横柄な目つきで彼をじろじろ見ている。
「いいえ、何も―えーと――先生」
その声には微かに皮肉が込められていた。
エマたちの方を向いてにんまり笑い、ドラコは学校への石段を上った。
やっぱり感じの悪いひとだ。