断ち難き愛染

04


 かぼちゃタルトが金の皿からなくなる頃、ダンブルドアが皆寝る時間だと宣言した。
 ぞろぞろと部屋へ戻っていく他のスリザリン生について行こうと席を立つと、先ほどの真っ黒な髪を真ん中で分けた男性教員が茶髪ロングの女子生徒を連れてエマの前にきた。

「ミス・グリーングラス、ミス・クジョウを部屋まで案内してやりなさい」
「わかりました、スネイプ先生。同室のダフネ・グリーングラスよ。よろしくね」
「はじめまして、エマ・クジョウです。どうぞよろしく」

 ふわりとお辞儀すると、真っ黒な髪の男性教員もといスネイプ先生は、くれぐれも問題は起こさないように。と言って去っていった。
 ダフネは、こっちよ。と優しい笑顔で言い、スリザリン生の後を追う。
 大理石の階段を降りて地下へ向かっていると、前を歩いていたダフネが右隣に並びエマに耳打ちした。

「ドラコのガールフレンドって聞いたけど、本当?」
「いいえ…あれは冗談みたいなもので…」
「やっぱりそうよね。グリフィンドールなんかの噂が本当なわけないもの」

 機関車で出会ったフレッドから噂が流れているのだとすぐにわかったが、エマはそんな噂には興味がなかった。
 数日も経てば皆忘れるだろうな。と思いながら長い階段を降りると、生徒たちが並ぶ廊下の先には湿ったむき出しの石に隠れた扉が開いていた。

「ここで合言葉を言うのよ。今の合言葉は――狡猾。忘れることはないだろうけど、2週間ごとに変わるからそれだけ気をつけてね」

 スリザリンのことはまだよく知らなかったが、この合言葉からこの寮の雰囲気が何となくわかった。
 扉を抜けると、低い天井から丸い緑がかったランプが鎖で吊るされている細長く薄暗い部屋に入った。
 壁と天井は粗く削られた石壁で、大きな暖炉には壮大な彫刻が施されている。
また、この部屋は湖の地下に所在しているらしく、窓には空ではなく水中が映っていた。
 日本では見たことのない造りの内観にエマは少し驚き、まるで旅行客のように周りを見渡す。

「ここが談話室よ」
「素敵、なかなか風流ね」
「フウ…?」
「ここは観光地じゃないぞ、エマ・クジョウ」
「あらドラコ、今エマを案内してたところなの」
「ふーん。そんなにこの部屋が気に入ったのかい?君が僕の家を見たら腰を抜かすだろうな」
「そう、ぜひ拝見したいわね」

 エマが小さく笑うとドラコは面白くなさそうに口を尖らせたが、またすぐ小馬鹿にするような笑顔で口を開いた。

「明日は僕が校内を案内してあげよう」
「あら、そうなの?私予習したい教科があったから助かるわ。エマ、それでも大丈夫?」
「えぇ、構わないわ。ここまで案内してくれてありがとう」

 正直ドラコが案内してくれるというのには不安があったが、ここで断るのもおかしな話だ。

「じゃ、また明日」
「えぇ…おやすみなさい」
「おやすみドラコ〜……ねえ、彼ってハンサムじゃない?ああ見えて頭もすごくいいのよ?」
「あら、そうなの。顔は美形だと思うわ」
「グリフィンドール生にはよく意地悪してるけど、スリザリンの仲間には優しいとこもあるのよ?」
「私もよくからかわれてる気がするのよね。新顔だから嫌われてるのかしら…」
「そんなことないと思うわよ」

 まあ、嫌われていてもあまり気にしないのだけど…。
 話が終わると、ダフネは女子寮までエマを案内した。
 ここよ。と言って扉を開け、緑の絹の掛け布がついたアンティークのベッドが3つ置かれている丸い部屋に入る。

「ミリセントは…もう寝ちゃったみたいね。荷物とスリザリン生の制服はベッドの隣に置いてあると思う。時間割は明日配られるはずよ」
「色々ありがとう、ダフネ」
「わからないことがあれば何でも聞いて!これから仲良くしましょうね」
「こちらこそ、仲良くしてくれると嬉しいわ」

 ギュッと握手を交わし終わると、ダフネはパジャマに着換え始める。
 エマも荷物からパジャマと歯磨きセットを取り出した。

 寝る準備も終わり、荷物を全てキャビネットに仕舞って布団に入る。
時計を見ると既に21時半を過ぎていた。
 入学初日はやっぱり疲れるなぁ。と目を閉じると、エマは気を失うように眠りについた。



Bkm


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