断ち難き愛染

06


 教室に入るともうほぼ全員席についていたが、騒がしかったのが幸いして目立つことはなく、ほっとして一番後ろの席についた。
 ドラコがエマの隣に座ると同時に、前の席に座っていた褐色の肌で綺麗な顔立ちをした少年が振り向き、エマの机に肘をついた。

「やあ転校生、俺はブレーズ・ザビニ。隣の暗い奴がセオドール・ノット。よろしく〜」
「はじめまして、エマ・クジョウよ。こちらこそどうぞよろしく」
「てかすげーかわいいね。組分けのとき君を見てからどうしても話してみたくてさ」
「ありがとう。お世辞が上手ね」
「お世辞なんかじゃないって!」

 爽やかな笑顔でぐっと身を乗り出すザビニにエマが苦笑すると、セオドールと紹介された少年が横目でエマの方を見る。

「どこから来たの?」
「アジアにあるマホウトコロというところからよ」
「ああ!知ってる、クィディッチが超強いとこだろ?エマもやるの?」
「いいえ、私はしないわ」

 その時、前に座っていた女性の先生がコンコンコンと杖を机に叩いた。
 じゃ、また後でね。とウインクすると、ザビニは前を向いて姿勢を正す。
 こっちはアジアと違って歯が浮くことも恥ずかしがらずに言える人が多いようだ。

「 『古代ルーン文字学』を担当するバスシバ・バブリングです。この授業に興味を持ってもらえて嬉しいわ。では早速1ページ目を開いてください、まずは古代ルーン文字の歴史を簡単に学んでいきましょう」

 ドラコは開いた教科書を黙って真ん中に寄せると、頬杖をついてつまらなそうに窓の外を眺めている。
 イメージ通り不良なのかな。と思いながら持ち歩いている小さめのメモ帳を開いて教科書に視線を落とすと、文章は所々赤い線が引かれ、要点が書き込まれていた。
それを参考にして授業を受けると、とてもわかりやすくまとめられていることにも気づく。
 ダフネがドラコは頭がいいと言っていたが、正直半信半疑だった。これは意外な一面だ。

 長い授業が終わると、生徒がぞろぞろと扉から出ていく。
 エマはメモ帳を制服にしまうと、教科書をパタンと閉じてドラコに返した。

「見せてくれてありがとう。助かったわ」
「いいよ。この授業、そんなに面白かったかい?」
「え?」
「途中笑ってたから」
「あ…えぇ。そうね、わりと」

 言われて初めて自分が笑っていたことに気づいた。
いったいいつ笑っていたのだろう…やっぱり彼の意外な一面を見つけた時だろうか。
 ドラコは不思議そうな顔でエマを見つめると、いつもの小馬鹿にするような笑顔ではなく、ふっと小さく微笑んだ。

「エマの笑顔は花が咲いたみたいだ」
「……ありがとう…?」
「あー…これ、預かってた君の時間割。次は呪文学だ。一旦教科書を取りに行ってから向かおう」

 時間割が書いた紙を渡して先を歩くドラコに早足でついて行くと、あっという間にスリザリンの談話室に到着する。
 エマは教科書を部屋まで取りに行き時間割をベッドに放ると、急いで談話室へ向かった。
戻ると、少し息の乱れたエマを見たドラコが吹き出すように笑う。

「そんなに急がなくても、まだ時間はあるよ」
「そうだけど…待たせるのは悪いから」
「君っていつもそんなことを考えてるのかい?まるでパフスケインみたいだ」
「パフスケイン…?」

 思わず眉をひそめるエマ。
 それを見た彼は、ごめんごめん。といたずらっぽく笑うと、談話室の扉を開けて脇にずれた。
 その流れるようなエスコートに少しテンションが上がる。
 日本で住んでいた家には雇われ執事がいたが、母についていたし、一度紹介されたボディガードとはほぼ会ったことがないからだ。

 ありがとう。と言って先に廊下へ出るエマの後に続くと、ドラコは先ほどよりも少しゆっくり歩いて教室へ案内してくれた。



Bkm


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