独占欲

 口元に手を当てて何かを考えている五条の隣で詩織は頭の中が疑問符でいっぱいになり困惑した表情で目の前の二人を交互に見る。

「…悟、なぜ彼女を連れて来た?」
「そりゃあ、見込みがあるからですよ。詩織は自身と他人の意識を操作できる。記憶の覗き見までできれば組織犯罪相手でも楽になります」
「だが術式使用の自覚がなく呪霊も見えない。オマエの報告内容から周囲に害を成すことはない様だが、ここで1から学ばせるのか?」
「そこは僕がサポートしますよ、付きっきりでね。連れてきたのは僕ですし、詩織が術式を使用したのか確認できるのも僕だけですから」
「オマエなぁ…」
「上にはまだ話していませんが、貴重な精神系呪術師です。まあ十中八九了承するでしょう」

 心ここにあらずといった顔で全く意味のわからない会話を聞いていると、五条さんは明るい笑顔で私の肩に長い腕を伸ばした。

「良かったね詩織。僕が四級相当の呪術師に付きっきりなんて前代未聞だよ」
「そうなんですね。ちょっと一度家に帰って考えさせてください」
「まあ心の準備は大事だよね。家まで送るよ」
「大丈夫です一人で帰れます」
「帰り道わかんないでしょ?」
「大丈夫ですグークルマップで調べるので全く問題ないです」
「一人じゃ危ないよ」
「大丈夫ですタクシー呼ぶので」
「いいよもう勝手についてくから。…ちょっとなに110番しようとしてんの!」
「ちょっ!!何するんですか!返してください!」
「二人共、そういうのは外で___」

 五条と夜蛾、二人の動きが何かを察した様に一瞬止まり、顔を見合わせる。

「あのー…スマホ…」
「詩織、ちょっと外に出るよ」
「はあ…」

 スマホを取り返すのは諦め、トボトボと彼の後ろを着いて行く。大きな石の鳥居の近くまで来ると、五条さんはピタリと足を止めた。
何だろうかと彼の後ろからひょこりと顔を出すと、そこには私が仕事で見慣れている人物が立っていた。

「内山さん?」
「相川先生、だめじゃないですか、変な男に着いて来ちゃぁ…。さあ、近くに車も停めてあります。送りますよ」
「あ、ありがとうございます。…でも、私ここに来るなんて言ってませんよね?どうして」
「何言ってるんですか。朝に言っていましたよ」
「そうでしたっけ…?すいません、ご心配をおかけして…」

 内山さんの方へ歩き出そうとすると、五条さんの長い腕が私の行く手を阻んだ。困惑して彼の顔を見上げると、驚くほど冷たい表情で内山さんの方を見ている。

「詩織、君のスマホにストーカー御用達の追跡アプリが入れられていた。こいつはそれを使ってここまで辿り着いたんだよ」
「……え、と…」
「相川先生、そんなチャラチャラした奴の言ってることを信じるんですか?僕、先生のスマホなんて触ったことあります?」
「君、式神使いでしょ。式神にやらせれば、そんなこと簡単だよね」
「…相川先生、そんな頭のおかしい奴に関わっちゃだめだ。さあ、早くこっちに…!」
「詩織」

 五条さんが私に顔を向けたその時、 蜈蚣むかで!!!と叫ぶ内山さんの声が聞こえ、直後に大きく黒い影が視界いっぱいに現れた。

「汚らわしい害虫がッ!!!相川先生に触るな!!!」
「害虫?コレのこと?」

 水風船が割れる様な音が耳を突き、五条さんの拳がめり込んだ所からムカデの形をしたモノの体が飛び散る。
 一体何が起きた?頭が状況を処理しきれない。声すら出せず目を見開いて視界に映る光景をただ見ていた。

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