「す__グフッ!!」
隣にいたはずの五条さんは内山さんを背後から蹴り飛ばしたかと思うと、彼が顔面から派手に転んだ所を上から片脚で抑えつけた。内山さんは苦痛に歪んだ顔で五条さんを睨みつけるが、私が目の前にいることに気づくと指が何本か折れた弱々しい手をこちらに伸ばす。
「何の目的で詩織に近づいたのかな?あぁ、動かない方がいいよ。折れた肋骨が肺に食い込んで痛むから」
「相川先生…」
「内山さん…どうしてこんなこと…」
「君が、好きだ。…呪術なんてもう使わないつもりだった。でも、君はよく呪霊に狙われるんだ…だから、僕が守ってあげるしかないじゃないか」
「詩織、それはこいつが勝手にしたことだ。君が気に病む必要なんてない」
「……気に病んでなんていません。ただ、私が彼をそうさせてしまったことには変わりない。内山さん、私、ここで呪術を学びます。あなたに守られなくてもいいように、強くなりますから」
内山さんが涙を堪える様に唇を噛みしめ小さく頷くと、五条さんは彼を立たせていつの間にか集まっていた黒いスーツの人間に明け渡した。
「相川先生、あなたは呪霊も人間も異様なほど惹きつける様だ。お気をつけて」
深くお辞儀をし、連れて行かれる内山さんの背中をぼーっと見つめる。色々な事がありすぎてもうしばらく何も考えたくない。
「最後のあれ、ストーカーの自虐?」
「はぁ、あなたは元気そうですね…」
「あんなのロボット掃除機のボタン押すより労力かかんないよ。それより、今日はもう疲れたでしょ。寮あるけど泊まってく?」
「いえ、これからやることが沢山あるので」
「じゃあ家まで車で送ってあげる。今にも倒れそうだし」
そう言って震えている足を見ながら笑う五条さん。いつからだろう、自分では全く気づかなかった。彼に手を取られ、黒いセダンの助手席に座る。五条さんは運転席に乗り込むと、私のシートベルトを確認して車を出した。
「五条さん、最初から私を呪術師にしようと?」
「違うよ。君の術式を見たのは朝タオル一枚で出てきたときが最初。僕の存在を一時的に忘れる術式を自分にかけてた」
「ぅっ……。あれ、途中で気づいたなら何で初対面からあんなに良くしてくれたんですか?」
「そりゃ、君があまりに僕のストライクど真ん中だったから」
「それも内山さんの言ってた異様なほど惹きつけるとかのせいですか?」
「そんなものがあったとして、僕に効くわけないじゃ〜ん失礼だな〜」
ちょっぴり不機嫌そうに頬を膨らませる五条さんを見て安堵する。他人の心を奪うなんて醜い呪い、そんなものを自分が無意識にでも使っていなくて良かった。青々とした木々が次々と視界に飛び込んでは消えてゆく。あー今日はなんだがすごく疲れた。明日は編集部に次の出版で最後にする趣を話して…内山さんの事、何て説明しようかな…___。