正面玄関の巨大な樫の扉を通り広々とした玄関ホールに入ると、松明で明々と照らされ、上階に通ずる壮大な大理石の階段があった。
右のほうに大広間への扉が開いており、生徒たちの流れに着いて中に入ると、天井には魔法で今日の夜空と同じ雲の多い真っ暗な空が広がっていた。
「綺麗…」
「ミス・クジョウ!君はこっちだ」
ビクッと肩が跳ねる。
自分を呼んだ、肩まである真っ黒の髪を真ん中で分けた男性教員の方へ駆け寄ると、先生方に背を向ける恰好で一列に並ばせた新入生の最後尾へ入れられた。
幸い背があまり変わらなかったため浮かずに済んだが、先ほどの男性教員が椅子の上に汚らしいとんがり帽子を置いたのを見てエマは顔を青くした。
こんな大勢の前で組分けされるなんて…。
その後の帽子の歌など耳に入らなかった。
どんどん新入生たちが各寮に分けられていき、あっという間にエマの番がきた。
異国の貴族だとか、ドラコ・マルフォイのガールフレンドだとか、そんな大きめのヒソヒソ声も今のエマの耳には届かない。
椅子にちょこんと座ると、帽子が深く被さって視界が真っ暗になった。
だが、それがむしろ良かった。これで大勢の人の視線を気にせずに済む。
早く終わってほしいと願うが、帽子はなかなか寮が決められないらしい。
「あの、早く終わらせてもらえるかしら…」
「ふむふむ…これは……スリザリン!」
帽子がやっと寮を決めた。
歓声に迎えられスリザリンのテーブルへ向かうと、見知った顔がいつもの小馬鹿にするような笑顔で隣の席を開けた。
開けてくれたからには行くしかなく、エマはドラコとゴイルに挟まれて小さくなって座る。
「やあ、やっぱり君はスリザリンだったね」
「私はハッフルパフが良かったのだけど」
「はぁ?あんなとこのどこかいいんだ」
信じられないという目でこちらを見るドラコとドラコの隣で自分を睨みつける女の子を尻目に、エマは小さくため息をついた。
この先上手くやっていけるかしら…。
ダンブルドア校長が挨拶をするために立ち上がったのを見たドラコは、校長の悪口を並べ始めた。
だが、エマはドラコの話ではなくダンブルドア校長の話に耳を傾ける。
「ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知ってのとおり、わが校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ。
吸魂鬼たちは学校への入口という入口を堅めておる。あの者たちがここにいるかぎり、はっきり言うておくが、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。吸魂鬼は悪戯や変装に引っかかるような代物ではない。―――『透明マント』でさえムダじゃ」
そこまで聞いて、エマはちらりとドラコの方を見た。
ダンブルドア校長の悪口を言っていたかと思えば、次は吸血鬼を見て気絶したハリー・ポッターの話で周りのスリザリン生と盛り上がっている。
新任の先生の紹介に入り、『闇の魔術に対する防衛術』の担当で機関車の前で見た男性教員――ルーピン先生が紹介された。
そして次に『魔法生物飼育学』の担当でルビウス・ハグリッドという巨体で髭を纏った男性が紹介された。
はあ!?というドラコの声は大きな拍手にかき消される。
目の前の金の皿、金の杯に突然食べ物と飲み物が現れてからも、彼の不満は止まらなかった。
「なんであんな野蛮人に授業を教わらないといけないんだ?あんなのを教師にするなんて、あの校長はやっぱり狂ってる。父上に言って退職させてやる」
周りの生徒も口々に同意し、ドラコを持ち上げる発言をする。
エマはバランスよく食べ物を皿に盛ると、彼らの会話をBGMにして静かに食事を続けたのだった。