断ち難き愛染

07


 教室に入ると、やはり席はほぼ埋まっている状態だった。
 部屋をきょろきょろ見渡して空いている席を探していると、ダフネが右端の席でひらひら手を振っているのが視界に入る。

「私、ダフネのところに行くわね」
「あぁ。…あの、エマ」
「うん?」
「昼食、よかったら一緒に食べないか?」
「えっと、今日はちょっと…」

 朝の出来事を思い出して目が泳ぐ。
 ドラコは、そうか。と短く応えてクラッブとゴイルのいる席の方へ足早に去っていった。
 エマが席につくと、ダフネは待ってましたとでも言うようにぐっと詰め寄り、少し興奮した様子で口を開く。

「ねえ、何話してたの!」
「何って、昼食に誘われたから断っただけよ」
「え!?なんで断ったの!」
「朝食を山盛りにされたんだけど、またされると困るから…」
「そのこと言ったの?」
「いいえ?言ってないわ。言う必要もないし」
「うぅ…エマって、見かけによらずシャイよね…」

 大げさに息を吐くダフネに、エマは小首を傾げる。
 たしかに私は思ったことや言いたいことをあまり口に出さないが、今回のことを言わなかったのは何がまずかったのだろう。

「言った方がよかったかしら…」
「うーん…あのねエマ、ドラコはあなたと仲良くなりたいのよ。だからもうちょっと気を許してあげてもいいと思うの」
「でも彼、私のことパフスケインみたいって言ったのよ?」
「それはちょっと…ひどいけど、他には?」
「花が咲いたみたいな笑顔とか、髪と瞳が真冬の夜空みたいとか…」

 それを聞いた途端、ダフネの頬が真っ赤に染まった。
 すぐに授業が始まりエマは教科書を開くが、彼女は止まらず小声で話を続ける。

「ドラコって意外とロマンチストなのね。はぁ…考えてみれば、ドラコが他人の面倒をみるって自分から言うなんて聞いたこともなかったし……」
「??」

 うーん?と唸るエマ。
 チラリとドラコのいる方へ視線を向けると、ちょうど目が合って反射的に反らしてしまった。
まずかったかな…。っと思いながらもう一度彼を見たが、目が合うことはない。

 授業が終わり、エマとダフネは昼食を食べに大広間へ向かった。
 ドラコは昨日夕食でそばにいた女の子と、クラッブとゴイルと共に少し離れた所に座っている。
 ドラコの隣に座った女の子がエマを見てキッと目つきを鋭くすると、エマは目をパチクリさせてダフネの方を見た。

「私あの子に何かしたかしら」
「パンジー・パーキンソン?彼女、ドラコに近づこうとする女の子には皆ああだから気にしなくていいわよ」
「私近づこうだなんて思ってないわ…やっぱり彼とは距離を保った方がいいと思うのだけど…」
「だめーー!それじゃあドラコが……か、可哀想よ!」
「???どういうこと?」
「彼、きっと女友達がほしいんだわ」
「パーキンソンさんは?仲良さそうよ?」
「あの子は友達というより部下みたいなものだから…」
「部下…?」

 たしかに、クラッブとゴイルはドラコの後ろに護衛のようにしてついていることが多い。
だが、パンジー・パーキンソンという子は彼らとは少し違うような…。
 そんなことを考えていると、頭がクラクラして気分が悪くなってきた。

「エマ?どうしたの?」
「なんだか気分が悪くて…」
「少し顔が赤いわね…熱があるのかも」
「どうかしたのか?」

 後ろを振り向くと、ドラコが眉をひそめ、心配そうな顔でエマを見ていた。

「エマが体調悪いみたい。…ドラコ、医務室へ連れてってあげてくれない?」

 それを聞いたパーキンソンは眉をひそめてギュッとドラコの腕を掴み、キッとダフネを睨みつける。

「なんでドラコが転校生の付き添いなんかしなくちゃいけないの?ダフネ、ドラコが優しいからって面倒を押し付けるのはやめなさいよ!」
「そんなこと思ってないわ!」
「――僕がエマの面倒をみるって言ったんだ。もう授業が始まる。おまえたちは先に行っててくれ」
「な!?………わかったわよ」

 ドラコに連れられて大広間を出る。
後ろからの視線をひしひしと感じ、頭痛が増した。
 廊下で足を止めると、彼は立ち止まってエマの顔を覗き込む。

「どうした?吐きそうか?」
「…ごめんなさい。迷惑かけて」
「迷惑なんて思ってないよ。ほら、早くしないと僕が授業に遅れる」
「…えぇ。ごめんなさい」

 医務室へ着くと、灰色の髪をした女性が出迎えた。
 ドラコをみた女性は少し驚いた顔をしたが、顔の赤いエマを見てすぐに医務室のベッドへ座らせる。

「きっと転校初日で疲れが出てしまったのね」
「あの、ご婦人」
「ポピー・ポンフリーですよ、ミス・クジョウ」
「ポンフリー先生、授業へはいつから出られますか」
「明日には出られますとも。安静にしていればね」

 そう言ってポンフリーはエマに苦い液体を飲ませ、ベッドに寝かせた。
 ドラコを見ると、あら、まだいたんですか。あなたは元気なのですから早く授業にお行きなさい。と言い彼を医務室から追い出す。
 疲れを吐き出すように深呼吸をして目を閉じると、エマは気を失うように眠りについた。



Bkm


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